夢の続きはベトナムで。

夢の続きはベトナムで。

ベトナム・ホーチミンにある『日系サムライボクシングジム』
ベトナム人ボクサーたちがプロの、世界の舞台で活躍するまでの
夢の道のりをブログでお伝えします!
皆様の応援が、彼らの力となります!宜しくお願いします!

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前回のブログ、part1の続きです。
part1はこちらから


Rubiが無事にデビュー戦を勝利で飾り、余韻に浸りたいところですが···

イベント進行でバタバタで。


全てを終わらせたときには、もうすでにTuanの入場数分前。



暗い階段の踊り場で、薄っすら汗をかいたTuanが一人座って待っていました。 



ついに、夢にまで見た、憧れ続けたプロのチャンピオンになるための大舞台。


だと言うのに、


遊び尽くした子供のようにスッキリした表情。


彼のここまでの努力が、疑いようのない確かな自信になっているのでしょう。


でも、


彼の目に力強いパワーを感じました。


本当は、時間がないので慌てて最終動作確認をするとこですが、


僕も隣に座って少しおしゃべりをしました。



「なんでボクシング始めたの?」


「···強くなりたいから」


「なんでサムライジムなの?」


「···強くなりたいから」


「・・・」


「さぁ、ベルト取りに行こうか!」



最終動作確認なんて必要ないですね。



もう彼は出来上がってます。


この2年半、二人で毎日確認し続けてきましたからね。



入場口に向かう途中、自分の現役時代の頃を思い出してました。



選手のころ、僕の先生に言われたことがあります。



「強くなりたければ馬鹿になれ。周りのやつより1回でも多く、1秒でも長く努力しろ!馬鹿みたいに努力しろ。それをできるやつが天下とるんだよ。」



あんまり意味がわからずいたんですが、今よくわかります。



誰に言われるでもなく、それを実践してきたのがTuanでした。



センスもないのに


たいした才能もないのに


いつも、最後まで全力でした。


その努力が報われるのは、もう目の前です!





歓声のなか、リングイン直前に1回深呼吸したあと


「Just do it. you can do it.」


全てを込めて。






1R


作戦通り、ステップを踏みながら自分の距離を保つ。


すぐにリズム掴んだ彼は、最初のジャブ


それまでの前座の試合とはスピードもタイミングも違うのが伝わるのか、観客席から感嘆の声と拍手が起こりました。


たった1回のジャブに、彼の2年半が現れていました。


正直、僕はこの瞬間で"勝った"と思いましたよ。



相手が強い弱い関係なしに、このジャブで負けるわけがない。





慌てず、落ち着いて、すでに王者のような堂々とした戦い方




相手の連打にも臆することなく、自分のリズムを常に崩さない


ラウンド終盤、狙いすましたアッパーカット





この瞬間、次のラウンドで終わらす絵が僕は描けました。


もともとの作戦は、

倒さなくていい。
6Rの間、リスクを避けて確実に勝ちに行く。


でしたが、


あえてインターバルで彼に尋ねました。




「どう?勝負に出るか?不安はあるか?」


彼は何も言わず、ゆるく表情を崩しました。


チャンスの流れで作戦を変えてでも勝負を賭ける。

これはリスクがあり勇気のいる選択です。

でもそれを恐れずトライする経験が彼にはまだありません。

これを成功させれば今後の彼のキャリアで絶対大きな武器になる。


「作戦変更!このラウンドで倒せ!距離詰めてプレッシャーかけろ。
"左ボディーからアッパー、最後は渾身の右の打ち下ろし"
このコンビでいこう。できるよ。頭を振ることだけ忘れるなよ。」


これは、彼の必勝パターンを作るために二人で考えてきたコンビネーション。


一撃の力をつけるため、バランスボールを使って体幹を作るとこから、時間をかけて完成させてきたコンビネーション。


これがハマれば誰でも倒せる自信があります。



ゴングがなって、勢いよく立ちがる。


2Rは映像で。






パーフェクト!


これ以上ない、完璧です♪





相手の心までへし折りました!


いくら作戦を伝えても、試合中にそれを100%実行できる選手なんて、なかなかいません!


言われたことを確実に本番で出せるのは、紛れもなく日々の積み重ねであり、日頃からこの大舞台を常にイメージしてこれたから。


頭が上がりません。心の底から彼を尊敬します。












アマチュアのオープン戦すら勝てなかった彼が、自分の力でスターダムへと上り詰めました。


夢を叶えるのにセンスや才能は必要なくて。

想いと気持ち、それを実行する勇気があれば人生を変えられる。

彼はそれを証明しました。

自慢の教え子です。僕の誇りです。


そして、今回セコンドとしてサポートしてくれたサムライトレーナー陣、Hien, Phuong, Binh,

試合中に僕の指示をベトナム語で大声で選手に伝えてくれたHien

インターバル中、僕が選手に指示する邪魔をしないで、選手の呼吸に合わせてマウスピースを受け取り、洗ってまた選手の口に戻す。

とても集中力のいる作業です。

それを完璧にこなしたPhuong

タオルがない!手袋はどこ?水を取ってきて!

慌ただしい中で会場中を走り回ってくれたBinh

彼らは最高のチームです!

決して僕とTuanの二人で掴んだチャンピオンベルトではなく、みんなで掴み取ったものなんだと改めて感謝!


僕がチャンピオンを育てたんじゃないんです。

彼らに
"チャンピオンを育てたトレーナー"にしてもらったんですね。


ついに夢の一歩を踏みしめたTuan


僕の仕事はこれで終わりです。

あとはほっといても彼は上に行く。

行き方を彼はもう知っています。

あとは楽しみに見守るだけ。

彼が最後の夢に辿り着く瞬間を···

ポップコーンでも食べながら観客席から見届けるのが、僕の最後の夢です♪

ゴールに向かって
まずは、次のステージへ···




最後に


チームSamurai Boxing


誰がなんと言おうと"世界最強"です!





2018年12月9日、ホーチミンにて

「Samurai Fight vol.2」

が開催されました。


全5試合、とても盛り上がり、

「凄く良いイベントだったよ!」
「初めて見たけど、ボクシングって面白い!」
「また見たい!」

と、たくさんの方に声をかけていただきました。


が、


外からは見えない、選手やトレーナーの緊張感や試合にかける想いなど、裏側の部分をブログで。


・・・・・




今回は、


ダブルタイトルマッチのうちの一つ、
OPBF(東洋太平洋ボクシング連盟)ベトナムナショナル王座決定戦に
"サムライジムの長男坊"Tuan選手








そして、今回がプロデビュー戦
"みんなのアイドル"Rubi選手
の2人がサムライボクシングジムから出場しました。







この試合に向け2人は100%のモチベーションで作ってきました。



Rubiは、憧れのプロボクサーになるためのデビュー戦、



Tuanに関しては、人生最大のチャンス、ベルトを賭けたプロのタイトルマッチ!



2人とも、なかなか対戦相手が決まらないなか、自分のやるべきことをしっかりこなしてきました!



Rubiはスーパーフライ級・52kg


これは余裕です。


問題はTuan。


彼のプロデビュー戦は相手の都合により73kg契約、アマチュア時代の主戦場は69kg、前回の日本でのプロの試合は67kg契約でした。


体格差のある相手に結果を出してはきましたが、今回は将来のことを考えてあえてスーパーライト級63.5kgでやらせることに。



僕自身、少し不安もありましたが彼には必要な試練だと思ってます。



試合が近づくにつれ、やつれていくTuanを見るのは少々辛いですが···



計量の2日前、3kgオーバー。



前日、800gオーバー···



さすがです!
もう立派なプロボクサーですね!




Tuanとの付き合いは2年以上になりますが、こんなに小さくなった彼を見たのは初めてです。




計量当日は、ほぼリミットでクリア!








もちろんRubiも!








2人とも、計量後はしっかり食ってリカバリー。





試合当日、




どの選手よりも早く会場入りし、ストレッチからリングチェックまで入念に準備していたのはTuanでした。




彼のこの日にかける思いが見て取れます。







開場し、イベント開始が近づくとまずは第1試合のRubiがウォーミングアップ。



全く緊張もなく柔らかい動きで動作確認ができました。



名前がコールされ、入場する際にいつも選手に一声かけますが、今回はシンプルに



「今日からお前はプロボクサーだよ!楽しんでこよう!」



とだけ。



Rubiも笑顔での入場♪




ファーストラウンド



ちょっと硬いかな?








Rubiがアマチュア1勝1敗なのに対し、相手はキャリアがあり、7勝1敗。



それでも僕は自信のマッチメイクだったんですが···



今回に向けてRubiのやってきたこと



異常にリーチの長い彼の特徴を活かし、ロングの距離でとにかく左手でリズムを掴む!



リズムが作れたら、彼の武器であるマンガみたいに伸びてくるワンツーを突き刺す。



チャンスで一気に畳み掛ける。



ここまでの流れを毎日作り上げてきました。




しかし、今日は



手が出ない···



足はしっかり使えてる。



でも、手が出ない···



リズムを作る前に、パワーのある相手のパンチでプレッシャーをかけられてしまいます。




正直、これは完全に僕のミスです。



すでにスタイルが出来上がった彼の最終調整の時期に欲をだし、カウンターを合わせる練習をメニューに取り入れました。




彼のレベルではまだ必要のない練習メニューでした。



それにより彼は無意識に狙いすぎて、待ちの意識が身体に染み付いちゃったんですね。




2R終了まで何とか自分のリズムを取り戻せないか期待しましたが、際どいラウンドが続いてしまったので、インターバルでRubiに指示を。








「ポイント取られてるぞ。手が出ないなら接近しろ。ショートで打ち合え!大丈夫、できるよ。
自信もて!できるから、俺を信じろ、絶対できるから···」



たぶん僕は自分に向かって説得してたんでしょうね。笑



自分の調整ミスのせいで選手に黒星をつけてしまうことが申し訳なさすぎて···



はっきり言って彼は接近戦ができません。笑



びっくりするくらい下手くそです♪



でも···



もうあとは彼の気持ちにかけるしかできなくて。



3R目のゴング



指示をされたものの、彼自身もショートはできないのわかってるもんで、戸惑いながら中途半端な距離をウロウロ。



中途半端が一番危険な位置なもんで、ドスドスと重たいパンチをもらってしまいます。



しかし、これが彼の覚悟を決めたのか、打ち込まれながらも一歩、また一歩と中に入って行きます。



いよいよ最後の一歩で中に入りきったとこで、コンビネーションをまとめる。



これが予想通りヘッタクソで。笑



素人のケンカに毛が生えた程度ですが···



それでも、
相手よりも遥かに上回る気持ち"勝ちたい"という想いが相手を後ずさりさせます。



技術的には相手のほうが一つ上ですが、がむしゃらに前に出るRubiに面食らって少しづつリズムが崩れ始めました。



それをきっかけに今度はRubiの流れに。



正直、ポイントは取られたかな?もしかして取ったかな?



ってくらい接戦で。



このインターバルでの指示はもちろん"継続"です。






「ok, great!できるよ。今のままでいこう。あとは気持ちだよ。打たれても、パンチが当たらなくても絶対止まるな。前にでよう。気持ちで勝つよ!」



Rubiの息づかいを見た感じスタミナは問題ない。



むしろ相手のほうが肩で呼吸している感じ。



結局、最終回4Rも前に前に。



時々、相手の強いパンチをもらってグラっとくることもありましたが、それでもRubiの気持ちは最後まで折れませんでした。



これで負けたらしょうがないと思える終わり方でした。
(作戦ミスった僕が言うのもなんですが···)




少し時間が空いて判定へ




MCのベトナム語はわかりませんが、大声で叫ぶなかで確かに"Rubi"というフレーズが!








ほんとに気持ちで勝ち取った勝利です!



おそらく、一番ホッとしたのは僕ですね。



彼の大事なデビュー戦を潰さずに済みました。



Rubiに救われましたよ♪



褒められた内容ではありませんが、結果が全ての世界で"勝利"を手にしました。




次戦はもっと楽に勝たせてみせますよ♪







いよいよ、次は"サムライジムの長男坊"Tuanの

OPBFベトナムナショナル・スーパーライト級王座決定戦です!



続きは明日に。





来月12月9日、2016年の第1回に続き

『Samurai Fight vol.2』

をベトナム・ホーチミン市にて開催いたします!




前回は、まだプロのないベトナムで初のプロ公式戦を行いました。


そして今回は、ベトナム史上初のプロのタイトルマッチ。


プロボクシングのチャンピオンを決める試合を行います。


『OPBFナショナル初代スーパーライト級王座決定戦』


歴史上初めてのベトナム人国内チャンピオンが、12月9日に誕生します。



その試合に



サムライジムから



Dao Nguyen Anh Tuan


が挑戦します!








2年半前、


サムライジム所属の選手が出場したアマチュアの大会の2回戦での相手がTuanでした。


彼の初戦を見る限り、こちらがまず負けは無いレベルだったので


「左手一本でコントロールする」


という課題をウチの選手に与えたのを覚えてます。



その左手一本に1RでKO負け···




お世辞にもセンスがあるとは程遠い選手、という印象。



そんな彼がサムライジムに来たのは、大会が終了してから数日後のこと。



「強くなりたい。」



正直、そんな子はたくさん来るのであんまり覚えてませんが、たぶんそんなことを言ってました。



同時期に入った選手コース4人組でよく練習していましたが、一番遅くまで練習していたのはいつも彼でした。


そして彼は、今日教えたことを翌日も繰り返す。



できないけど。



やろうとする。



実はこれも彼だけでしたね。




そういえば他の3人は気がついたらジムから見かけなくなりましたね笑



その頃からですね、僕と二人三脚の練習が始まったのは。




指摘したことは必ずできるまで繰り返す。




できなくても、わからなくても彼は質問をしてきません。




自分で考え、自分でいろいろ試します。



だからこそ、彼の成長スピードは想像以上に早かったです。



2年が過ぎた今年の夏、ついに日本でのプロデビューの話が決まりました。



彼よりキャリアの長い相手でしたが、Tuanは即答で「やりたい!」と。



技術、経験、体格差で相手に劣る彼との約束は



「できないことはやらない。できることを最大限磨いて誰にも負けない武器にする」



試合が決まってからの数ヶ月間、周りが心配になるほど同じことだけを繰り返し二人で作り上げました。



自信を持って挑んだ聖地·後楽園ホールのリングで彼は見事2RでTKO勝ち!







2年前の弱かった彼とはもう別人になりましたね。


・・・


そして、


今回、彼に最大のチャンスが舞い込みました。


東南アジアのボクシング活性化を進めるOPBF(東洋太平洋ボクシング連盟)から新たにOPBFナショナルという王座が新設されました。



その第1号としてベトナムでの開催の話が。




東南アジア初、ベトナム初、その歴史的タイトルマッチの舞台に上がる、そしてこれから長く長く続く王座の初代王者になるチャンス。



たまたまでも偶然でもなく、彼の耐え続けた努力の日々がたぐり寄せたチャンスです。




僕は現役時代ベルトを巻くことはありませんでした。



挫折を残しての引退というネガティブな終わり方。



この過去は永遠に変えられないものと思っていました。



でも、でももし彼がこのベルトを掴み取ったなら···



僕がボクシングの道を選んだことが肯定される、そんな気がしてます。



自分の指導を信じてくれて、がむしゃらに応えようとしてくれる子が夢に近づくことは、たぶん僕自身がチャンピオンになることよりも凄いこと。価値のあること。



···そんな気がします。









OPBFのベトナムオフィスであるサムライジムにタイからチャンピオンベルトが到着しました。



みんなはしゃいで、



「写真撮ろうぜ!」



とワイワイ。








僕が、



「Tuanもこっち来なよ♪」



と誘うと彼は、



「まだ自分のベルトじゃない、今は巻かない。」



と。



浮かれた空気を拒否して一人鏡に向かって縄跳びをもくもくと続けます。




この覚悟。プロボクサーですね。





ちなみに僕は、









もちろん、はしゃいでます笑



プロボクサーではないですからね!



だからチャンピオンになれなかったのかな···♪




・・・




僕と彼がやってきたボクシングは、



そしてこの挑戦は、



世界のボクサーたちから見るとちっぽけなタイトルかもしれない。



とても世界レベルの技術ではないかもしれない。



でもこの日、このリングの上で人生が変わるかもしれない人間が、少なくとも2人はいる。



このことを一番理解しているのは彼なんですね。



2年前には想像すらできなかった夢の舞台が、
今、目の前まで来ています。



この場で皆様にも彼の背中を押す、応援·サポートのお願いをさせてください。


海外での興行の実施には国内の興行以上に会場設営や選手・セコンドの渡航費、ファイトマネーなど多くの費用が発生してしまいます。
そこで、その資金の一部を皆様の温かいご支援で負担して頂ければ幸いです。

詳細は以下、URLサイト内に記載しておりますので、ご確認頂けますと幸いです。

クラウドファンディング:


サムライボクサー・Tuanの腰に必ず、必ずチャンピオンベルトを巻かせます!


応援宜しくお願い致します!







時間がなかったので、日本遠征まとめての報告です。※長いです


サムライボクサー、Dao Nguyen Anh Tuan







ついにプロボクサーとして日本のリングに立つ日がやってきました。



試合が決まってから、ずっとここだけを目標に。



4R戦い抜くスタミナをつける時期、対戦相手に合わせた細かい戦術・技術を体に刷り込ませる時期、いろんなタイプを相手に実戦練習を重ね、引き出しを増やす時期



それぞれを満足のいくスケジュールでしっかり積み重ねてこれたので、僕も彼も倒し切るイメージが頭に描けての出発です!




日本到着の直後はさすがにぐったりですが、


しっかりご飯を食べて、




たっぷり睡眠取って、翌日には計量会場へ





余裕の1kgアンダーで。


多分あと2階級は落とせますね。笑





相手の選手、想像よりは体格差がなくやってきたことが上手くハマれば良い打ち合いになりそうな雰囲気ですね。




リカバリーは高級お粥を。


お粥って誰が作るかでこんなに違うのかとびっくりです。


・・・


いよいよ試合当日、


彼は朝6時に起きて外で軽く動いたそうで。


さすがに緊張感でてきたんでしょうね。


僕は前夜の酒が抜けてないのでぐっすりと···




16時には会場の後楽園ホール入り




やっぱり僕は今だにここが苦手です。


会場に入った瞬間に鼻につく、汗と血が混じった臭いと、どんよりとした重たい空気。



胸が苦しくなってアドレナリンが溢れ出す感じ。


急に暴れたくなる。


現役を離れて何年たっても、一瞬で当時のボクサーの感覚を取り戻してしまう唯一の場所。



だから本当はあんまり···





そんなことより彼の試合は3試合目なので、早速ウォーミングアップ開始です!







身体が温まったら、バンデージを巻きます。


ボクシングのバンデージは巻き方一つでパンチ力、KO率、拳への負担などが劇的に変わります。



職人の世界ですよ。



そんなわけで、現役時代の僕の先生に無理言ってお願いしました。






これは僕の中での願掛けでもあるので。



バンデージ巻いたら、いよいよ着替えて試合モードへ




ミットでばっちり汗出しながら、前の試合がいつKOで終わってもいいように身体を作る。


予想通り、彼の前の試合は2Rで終了。


ここでアップを止めて、最後の打ち合わせ。


今日までの数ヶ月、何の為に毎日辛く苦しい思いをしてきたのか。


勝負の世界。


一生懸命頑張った、精一杯努力したなんて何の意味もなさなくて。


勝った者だけが、


結果を出した者だけが光を浴びることが許される
明と暗のはっきりした世界。


緊張と不安で引き締まってる、そのなかに見える自信と喜びに溢れた目を見て、僕の中ではすでに確信がもててましたよ。




さぁ、いきますか。






ベトナムの国旗を掲げてのリングイン



ゴングが鳴ってのファーストヒットは必ず取ろう、とだけ。





様子見の時間が長く、打ち込まれても待ってしまう。

見てるのがもどかしい3分間でしたね。

1ラウンド終了のインターバルで、ついつい興奮しそうになりましたが、

彼の落ち着いた表情とスマイルを見て、騒ぐのやめました。

次のラウンドが一つの山場になると。



シンプルに

・焦るな、でも待たない、先に!
・足と頭、これは動かし続けること!

この2点だけ。



2R開始から一気に距離を詰めて攻勢へ




うまく自分の距離で戦えてますね。




激しい乱打戦のなかでTuanのパンチで相手のまぶたがカット。

そこからは、無理はしないで的確にクリーンヒットを狙いに!



相手のジャブに右のオーバーハンド。

これはサウスポー対策として、2ヶ月間二人で繰り返し繰り返し合わせてきたもの。





これが面白いように入る。

ハマりましたね。



出血がひどくなったところでレフェリーがストップ。



この瞬間の感覚は何とも表現できない不思議なもんですね。

引きつった緊張感からフッと全身の力が抜け、次の瞬間には喜びが溢れて胸が詰まる···

自分が選手として試合に勝ったときとは明らかに違う感情です。





他人の勝ち名乗りがこんなにも嬉しいもんなんですね。







いろんな人に喜んでもらえて

声もかけていただいて




とりあえず僕も、数ヶ月に及ぶ大きな仕事を終えて安気な夜で。


勝って飲む酒は特別ですね。


興奮して寝てませんが、なんか良い夢見れました♪


この夢が彼の中で、僕の中でもっともっと大きなものに、よりはっきりと輪郭が見える形へと繋がっていると信じて


今夜は誰もいない、静かなマレーシアの空港で独り寂しく想いにふけています。




去年、サムライジムの選手が13年ぶりのベトナム人プロボクサーとして日本のリングに上がりました。



あれから1年。



サムライジムから次の世代が育ってきましたよ。



Dao Nguyen Anh Tuan








彼は、もともとホーチミンの区に所属しながら選手活動をしていました。




ある大会でサムライボクサーと試合をし、何もできずにTKOで完敗。



それから区の所属を辞め、サムライジムで強くなりたいとジムに来ました。



正直、そういう子は吐いて捨てるほどいて



みんな気がついたらジムからいなくなる···




なもんで、サムライジムの方針は



『来るもの拒まず去るもの追わず···頑張るものには最高のチャンスを!』



最初のころは、たいして指導しないで遠くから見てるだけってのも多かったんですが、



「ここはこうやったほうがいいよ」って一言伝えると1時間でも2時間でも同じこと繰り返し繰り返し練習してて。



それが毎日、何ヶ月と続くとこっちも心が動かされますよね。




あるときから、付きっきりで教えることにしたんですが、



まぁ下手くそで。笑



そりゃ負けるよ、っていうかまだボクシングじゃないよ。笑



なんてレベルでした。




でも彼の目は本気で。僕の言葉を頭フル回転で理解しようとする。



だいたい強くなる選手はこのパターンなんですよね。




何もできなかった彼が毎日少しずつ、小さなことができるようになっていく。



僕も楽しくて嬉しくて。



共に日々を重ねるにつれ、彼と未来に大きな夢を描くようになっていきました。



2年の歳月をへて、




彼はついに夢へのスタートラインに立ちます!




日本でのプロデビュー。




夢の始まりです!







試合が決まったと伝えたとき



普段、緊張しない動揺しないいつもニコニコの彼も一瞬だけ表情が引き締まりましたね。



一瞬ですが。



すぐにいつもの彼に戻りニコニコと



「ok. thank you ♪」



と一言だけ残し練習に戻っていきました。




それから彼のモチベーションはさらに上昇です。










ボクサーっていうのは試合が決まると急に成長するんですよね。




スパーリングでも、課題に対してしっかり意味を持たせた動きを意識できるようになってきました。




スパーリングパートナーも、日本ランキング争いをするレベルのプロ選手や、









東南アジアのオリンピックと言われるSeaGamesの銀メダリストなど







普段できないような相手と練習が積めました。



やっぱり努力する人間にはチャンスが舞い込むんですね♪



現在は、試合まで一週間を残した状態で最高のコンディションをキープできています。




そして、ジムの仲間や会員さんたちから彼を応援したいと20人以上の人が「応援サポーター」として遠征費を募金してくれました!





まさに彼の人柄ですね。



この期待を力に変えて、必ずその拳で夢への切符を掴んできます!




今週末、いよいよホーチミンをたちます。



彼の小さな拳にベトナムのでっかい夢をのっけて!







唯一の心配は、僕が12時間という長旅に耐えられるかどうか···


そこだけなんですよね。