結局ルドルフは政治的に失敗し、廃嫡を匂わせられる。
ここで「何故死ぬの」という声も多かったように思う。
あんな強い女が死ぬかと思う向きを多かったようだ。
私はそりゃ死ぬだろうと普通に思った。現代のような個人の自由もくそも無い(それを得ようとして失敗したわけだ)それも皇族の男が廃嫡された末路は生涯軟禁同然の生活が待っている。
マリーのほうは臭い物にはふたをしろ的に国外追放か修道院に放り込まれるのがおちだ。離れられないほど愛しているなら死ぬだろう。
この離れられない存在ということが人によって感じた温度差があったのはまだステージに説得力がないということと思ってもいい。この脚本ではルドルフに感情移入しにくい。
落ち度のない妻との冷えた関係は理由にならないし、政治的な失敗に関しても、それぞれの立場にはそれぞれの理由があるものだから。
もっと、きわどいエピソードを挿入してもルドルフが追いつめられてしまったものを具体的に描くべきだっただろう。観客の全てが繊細というわけにはいかないし、解りやすい具象を求める観客もいるのだから。
それを俗っぽくお涙頂戴的にやってくれというのではなく、
夫婦は互いに愛人がいたが、妻はその地位にしがみつき、ルドルフはその考えと相容れない
マリーは金持ちだが出自から社交界で蔑視されていたが、納得いかない。
ラリッシュは便利な女だが、ルドルフを金づるだと思っている。
今の人生から変化を求める二人が出会い、今の柵から逃れようとするなら、まだ同情できる。
ラストシーンに向かう中、芳雄君のルドルフは、もうヨレヨレで、まさに燃え尽きた感があった。
ルドルフは去ったはずのマリーに会いたくて、もしかしての思いで彼女を追うが、そこにはマフラーが落ちている。二人をつなぐ糸だった血の色をしたマフラーを拾い上げてルドルフはむせび泣く。
腰が抜けてへたりこんでしまったルドルフの前に何かが起こる
wssのラストシーンにも似た絶望と歓喜の入れ替わる瞬間、
この時のマリーの表情が、私の想像通りだった。
いやここは普通はもっと表情をつけるものなのだろう。
しかし、ルドルフに撃ち殺される前のマリーは、きっとこんな顔をしていただろう。静かな、かすかに微笑んでいるかのような顔。彼女はこの後ルドルフの広げた死の腕の中にためらわずに飛び込む。あまりに想像通りで驚いてしまった。
その後、マリーを抱きしめるルドルフの様子は、「離さない二度と」である。
ウイーン版Vでしか拝見していないが、当然ながら穴はなく歌唱力の安定感、オケの充実度もとても良いのだが、帝劇のほうがいいと思えるのはここである。
二人が長いマフラーを持って道行となるこの場面、ルヴォーはこれを日本でやりたかったのではないだろうか。この場面は日本的な情緒がある。絶望に導かれていくのではない、愛に導かれていくのだが、哀切さと高揚感がない交ぜになったような二人の見つめあう瞳。
このあとの二人にはあまり悲壮感が無い、無さ過ぎるくらいである。 ここでの幻想的な演出、無数のキャンドルと周囲の人々は、二人の頭の中に浮かんだ通り過ぎた人生のさまざまにも感じられる。
二人はここでもキスをする、ラストキスだ。おてこへのキスからここまで、愛がキスで語られる。最後ろうそくを吹き消すとき、ほんの一瞬だけ、二人とも倦んだ顔を見せるそれがなんとも無垢。
ラスト、二人が横たわったベッドが起き上がり、額が下りてきて幕。
妹はベッドが起き上がって「ロミジュリじゃん」と思ったそうだが、小池ヅカ版よりこっちが先よ。
美術はウィーンから空輸したもので、大変美しく、予算がかかっており、衣装も丁寧な出来。ぴかぴかの安物という感じではなく、ハレーションを起こしにくい素材で考証に忠実に作られている。
芳雄君が着用した軍服は、装飾過多でない分着こなしが難しいが、実に見事に着こなしており、芳雄君が舞踏会の場面でたっちんの手を取り、透かし模様のある階段を降りる所などは、宝塚歌劇でもなければお目にかかれないようなロマンティックで美しい場面。
ハーフムーンのダイヤの髪飾りをつけたヒロインの手をとる芳雄君のの王子様っぷりにため息をついた方も多いだろう。
たっちん、一路さんをはじめとして宝塚出身者が出演者には多く、衣装の着こなしは見事。
アンサンブルはスケートだけでなく、ワルツの場面でのボールルームダンスの美しさ見事さ、このミュージカルは歌唱で情感を表しているが、ダンスはその場の雰囲気を表していてわざとらしさがない。
脚本は、突っ込みどころ満載で、電気嫌いのフランツが電気照明の紹介をするところとか、ラリッシュがよき友人になってしまっているところとか。
ラリッシュなんてどう割り引いたって、ひねくれた借金女なのに。
それにミッツイが場末の娼婦みたいなのは何?高級娼婦でしょ、高級娼婦って、見た目は普通の人でしょ、勿論ベッドテクニックは、よいんでしょうけれど。
ミッツイという人はルドルフとかなり懇ろで、心中を持ちかけられて一笑に付した女である。
彼女は警察署長にルドルフの行動を逐一報告していて、飲むとインポだという事まで報告している。
彼女にとってルドルフは今まで同様、上客の一人に過ぎなかった、金づるだったんでしょうけれど、彼女は明るい性格でルドルフは凹むとミツツイに上げてもらっていたようで。ミツツィのチクリのせいでルドルフはますます監視されることになるんだか。
ジュラとかツェプス、フランツと同世代くらいで数年後には自然死。何であんなに若いわけ?とか
でもハーフムーンの髪飾りや、なによりマリーが黒髪なところは二重丸。マリーは黒髪で小柄な女性だったようでルドルフも黒髪の女が好みだったようだ。アホなヘアメイクだと茶髪にされかねないけれど、やはりルドルフ好みでなきゃね。
今回、最も心惹かれたのは芳雄君の演技。勿論下手でないことは知っている。
33歳の大人の男が、運命に逆らおうとして破滅していく、そういう運命のうねりや男のドラマがあった。
儚い皇太子さまではなく、燃え尽きるまで激しく生き、希望にしがみつこうするのが人間らしかった。
デビュー時から何度となくいろんな役で拝見している。ビオレのcmにも出ている
ストレートプレイでもミュージカルでも、他作でラブシーンもやっているし、テレビのバラエティでも見ている。品の良い坊ちゃんタイプで、日本的な顔立ち、梨園の御曹司みたいな雰囲気、ちょっと童顔で可愛い、声も細めのテノールで、そういうイメージだった。
ミーマイでのビル、二度目のときに拝見したが、何度も組んでいる相手役なのに、まるでいちゃいちゃ感がない。そもそも下町っ子というにも芳雄君はお品が良すぎる。
歌は上手いけれど、宝塚のほうがいいなあと思ってしまった。
演出も宝塚ではビルはジャッキーの誘惑に心は逆らっていても体が反応してしまいな股間に、クッションをあてて自分の股間を叱るという何とも下品な演出だったが、
帝劇では完全にのっかっちゃってるんですから。いや前者がお下品なのでとても芳雄君にはさせられないというのはわかるんですが、それにしても宝塚ではキスシーンなんて一度も無いのに、そのアホっぽいいちゃつきぶりで、ビルとサリーのアツアツぶりが手にとるようで、
あさこビルはさっきまで会っていても、また会いたいという恋するものにありがちな心情がとても強く伝わってきた。
にもかかわらず、芳雄君のビルは、なんのいちゃいちゃ感も無いのに、ラストでいきなりキス。「ここでそうくるか」と驚いたくらいで、芳雄君、ラブシーンはあんまり得意でないと思っていた。(ほかの作品でもあんまり・・・)
もっといちゃつかんかい、もっと
そりゃミーマイみたいなラブコメなのでいちゃいちゃ度がかなり要求されるものだからこちらも期待したというのもあるけれど。
なのに今回、セクシーなルヴォー氏の指導の賜物なのかこの変化。
たっちんもラブシーンなんてほとんどやってない。恋愛ものしか上演しない宝塚にあって、エロい役は演ったことはあるが、直接的なラブシーンの経験はあまり無い。
和物のヒロインが多かったせいもある。チギちゃんとさまざまなバカップルを演じてきたが、キスシーンは無かったと思う。
櫻井君とだって、櫻井トニーはそれはもうしつこいくらいに唇突き出して何度も何度も迫りまくるが、どういうわけかたっちんマリアは恥ずかしがって拒むまた迫られて拒む、
何なんだこの演出?やらせろよ!と思ったのは私だけではあるまい。ジャニファンがどよどよするからNGなのかよ。
一回だけ、それもヅカと同じような後ろ向きキスシーンのみ。
これはもう私は不満で、東山&島田組の中年カップルは何度も生キスしたのに、何でこっちの若年カップルはさせないの? アイドルの癖に女をひざに乗せるというシーンだってあったのに、何故やらせない。
そういえば櫻井君もベッドシーンではパンツ姿だったっけ。
だからルヴォー様様である。
単にスタイリッシュとかセクシーという言葉では片付けられない、細かい演出家なのだろう。
それでもおしゃれな演出家に違いない。「屋根の上のヴァイオリン弾き」を白樺並木のセットで上演したり、白樺とロシアなんてチェホフだろと思ったが、批評家もそう思ったらしいけれど、体臭のしないユダヤテイストってどうなんだろう。
今回の演出は今までの甘い物語に比べるとルドルフのだめっぷりが目立つので、「ただのアル中、強い女に尻を叩かれたダメ男で幻滅する」という向きも多いようだ。
そんな人は宝塚の「うたかたの恋」がお勧め。とにかく夢は壊さない(笑)
韓国でも「うたかたの恋」の方が絶対ウケると思うけれど(えーっ)
再演は厳しいと思うけれど、再演プランを考えたくなるくらい再演を望んでいます。
もちろん主役は芳雄君とたっちんで。
やっと完結。本当は渡韓する方々がストーリー分かるように、二月中には書く予定でしたのに
申し訳ないです。
全体にかぶる箇所や雑なところが多々ありますが、お許し下さい