雪組公演
ミュージカル・プレイ 『凱旋門』-エリッヒ・マリア・レマルクの小説による-
ショー・パッショナブル 『Gato Bonito!!』~ガート・ボニート、美しい猫のような男~
観てまいりました。小生的感想です。
『凱旋門』
実際始まってしまい、そこに愛する人々が懸命に作り上げたものがあれば、それを否定することなどなかなかできはしません。でも小生は、そこに違った、より良いものがあったかもしれないことを、忘れないでいたいと思います。
パリのアパルトマンの一室で、終始優柔不断だった主人公が、観客に聞かせたかった?雄叫びを上げるのを観るのではなく、例えば死を前にしたミミと、悔恨にうちひしがれたロドルフォの、美しい二重唱を見たかった。それができたはずだったことが悔しかったです。
お芝居は、やはり観たいお芝居ではなかったです。せっかくの機会と雪組生を使うのはもったいないと思いました。謂わば轟さんのためだけのお芝居ですし┅。
雪組生はきちんと作って演じてました。でも時代に合わない。今あえて演じるべきテーマではまったくないです。
トップコンビにも、他の組子さん達にも、本来の魅力をセーブせしむる素材だと思います。
とにかく轟さんに合った素材。ですが、今の轟さんへのあてがきでない分、彼女すら充分に魅力を発揮できてはいなかったと思います。
多くのファンを落胆させ、無理を重ねて実現にこぎつけたのだけれど、懐古の思いに満たされたファンの方が少なからずいらっしゃるのは当然として、それ以外の方にとっては、「上手なお芝居」以外の何物でもなかったのではないでしょうか。今の雪組に合った、もっといいお芝居があったはずです。
乱暴にくくりますと、このお芝居の初演時の観客のメーンストリームは、多感なお年頃にフランス映画に親しんだ年代のファンが、少し年齢を重ねられてから、その雰囲気を体現できる轟ラヴィックに出会われ心を動かされた。というものであったと思います。
(乱暴続き)フランス映画だから、出てくる人も普通の人ばっかりだし、主人公は優柔不断、ヒロインも勝手な女性に過ぎません。事は起こるけれど、個人の周りのことに過ぎず、小さな事件は大きなテーマにはなり得ない。こういう描き方では、戦争すらお芝居を暗くするための一要素に過ぎず、他方、戦争に関係ないところで主人公は右往左往し、結局その優柔不断さが原因で、ヒロインを死なせてしまう。そして、かき抱くわけでもなく、その弔いも人に任せ去ってしまう。この人は何を考えているのか何だか分からず、(小生にとって)お芝居のキャラクターとしては全然魅力的ではありません。
付き合わされる雪組トップコンビ(望海風斗、真彩希帆)や2番手スター(彩風咲奈)も、脚本の上では「フランス映画」の構成要素であることを優先して描かれています。ある種リアルな造形であり、ただしそれは同じく魅力的ではありません。
例えば、今わの際のきいちゃんジョアンは、どこまでも自分のことだけ言います。リアルにはそうでしょう、でもここではラヴィックに対する感謝や気遣いを言わせるのがしっくりくる。またラヴィックには楽しかった思い出を語らせるのが宝塚歌劇としては普通でしょう。それをあえてしなかったのは、それがおそらく原作に基づく演出であり、轟さんに合ってもいると柴田さんが考えられたからでしょう。それが効を奏し、結果概してお客さんの入りが良くなかった轟さんの公演の中でスマッシュヒットとなっただけで、一般的な「良い公演」となったかというと、そんなことは無いと思うのです。
ましてや時代に合わず、贔屓の演じるお役に感情移入できないこのお芝居は、今の雪組ファン宝塚ファンのメーンストリームの心に刺さる「良い公演」ではないと思います。
轟さんは、凱旋門を境に一気に人気トップさんになったかと言えば決してそんなことはなく┅、その後は今に至るまで人気トップ(オブトップ)さんになられることはありませんでした。そのことは、むしろこの演目がいかに独特で、当時の彼女にぴったりはまったか、ということを示していると考えます。
トップにこれだけ似合った演目であれば、その意味においては「名作」であったのは間違いないと思いますが┅。
今回は、いろんな意味でそうではありません。ですから「名作」たり得ない。雪組生の頑張りには申し訳ないですが、小生はそう思います。
しつこいですが繰り返します。
実際始まってしまい、そこに愛する人々が懸命に作り上げたものがあれば、それを否定することなどなかなかできはしません。でも小生は、そこに違ったより良いものがあったかもしれないことを忘れないでいたいと思います。
そうでないと、またこの間違いが繰り返されるのではないかと考えますので┅。
『Gato Bonito!!』
藤井さんらしい、ちょっとセンセーショナルで(上品でない)テイストと、内容的にそれなりのバリエーションを持ったショーだったと思います。楽しめました。
小生にとっては、トップコンビの「コパカバーナ」の美しい掛け合いと、デュエットダンスがクライマックスでした。
もう一度観劇します。こちらは次も楽しめると思います。