診察室に入ると、そこにはC大病院泌尿器科のホームページで見たまんまの貫禄たっぷりのP教授(部長)の姿が。ビシっとしたスーツ姿の上に形ばかりの白衣をまとった姿。後に若い男の先生、その後に学生と思われる若い男女が数名、P教授の右横には看護師さんがお一人。P教授と対面する私の後に妻が座る。
貫禄たっぷりのP教授は、しかし、やさしい笑顔をたたえながら
「H先生から丁寧な紹介状をいただきました」
と切り出される。H先生が診察室のPCで打っていた紹介状には「本人には腎細胞癌の疑いが強いと伝えてます」と書いてあるはず。(画面が見えたので)
「びっくりしたでしょう。」
「でも、この病気でそうそう簡単には死にませんよ」
と続けてくださった。
P教授の説明によると治療方針としては3通りあり、
・凍結療法による手法
・開腹手術
・手術支援ロボットダヴィンチを用いた腹腔鏡手術
このうち凍結療法は手術が負担になる高年齢の人なら勧めるが、私の場合、年齢が若いこと、腫瘍のできている部位が腎臓の内側で腎動脈等にも近く、部位的にも勧められない。
腫瘍の大きさが2cmから3cmの間なので開腹する必要はない。
以上の点からダヴィンチを用いた手術をお勧めします、とのこと。
腎臓は心臓の次に血液が大量に流れ込む臓器なので、部分切除はどこででも簡単にできる手術ではない、しかしC大では月に2例以上のペースで行っており確かなノウハウがあるので安心してほしい。2週間ほどの入院、退院後2週間ほど自宅療養、と考えて欲しい。
また、腎臓がんは5年以上経ってからも再発の可能性があり、手術後も10年間付き合うつもりで考えてほしい。
などなど。
H先生からの紹介状に同封されていたCTの画像を見ながらゆっくりと説明してくださる。後で妻は「良かったなあ」と何度もポジティブなリアクションをしている。
「何でも聞きたいことがあればどうぞ」
とは言って下さるが、私とほぼ歳が変わらない人なのだけど、やけに威厳たっぷりだし、人も(若いお医者さんや学生さんが)たくさんいるしで、何か気圧されてしまう。手術と聞いて一番心配なことをまず。
「やっぱり術後って痛いですかね」
P教授「私のように昔の開腹手術を知っている医者は「全然痛くないですよ」ってよく言うけど、それは嘘。腎臓そのものは神経がないので何にも感じないけど筋膜を切るからそこはどうしても。開腹手術だと15cmくらいズバっといくけど、ダヴィンチの場合は、そうだなあ、機械やカメラを入れるための1cmくらいの穴を4つか5つ開けて、そのうちの1つは切った腫瘍を取り出すのに、あなたの場合だと3cmないくらいだけど、正常な部分も付けて切り取るので、
だいたい4cmくらいになるかな、の穴が1カ所開けることになると思うよ。まあ、我慢できない痛みではないよ」
う~ん、そう聞いても怖いなあ。もう一つ。
「今、腫瘍が2cmから3cmくらいということですけど、私、会社の健康診断で毎年エコー検査受けていて、去年は何も言われなかったんです。ってことは1年で2cmのものができたんでしょうか?」
「いや、そうとは言えません。エコーってのは、見落としとかも結構あるもんですよ。例えば1cmの腫瘍があったとして、私でも左の腎臓ばっかり20分から30分くらいずっとなぞってたら発見できると思うけど、会社の健診ってそういうもんでも無いでしょ。2cmでも見つけられないときもあるから。
もし、あと1年、何もせずに経過観察したら1年でどれくらい大きくなるかのデータは得られるけど・・・。そんな実験をする度胸は私も無いし、あなたも無いでしょう。
このまま、・・・何も治療していなくても、2,3年は大丈夫でしょう。でも、その時になってから病院に来られたら・・・結構難しいことになっているかも知れないね」
はい。文字にしてしまうとあらかたこういったやり取りだったのだが、後で聞いていた妻によると私は何度も同じようなことを質問していたらしい。P教授、お付き合いありがとうございました。(後ろの学生さんは少し眠たそうでした。そりゃそうか)
で、私からの質問が途切れるとP教授は横にいた若い先生(T先生)に指示して、術前の様々な検査の予約を取っていく。肺活量、血液、胸部・腹部レントゲン、CT(Y病院のは5mm刻み、ここのは1mm刻みだそう)、さらには手術に備えた自己血保存などなど。もう時刻は12時を回っていたのだが
「今日中に回れるとこは全部今から回っておいてください。CTだけ別日かな。手術日はねえ、
今、ダヴィンチの予定を管理している者が出て行ってるんで、またあとでお知らせします。だいたい手術は月曜か水曜にするんで・・・10月の真ん中以降かなあ。また、決まったら連絡します。携帯電話の番号教えて下さい」
などなどやりとりし、P教授は
「ちなみに、入院したら個室がいいという人多いんです。ウチにはC、B、A、特Aってあります。特Aは1日50,000円でこんな部屋です」
と入院案内を楽しげに広げて下さる、いや、そんな部屋はお金払えません。でもできれば個室がいいかな、という希望だけ口にして、その日は診察室を後にしました。