よくある質問で「初めての登山はどこですか?」と聞かれた場合、自分は「燕岳」と答える。
今から約25年前、まだ松本に下宿しながら大学生してた頃にバイト先の松本空港の整備士さんに誘われて燕岳に登ったのが最初の登山である。
快晴の10月の三連休に非常に軽いノリで、確かジャージとスニーカーみたいなナメた格好で登った記憶がある。
燕山荘に泊まって夕日や御来光もバッチリ拝んで、今思えば山も天気も宿も最高のコンディションだったと思うが、20歳そこそこの若者にとって「燕岳最高!登山万歳!」みたいな感動はなく、「あー早く下山してゲームしてーな」みたいな感じだったと思う。
その時に感じたことを列挙すると…
- 水洗トイレじゃないし臭い!
- 飲み物が高い!
- 布団が湿っぽい!
- 隣の人のいびきがうるさい!
- 風呂に入れない!
- 消灯が早すぎ!
- テレビがない!
みたいな登山をナメ切ったバカ学生でした。
(もちろん燕山荘は日本で1位2位を競う素晴らしい山小屋であるということは言うまでもない)
その後本格的に登山を始めた結果、改めて燕岳の良さを知ることとなった。
今回懺悔の意味も込めてこの山のすばらしさを語らせてもらいたい。
◆白い山
燕岳は花崗岩で構成された山で夏でも白い山肌がとても美しい。
北アルプスでこのような白い山肌を見せてくれるのは燕岳~餓鬼岳の区間くらいではないだろうか。
花崗岩の白い山肌に白い雪が積もり夕日が照らす
燕岳~北燕岳までの白砂ロードも素晴らしい
あまり人が歩かないのがもったいない
◆コマクサ
燕岳はコマクサの山でもある。
北アルプスの女王と異名をもつ燕岳には高山植物の女王と言われるコマクサが多く群生している。
高山植物の女王、コマクサ
◆奇岩群
燕岳には有名な奇岩が多い。花崗岩が削られてできたものなのだろう。
「メガネ岩」「蛙岩」「イルカ岩」「ゴリラ岩」など。
これらと一緒に写真を撮ることでインスタ映えを狙う山ガールが多いとか(テキトー)
メガネ岩
蛙岩
イルカ岩
◆山小屋
燕岳の人気の陰には山小屋の存在が大いに関係している。
「燕山荘」と「合戦小屋」である。
燕山荘は冬にはクリスマスパーティーが、正月には餅つきが、その他にもご主人のアルプホルン演奏会といった心温まるイベントが盛りだくさんだ。合戦小屋は宿泊こそできないがなんといっても松本(旧波田町)の下原スイカが有名。夏の合戦尾根でヘトヘトになった体を癒してくれるだろう。
燕山荘。クリスマスや年末年始も営業している珍しい小屋だ。
合戦小屋のスイカに癒される
◆眺望
燕岳は北アルプスのほぼ真ん中に位置しているため北も南も眺望がすばらしい。
槍ヶ岳や立山はもちろん、富士山、南アルプスや松本盆地の夜景なんかも存分に楽しむことができる。
富士山の朝焼けと松本の夜景
荒涼とした冬の槍ヶ岳と北アルプス
立山と剱岳
◆テント場
燕山荘の前にテント場がある、が、人気のわりにそれほど広くないためすぐ一杯になってしまう。
冬は吹き溜まりになる上に風も強いので実質的にテン泊は厳しいだろう。
(実際自分もテントを張ろうとして断念した経験がある)
燕岳のテント場
◆紅葉
燕岳はあまり紅葉のイメージはないが、実は東沢あたりを中心とした落葉松の紅葉が素晴らしい。(と思っている)
燕岳~北燕岳へ縦走し、そのまま東沢から中房温泉に下れば周回ルートとなって合戦尾根ピストンより楽しめると思う。
東沢の落葉松の紅葉
◆山スキー
はっきり言ってこの山は雪も少なく樹林も密集しているためスキー向きではないと断言できる。
また上述の通りクリスマスや年末年始も普通に山小屋が営業しているためトレースもバッチリでラッセルもほとんどない。
そう考えるとわざわざスキーを使って登る必要はないように思えるが、年間通して2月だけは山小屋が営業しておらずトレースも一切ないためスキーがないと登れない。
もしこの時期に燕岳を目指そうという方は是非山スキーを使ってチャレンジしてみることをお勧めする。
冬期登山も同様だが宮城ゲートから10km以上林道を歩く必要がある
それなりに滑りやすい斜面もあるが基本的に密林なので滑走向きではない
ノートレースなのでスキーがないと少なくとも単独では登頂は厳しい
上部の尾根だけは気持ちよく滑走できる
自分もそうだったが、これから登山を始めようとしている方には最もお勧めできる山だと思う。
合戦尾根は北アルプス三大急登と言われているが、第1ベンチ~第3ベンチ、合戦小屋など休憩ポイントや登山者も多いため安心だ。
経験を積んだ登山者にとっては、表銀座縦走コースの起点としても使いやすい。
登山の厳しさと楽しさ、充実感がほどよいバランスでコンパクトに体験できるのが燕岳の良いところだと思う。
休日は若干混みすぎるところが難点だが、また2月の快晴の日を狙って静かな燕岳を狙ってみたい。