H先生の診察室に妻と入ると、先生がいつもと同じ柔和な笑顔で、でも少し慎重な面持ちでパソコンの画面をいじっている。診察室にいた事務の人に指示を出す。
「サムさんの検査の結果、Y病院からとどいたヤツ持ってきてください」
「FAXで来たヤツですよね」
「いや、画像がちゃんとCDで届いているはずですよ。それを持ってきてください」
珍しくちょっとイラっとしているH先生。手渡されたCDをパソコンに入れ、画像を出す。
「サムさん、何の自覚症状も無いでしょ?でも、これねえ、ちょっと良くないヤツですねえ」
「はい、CTを撮ったY病院の先生が「腫瘍だ」って仰ってました」
ここでもう一度H先生の顔が曇る。でも、それなら話しやすいとなったのか
「うん、まあ癌の疑いが強いですね。でも、この大きさ(2~2.5cm)なら大丈夫ですよ。腎臓の部分切除ということになると思います。1週間くらいの入院で済む手術ですよ、そんなに心配いりません。大丈夫ですよ。」
今は本人を外に出して妻にだけ言う、とか、「ガン」と言う言葉を避けるとかはしない。「疑いが強い」という言い回し。そのほかはいろいろ言葉を選んで私を安心させようとするH先生。妻も私の後ろで
「良かったなあ」
を連発している。
私もあらかじめ覚悟が出来ていたのか、H先生の言葉にショックは受けなかった。想像していた以上に悪いものでは無く、「何かの間違えだったらなあ」という想像以上のいい結果でも無かった。良くも悪くも予想どおり。
「まあ、こういう手術になると大学病院に行った方がいいですね。ここからだとC大病院とJ大病院、どちらも一緒だと思います。どちらでも紹介状書きますよ、どうされますか」
実はC大病院には、もう20年以上前、親不知を抜くために一度かかったことがあり、古いけど診察券も持っている(あんまり関係ないけど)。ということでC大病院宛に紹介状を書いていただく。すると、H先生は
「ちょっと待っててくださいね、予約も取ってしまいますから」
と番号を調べてFAXを送って下さる。
「あとでもう一度来て下さい。予約が取れた日をお伝えします」
待合室で待つこと10分弱、もう一度呼ばれて診察室に入ると2週間後に予約が取れたとのこと。
「おかしいな、部長の外来の日だからこうなったのかな。もう少し他の先生で早くならないか聞いてみましょうか」
と言われたが、何となく早く大学病院へ行くのが怖くて
「いや、その日でいいです」
と言ってしまう。
紹介状をいただいて妻とH医院を出たあと、いったん家に帰り夏休みの調べ物をしたいという長女と3人で近くの図書館へ行く。
なぜ珍しく夫婦2人で出かけたのかを少し訝しがる長女に、まだ事情を説明できず、違和感を抱きながらその日1日を過ごしました。