自分一人の損得でしか物事をとらえられないのは、稚拙な生物である。

 

無性生物は、自己分裂によって生きながらえる。

長寿だが、遺伝子の書き換えが起こりにくいため、進化が遅い。

雌雄異体生物は、自分一人では子孫を残す事は出来ないが、より進化した子孫を早く残す道を選んで誕生した。

つまり、身体にムチ打って進化する事と、身体を守って生存能力を高める事を両立させるのは難しい。

だから、オスは限界に挑んで進化する為には、どうしても身を削らなければならず、産む能力を棄てた。

そして、メスに生存能力を高めて産む事を任せた。

そうして生物は、雌雄異体になって役割分担する事で、より進化しタフになった。

そのため、オスメスがいる動物は、異性のために尽くすことにエネルギーを割く。

 

愛する者の為に、身を粉にして尽くすことは尊い。

 

武士の切腹、神風特攻隊、企業戦士の過労による自殺者の増加、日本人の心の中には自殺の美学が根っこにある。

磨き抜かれた魂こそが美しい自己であり、身体は不浄なモノであるとする、心身二元論的な思想が切腹や自害の根底にある。

行き過ぎた自己愛であり、思想を美化する為に身体を捨てる行為である、という見方も出来る。

こうした美学の反省をし過ぎた結果、現代では「捨身」の思想の評価も落ちてしまった。

「何かの為に自分の身を削るのは、割に合わない」という考え方が、主流になりつつある。

 

しかし、「捨身」は尊い行いである。

「死に物狂いで頑張る」という時に、実際に死ぬ必要はない。

「身を捨てる」というのは、言葉のあやである。

 

食欲、性欲、睡眠欲は、自然の本能的欲求なので、この三大欲求にあらがう自制心のある者が、より進化した人間と見なされる。

つまり、欲求をコントロール出来る者は、カッコイイとか、クールとかと言われる。

過酷な修行を全うした修行僧には、人々を導く強い力がある。

これが行き過ぎると、どれだけ自然の象徴である身体を痛めつけるかで、自己陶酔すら覚える者も出てくる。

究極の身体の痛めつけが、自害、切腹、自殺である。

大脳が発達した人ほど、思想のほうが優位になり、身体を否定する自殺を美化する思想におちいりやすい。

 

人や事物は、野性味と先進性のバランスが丁度いい時に、超絶カッコイイと感じる。

 

ヒトは、生命に逆らうことで進化するので、やや角ばった不自然なモノに前衛的な美を感じたりする。

丸みと角ばった部分のバランス比の美しさは、「流行」と呼ばれて時代とともに変化する。

 

ピラミッドは、究極に高い建造物を安定して積み上げた結果として、あの形になった。

天に向かって先端を突き刺す格好をしている。

どこまで重力に逆らい、高い建造物を建てるかは、現在も高層ビル建設として続いている。

上昇志向の人ほど、実際にてっぺんを目指す傾向が強く、登山で山頂を目指したり、高層階に住む事にステータスを感じたりする。

 

三角形、斜めの線は、カッコよさの象徴である。

石を削り出して三角形の矢じりを作ったのが、初期の武器である。

武器には独特の美しさがあり、日本刀愛好家やミリタリーファンも多い。

 

思春期は、とがっている事がカッコイイと感じて、物事を斜に見るようになる。

身体つきも性差が出てきて、性衝動の高まりと共に大脳も発達し、特に男性は反抗したり反発すること自体がカッコイイという価値観を持つようになる。

 

自然の本質は球である。

女性性は野性味が価値なので、女性らしい美しさを強調すると、自然を表す、丸みを帯びた曲線美となる。

女性は、産む能力があるので、本能的に自分の生存が一番大事である。

だから女性のほうが、「愛されたい」傾向が強い。

このため、自分を大事にしてくれて、寝る間も惜しんで、身を削って尽くしてくれるような、進化した男性に魅かれる。

性欲や食欲をむき出しにせず自制心があり、論理的思考が出来るハイスペックと呼ばれるような男性がモテる傾向が強い。

 

男性性は、先進性が価値なので、逆三角形やシックスパックといった人工的に鍛え抜かれた、角ばった速筋の筋肉美が男らしさを表す。

男性は産むのをあきらめたため、自分の種を育んで、産む能力の高そうな女性に本能的に惹きつけられる。

男性のほうが「愛したい」傾向が高い。

種さえ残せればいいので、好きなオンナのためなら死んでもいいと思う者も出てくる。

女に狂うという状態である。

男性が好きな女性の為に、生活費を稼いだり、金をつぎ込んだり、身を削って尽くすことが、男性の生きる喜びになる事もある。

また、自分は産めない分、確実に自分の種を受け入れてもらおうと思ったら、モノにする戦略としてターゲットを絞る必要が出てくる。

そのため、男性のほうが女性よりも一途になりやすく、失恋の痛手が深い場合が多い。

 

食べ物が手に入らない飢餓を解消し、身体の快適さを求めて文明が発展し、心の飢餓の解消が文化を発展させる。

 

忙しい現代人は、精神的飢餓を、インスタントにモノを手に入れる事で解消している。

これが行き過ぎて、ホストやキャバクラに大金をつぎ込んだり、ギャンブルで多額の借金をしたり、酒やクスリ、肥満など、様々な依存症として社会問題化している。

何でも簡単に手に入ると、入手困難の苦しみを味わう機会が失われ、「苦労して手にすることの喜び」を経験できない。

 

そうすると、「愛することの喜び」を求めなくなる。

 

子供が欲しがるモノをすぐに与えてしまうと、その子供は、「愛する」事をしなくなる。

「愛される」だけで、何でも簡単に手に入れることが出来ると、人は努力しなくなる。

 

入手困難なモノを手に入れる努力をし、手に入らない苦しみを味わった経験を持つ者は、手に入れたモノを大切にする。

 

恋をすると男も女も輝く。

愛する者に好かれようとして努力するからだ。

人を愛して成就しない苦しみを味わう事で、人間は成長する。

 

全ての動物は、他の生物を殺して摂取することで生存している。

 

卵子にたどり着けず、戦いに破れ死んでいった無数の精子がいるおかげで、我々はここに存在する。

一組のカップルが結びついたかげには、結ばれずに泣いている男女がいる。

 

我々は、罪を犯さずに生まれることも、生きることも不可能なのである。

 

罪によって生まれ、生きるのが、我々である。

 

他の命を奪ってまで得たこの命を大切に生き抜き、人を愛し続ける事で、罪をつぐなえる。

愛する事をやめなければ、エネルギーを永遠に産出し続ける事が出来る。

愛のバトンを次世代につなげることで、人類は再生可能エネルギーを手に入れることが出来る。


愛すれば、人類は永遠に生きる