「お名前は?」
「いとうです。」
「藤のほうですか、東のほうですか?」
と、伊藤さんと伊東さんのように同じ発音でも字が違う名字がよくあります。
いまは漢字が違ってもふりがなは同じケースがほとんどですが、戦前までの歴史的仮名遣いだったらどうでしょう?
昔だったらふりがなが違う名字を拾って見ました。
相沢・会沢(あひざは)⇔藍沢(あゐざは)⇔愛沢(あいざは)
蒼井(あをゐ)⇔葵(あふひ)
井沢(ゐざは)⇔伊沢(いざは)
植田(うゑだ)⇔上田(うへだ)
大坂(おほさか)⇔逢坂(あふさか)
坂井・酒井(さかゐ)⇔境・堺(さかひ)
叶・加納(かなふ)⇔狩野(かのう)
叶(かな)うと加納が同じふりがなとは意外です。
「葵(あふひ→あおい)」は「逢ふ日(あふひ→あうひ)」の掛詞として古来使われました。
歴史的仮名遣い(=旧仮名遣い)が現代仮名遣い(=新仮名遣い)に改められたのは1946年のGHQによる民主化の一環です。
当時の国民は進駐軍に何をされるか恐怖もあったでしょうけど、新仮名遣いには喜んだでしょうね。
「業」という漢字を書けるようになるより、これのふりがなが(ぎよう)か(ぎやう)か(げう)か(げふ)かを覚えるほうが難しいです。
「香り」も(かおり)か(かほり)か(かをり)か?
小椋佳作詞、布施明歌のこの曲は大ヒットしましたが、歴史的仮名遣いからいうと「シクラメンのかをり」が正しいです。
でも(かほり)とひらがなの名前の女性も多いです。
「泥鰌」は正しくは(どじやう)か(どぢやう)ですが、東京駒形どぜうの初代越後屋七助は、4文字は縁起が悪いとして、3文字の(どぜう)の表記を発案し、他店にも広まりました。
出席番号の後ろだった小川(をがは)さんも、終戦後は(おがわ)さんとなって、一気に前のほうになったんでしょうか?
いまでもワ行の(ヰ)(ヱ)(ヲ)を商標に用いる企業もあります。
「ウヰスキー」は歴史的仮名遣いというわけではなく、朝ドラ『マッサン』のモデル竹鶴政孝氏が、ウイスキーは水が命なので井戸の井に因んだヰを登記したからです。
大学名をひらがなで書くことはあまりありませんが、正確には(くゎんせいがくいんだいがく)ですね。
大学名を五十音順に並べたら、ほんとは(く)のところに来るべきでしょうか?
鎌倉時代にはすでに現代の発音に近づいていたと思われますが、700年以上も話し言葉と書き言葉をよく分けてきたものです。
わずかに残った助詞の(は)(へ)(を)や一部の(ぢ)(づ)の使用も、100年後にはなくなっているのでしょうか?
最近「1個づつ」という誤表記をよく見かけます。
戦前までは、(ゃ)(ゅ)(ょ)や(っ)(ゎ)といった小文字を使わずに大文字で書いたり、「作家」が(さくか)だったように(っ)を使わなかったりで、ひじょうに読みづらかったです。
ただし、昭和56年に告示された『現代仮名遣い』でも、これらを「なるべく小書きにする」とあるだけです。
昔は読みづらかったであろう言葉を集めてみました。
せうがくかうのかうちやう⇒小学校の校長
おほずまふのにふぢやうれう⇒大相撲の入場料
せうちうのなふにふ⇒焼酎の納入
えうりやうとはうはふ⇒要領と方法
てんわうとくわうごう⇒天皇と皇后
こうえふとくわうえふ⇒紅葉と黄葉
あふぎであふぐ⇒扇で煽ぐ
くわいぐわくわんのぐわいくわん⇒絵画館の外観
きうきふびやうゐんでのれうやう⇒救急病院での療養
てうとくきうでいうゑんちへ⇒超特急で遊園地へ
しやうげふかうかうのぢよし⇒商業高校の女子
がふどうはつぺうくわい⇔合同発表会
方法や救急のように同じ音が並んでも表記が違いました。
紅葉と黄葉が違うというのも面白いです。
(てんわう)と書いて(てんのう)と読んだんです。
「あふぎであふぐ」も読めば「おうぎであおぐ」に。
(えふ)と書いて(よう)、(げふ)と書いて(ぎょう)。
「酔う」は(よふ)ですが、その昔は(ゑふ)でした。
いろは歌の「ゑひもせす」は「酔いもせず」の意味です。
「言う(いふ)」を(ゆう)と読むのと同じです。