井上真偽 「アリアドネの声」
こちらの作品が面白いと聞いたので買ってみました。
主人公の男性は災害救助ドローン操縦の講師としてベンチャー企業に勤めていた。地下に建設された障害者支援都市に仕事で来ていた時に地震が発生し、都市の一部が崩壊してしまう。都市のアイドルとして活動していた「見えない、聞こえない、話せない」3つの重度障害持つ女性が危険区域に取り残されており、彼女をシェルターまで誘導するために彼が救助ドローンを操縦することとなる。
3つの重度障害持つ彼女の誘導は困難でありつつも進んでいたが、誘導中に彼女は目が見えているかのようなリアクションを見せ始める、というお話。
災害救助を舞台としたエンターテイメント系の作品となります。
特殊な条件下での救助劇の描き方が非常に上手くて、ドラマを見ているかのように楽しめました。特殊設定の使い方も上手くて、普通の人ならない課題たちをどうやって乗り越えるかという場面が次々と出てきます。最後の方にはちょっとした感動的な展開もあるため、最後まで楽しめる内容となっています
帯にはミステリーとも紹介されていますがミステリー要素は特にありません。強いて言えば救助対象の女性は本当に障害を持っているのか?の部分になるのですが、ミステリーと言うほどの内容ではなく、どちらかというと社会問題的に描写していた印象でした。
作中にて救助対象の女性が都市の宣伝と言うビジネス目的で障害の度合いを盛っているのでは?という話が何度か出てきました。障害の度合いを盛るというとイメージしづらいですが、例えば病気がちの同僚が仕事で厳しい場面が来た時にしょっちゅう病欠していたら「病気を都合よく使って逃げているのでは?」と疑いたくなる、というのが分かりやすいでしょうか。
私としては障害や病気などを盛ってビジネスで活用するのは大いにありだと思います。これらは自身の個性をビジネスで使うという範疇でしかなく「学歴や経歴を盛って優位に立つ」のと大差ないと考えているからです。かつては障害や病気を持っているだけで厄介払いされていたのに対し、それらを使ってビジネスが成り立つところまで来たのは個性を尊重する時代になった証拠とも言えるでしょう。ただし「学歴や経歴を盛って優位に立つ」のと同じ、となった以上はバレた時の信用の失墜は同じように発生するでしょう。
ちなみに私は病気や障害を持っていることを理由にその人自身や行動の価値を上下しないようにしています。理由は単純で、それをやってしまうと健康体である私の価値が最底辺になってしまうからです。どんな価値観も尊重する時代なのに自分に不利な価値観をわざわざ持つ必要はないだろう、という自分本位な考えですが、それも良いでしょう。
エンターテインメント系として非常に面白いので、気になる方はチェックしてみてください。