南丘喜八郎  月刊日本11月号 【巻頭言】 愛国小児病を嗤う | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

南丘喜八郎  月刊日本11月号 【巻頭言】 愛国小児病を嗤う
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 明治維新を成し遂げ、近代化を推し進めつつあった日本にとって、中露・欧州列強からの自立自存を確実なものにするため、朝鮮の独立は最重要な課題であった。


明治二十七年、東学党の乱を契機に、日清両国が朝鮮に出兵、我が国は清国の勢力を朝鮮半島から除去するため開戦に踏み切った。八月一日、宣戦が布告され、戦端が開かれた。

 開戦の詔勅には、「朝鮮ハ帝国カ其ノ始ニ啓誘シテ列国ノ伍伴ニ就カシメタル独立ノ一国タリ而シテ清国ハ毎ニ自ラ朝鮮ヲ以テ属邦ト称シ・・・」と、朝鮮の独立と改革の推進、東洋全局の平和などが唱われた。しかし、詔勅は名目にすぎず、朝鮮を日本の影響下におくことが最大の眼目だった。

 日清戦争の全局面を指導した外相陸奥宗光は著書『蹇蹇録』に、「曲ヲ我ニ負ハザル限リハイカナル手段ニテモトリ開戦ノ口実ヲ作ルベシ」と記述し、権謀術策の限りを尽して開戦の口実を作ったことを率直に告白している。

 日清戦争の勝敗を分けたのは黄海海戦だった。明治二十七年九月十七日、旗艦松島以下十二隻の我が連合艦隊は丁汝昌率いる北洋艦隊十四隻に正面から戦いを挑んだ。


定遠、鎮遠の巨艦を擁す北洋艦隊に対し、速力・砲数で優る連合艦隊は終始北洋艦隊を圧倒した。激闘四時間余、経遠・致遠・超勇の三艦を撃沈、定遠・鎮遠に大損傷を与えた。海戦は日本側の圧勝に終り、黄海の制海権は我が手に帰した。

 黄海海戦で奮闘した最新鋭の巡洋艦吉野は英国製で、当初清国が購入を予定していたが、西太后が頤和園建設に巨額の海軍予算を流用したため購入できず、明治天皇が六年分の内廷費百八十万円を寄付、これを基金として購入した。吉野が清国に購入されていたら、日本側に到底勝ち目はなかった。(岡崎久彦著『陸奥宗光とその時代』)

 日清戦争では終始、世論と議会が政府よりも強硬で、陸奥は国内世論と国際情勢の調整に苦慮した。殊に黄海海戦で勝利した頃から、好戦的世論は沸騰した。陸奥は著書『蹇蹇録』に記している。

「ここにおいて乎、一般の気象は壮心決意に狂躍し驕肆高慢に流れ、国民到る処喊声凱歌の場裡に乱酔したる如く、将来の欲望日々に増長し、全国民衆を挙げ、クリミヤ戦争以前に英国人が綽号せるジンゴイズムの団体の如く、唯これ進戦せよという声の外は何人の耳にも入らず、この間もし深謀遠慮の人あり、妥当中庸の説を唱うれば恰も卑怯未練、毫も愛国心なき徒と目され、空しく声を呑んで蟄息閉居するのなきの勢いをなせり」

 明治十八年、福沢諭吉は「脱亜論」を発表、「悪友を親しむ者は共に悪名を免かる可らず。我は心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり」と論じたが、日清戦争開戦時に福沢の主宰する『時事新報』は、以下の社説を掲載する。

「幾千の清兵は何れも無辜の人民にしてこれを鏖にするは憐れむべきが如くなれども、世界の文明進歩のためにその妨害物を排除せんとするに多少の殺風景を演ずるは到底免れざるの数なれば、彼らも不幸にして清国の如き腐敗政府の下に生れたる運命の拙きを自ら諦むるの外なかるべし」

 日清戦争を通じ国論は主戦論でほぼ固まった。日露戦争では反戦論を説く内村鑑三も『国民之友』に「日清戦争は義戦にして、日本は東洋に於ける進歩主義の戦士なり」と記した。だが、日清戦争は決して義戦ではなかった。 


陸奥は「余はもとより朝鮮内政の改革を以て政治的必要の他何らの意味無きものとせり。また毫も義侠を精神として十字軍を興すの必要を視ざりし故に、朝鮮内政の改革なるものは、第一に我が国の利益を主眼とするに止め、之が為敢えて我が利益を犠牲とするの必要なしとせり」(『蹇蹇録』)と記している。

 日清戦争は我が国の勝利に終り、下関で講和談判が行われ、朝鮮を完全な独立国とし、遼東半島・澎湖諸島・台湾の割譲、賠償金二億両を清に認めさせた。二億両は巨額であり、当時日本の国家予算の約三倍半だった。談判中、松方正義蔵相は賠償金十億両を要求し、野党改進党は山東・江蘇・福建・黒竜江の四州を領有すべしと、常軌を逸した主張をした。
 


愛国心は極めて危いものだ。統治者が巧みに利用できれば国家戦略を推進できるが、時に愛国心は統治行為と激突し、国家存立すら誤らせる、実に危険極まりないものである。
「徒に愛国心を存してこれを用いるの道を精思せざるものは、往々国家の大計と相容れざる場合あり」(『蹇蹇録』)

 尖閣諸島を巡る日中両国の対立は、日清戦争時を想起させる好戦的愛国心を両国民に惹起している。「尖閣諸島を購入する」と宣言した石原都知事は、八月の野田総理との秘密会談で「中国との戦争も辞せず」と述べたという。


軍隊も交戦権も否定された憲法を米国から押し戴き、腑抜けになった我が国が中国と戦争など出来る訳がない。
 


徒に愛国心を弄ぶことは、厳に慎まねばならぬ。国家を滅亡に追い遣る無責任な愛国心昂揚を嗤う所以である。
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「蘇れ美しい日本」 第1278号


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