癌になる時代だとよく耳にする。以前、10年以上前に腎がんを患い再発によりこの世を去った先輩のことを記したが、今の職場にも癌を患っている仲間がいる。

 子会社の形態をとっている組織の現場事務所に10年間詰めている、現場のボスのような,

私より7つ歳上のトシさん。大柄な体躯で部下の面倒見がいいけれど、どうやら女性の面倒見もいいらしく、バツ2の末独り暮らしの身。甘いものとタバコが欠かせない、ちょっと不健康なクセを持っている。

そのトシさん、もう2、3年前から臓器の異常を指摘されていて、昨年あたりから時折入院して抗がん剤治療を受けている。私が入院する際にはお茶目なキャラクターのスタンプを送って励ましてくれた。自身のことは「俺はできるだけクスリでいく」と言っていた。

今年4月に3週間程度、そして5月に入ってからも1週間程度の入院。6月にも・・・。これを3クール繰り返す治療。療養休暇の手続きのため私に手渡してくれた診断書の記載は「進行性膵がん」。タバコ吸ってちゃダメでしょ?

「いやあサムさん、もう俺は覚悟できてるねん。守らならん家族もないし。けど、夜中、家に一人でいたらいろいろ考えるわ」

そりゃそうでしょ。不安だし心細いし。私のサラリーマン生活も長くなってきたので、普段豪放磊落に見える人ほど実は繊細でいろんなことを考える人だという例を多く見てきた。トシさんもそう。現場が鉄火場と化しているときは素早い意思決定で次々と判断を下していく。けっこう部下1人1人の得意なこと、苦手なことをよく見ている。最近は幸い災害にも機械の故障にも見舞われず、平穏な日々。そんな中、トシさんは徐々に体力がなくなってきている。

「俺、意外と副作用少ないらしい」

と言っていた抗がん剤治療も、毎週1回の点滴を繰り返しているうちにやはり体力を奪われている。自宅で転んで頭を数針縫うけがをしてしまい、その抜糸に数週間かかった。白血球の減少などで、なかなか傷が閉じなかったようだ。ある日、事務所外の喫煙場所で

「なんか、張り合いってもんがないなあ」

と言っているトシさんに

「まずは治療を乗り切ろう。トシさんにやってもらう仕事はいっぱいあるから。帰ってくる場所はここにあるんだから、安心して病院行っといで」

と応えた。以前の自分ならどう言っていただろう。言葉は変わらなかったかも知れないが、自分の身に置き換えてお話しすることができるようになった気がする。

入院生活の経験、少しは人様の役に立ってるかしら。