父親の過去について改めて考えるきっかけになった本
東野圭吾 「分身」
2人の女の子が主人公で、それぞれの視点から交互にストーリーが進んでいく。
この2人は互いの存在を知らず、別々の地で人生を歩んできた。
1人は大学生。実家に帰った夜に家が火事で全焼し、母親は逃げ遅れて亡くなった。
もうひとりはバンド活動してる女の子。テレビ出演が決まるも何故か母親に猛反対された。
反対を押し切って出演した直後、母親は轢き逃げで亡くなった。
それぞれの主人公が母親の不可解な死をきっかけに、そもそも自分は母親と似てないのは何故なのか、自分は何者なのかを探していくというおはなし。
2人に共通していたのは「父親のことをよく知らない」ということ。
父親の半世を書くという口実で大学時代の知り合いに話を聞きに行ったりする。
この部分が自分にも重なり合って、他人事とは思えなかった。
わたしも父親の過去を知らない。
うちで父親の過去のはなしをするのはタブーみたいになっている。
子供のころ野球部だったってのは聞いたことあるんだけど、高校以降の話は一切聞いたことがない。
どこの大学へ行ったのか、若い頃どういうことをしたかとか、両親や兄弟との関係はどうだったかとか、全てが謎。
昔の写真を一枚も見たことがない。
一番若い父の姿は結婚式の写真。既に若干頭皮が薄い(笑)。
それ以前の写真は父方の実家へ行っても一切無い。それだけでなく父親の過去の私物って見たことない。
なんとなく父の過去を尋ねてはいけないってのは察していて、それが家族のなかでも普通になってたから探ろうともしなかった。
でも、父は親と絶縁したとかそういうのは全然ないし、兄弟とも普通に話す。
数ヶ月に一度は実家にだって遊びに行ってる。
親戚付き合いも当然あるので、父親の若かりし頃は親戚伝いに聞くことがたまにある。
当たり障りのない情報ばかりだけど。
それでいいと思ってる。
今の父親の姿がそこにあって、たまに過保護で厳しいけど愛情を注いでくれる現在の父親がいるなら過去がどうであれ関係ない。
けど、忘れたころに蒸し返すような出来事があった。
親戚の中に、笑い方がニャンちゅうそっくりで私と弟が「ニャンちゅうおじさん」とよぶおじさんがいる。
ニャンちゅうおじさんは大っぴらな性格で、何でもかんでも話したがる。
今年、叔父の結婚式が都内で行われたときのこと。
両親は都内のホテルに泊まっていて、私は前日そのホテルへ遊びに行った。
ホテルへは駅から10分程度で、繁華街を抜けたところにある。
田舎者には地図がないと辿り着けない場所。私もスマホ使わなかったら迷ってたと思う。
夜遅くなってしまったので、帰りは父が駅まで一緒に来てくれることになった。
私「私、行き1人で来たとき迷いそうになったよー。」
父「んまぁ、なんとかなる」
(この田舎っぺ父さん…家族旅行んときカーナビつけてても迷うくせに大丈夫なわけないだろ)
私「じゃあスマホの地図出さないからね」
ということでテキトーに歩いて駅に向かうことにした。
あれ?こっちじゃない?
いやーこっちだろ!
とやりとりしながら、気づけばすんなり駅に着いた。
私「パパと私にしては珍しく迷わずに着いたね(笑)」
父「ラッキーだね」
私「じゃ明日は結婚式前にヘアセットもあるから、○時頃向かうね」
父「はいよ」
地図も使わず、見ず知らずの地をすんなりと来ることができてよかった!
行きは明るかったけど帰りはすっかり暗くて、もと来た道がどこだったかなんて覚えてないのによく迷わなかったよなぁ。。
何はともあれ無事着いたからいいか・・
そんな程度に考えていて、あまり気に留めなかった。
叔父さんの結婚式当日。
結婚式は写真撮影やら場所移動やらで、何かと控え室で待機する場面がある。
人が大勢居る空間が苦手な私は隅っこでボーッとしていたら、ニャンちゅうおじさんに話しかけられた。
ニャンちゅう「○○(叔父さんの名前)の結婚式をここでやるなんて、奇遇だよなー!」
私「え?どゆこと?」
ニャンちゅう「だって○○(父親)、この近くに住んでたんだよ!なぁ?」
私の隣にいた父親に同意を求めた。
すると父は狼狽えたような表情をして
「あぁ、そうかもしれないですねぇ」と言葉を濁してその後何処かへ行ってしまった。
私は父親の顔を見ることが出来なかった。
だって、生まれてこのかた地元を出たことがないと思ってたし、東京で暮らしてたなんて聞いたことなかったもん
もちろん都内で何をしていたのかも知らない。
ここでやっと、結婚式前日のホテルから駅へ迷わずついた理由が分かった。
父にとって、このあたりは馴染みの地だったんだ・・・
中途半端に知ってしまうと他のことまで気になりだしてしまう。
この人は我々の知らないどんな過去を持っているのだろう?と。
今年の夏、そんな気持ちになったことをこの本を読んで思い出した。
父親が元気なうちに父親の過去を知るべきか、それとも知らぬまま過ごすべきか、どちらがいいのかはまだ判断がつかない。
けど、もし子供として過去を知るべきだと思ったなら、この本の主人公のように根掘り葉掘り探り出すんだろうな。