犯罪は犯罪者が起こすもの。これは当たり前のこと。犯罪者は犯罪を犯した者のことを言う。これも正しい。犯罪者は犯罪を犯す前は犯罪者ではなかった。これもその通りだよね。最初から犯罪者はいない訳で、犯罪を犯して初めて犯罪者になる。では犯罪とは犯罪者がいるから起こるものなのか?要は犯罪を犯す(ことになる)素人が最初から一定数いて、その資質の通り、犯罪を犯してしまうという考え方。犯罪を人ありきで考える、これが「犯罪原因論」である。

 

上手い例か分からないが、アリの世界でも「女王アリ」は1匹、7割は何をしているかよく分からない「一般のアリ」、残りの3割がいわゆる「働きアリ」という構成である。この3割が大活躍して色々なことをやっている。よく企業の社員構成にも例えられ、3割のバリバリの有能な社員が会社を引っ張り、7割はあまり利益に貢献していない。犯罪となるとその比率が逆転し、犯罪者予備軍が3割いる。(ブラジル、メキシコ、コロンビアは9割、日本も潜在的には同じ割合という説もある)これは先天的な資質の人と後天的な資質の人(家庭環境が酷かった貧困層の子供等)を合わせた数である。今後、日本ではもっと後者が増える傾向にあると言われるが、今のところ犯罪は、3割の犯罪者予備軍がその資質を「開花」させてしまうという考え方が犯罪原因論だ。このブログを読んでいる大半の方は、犯罪は犯罪者が原因で引き起こされると考えているだろう。僕もそうだった。しかしこれ、見方を変えると、大半の人は自分は善良な一般市民で、犯罪とは無縁な人生を送るはずで、故に犯罪原因論を支持する立場だろうと思う。自分とは関係のない、どっかの悪人が犯すのが犯罪、日本ではそう思っている人が多い。

 

ところが、最近の研究でもう一つ仮説が出てきた。それが「犯罪機会論」である。僕は最初にこの説を聞いて、正直、ぞっとした。先に書いた犯罪原因論が3割の予備軍だとすると、この機会論こそ7割以上の人が対象になってしまう新説ではないか?と思った。簡単に説明する。犯罪とは「機会があったから起こるもの」だというのだ。では、機会とはどういうことか?

 

周りに誰もいない夜中の3時の夜道を彼は一人で歩いている。外套すらちゃんと照らされていないような道、防犯カメラが張り巡らされている都内のような場所ではない。酒が入って気分が大きくなっている。おや?たまたま目の前を後ろ姿がめちゃくちゃタイプの若い女性がミニスカートで歩いていた。酔っぱらっているのか千鳥足でフラフラに見える。

 

さて、彼はどうする?

 

①まず声をかける 70%

どうだろう?結構な確率でこれはいるのでは?いつもならナンパなんてしない彼でも、周りに誰もいない夜道だったら。ムクムクと訳の分からない変な「勇気」が沸いてくることだって年1回ぐらいはあるかもしれない。

 

②驚くべきことにナンパが成功する 50%

後ろから声をかける。大丈夫ですか?フラフラですけど。女性が振り返る。「お!やっぱりめちゃタイプだ!」しかもあまり嫌がっている素振りはない。眼の焦点はあまり合っていない。ちょっと口角が笑っているようにも見える。こんなスペシャルなシチュエーションが起こったら、次の一手、あなたならどうする?様々な選択肢が頭の中を駆け巡る。今から飲みに行く?角を曲がったコンビニの駐車場で話す?いや、コンビニを逆に曲がった先に人気のない公園もある。

 

いや。。。。。。。。自宅に誘う。いけるかも。。。。。。。、、、、、、、、

 

③思い切って自宅で飲み直そうと誘ってみたら、なんとOK 50%

この③を経験した人も、ある程度はいるのかもしれない。まあ、こんなことはレアだが、なぜかこの日はクリアーできてしまった運命の日。いよいよ事態が深刻化していく。平坦な人生を送ってきた彼にもチャンスが巡ってきた。そう思う人が(特に男性は)多いだろう。この時点でこんな機会が起こる確率を計算すると、ざっと17.5%。後ろに行けば行くほど、確率は低くなってくるが、この先も臨場感を持って読み進めて欲しい。彼女とその場で立ち話をする。今さっき、彼氏と別れて飲み屋から飛び出してきたそうだ。聞くと地元の人じゃない。この街に住む、出会い系サイトで出会った彼氏が付き合って半年経っても家に呼んでくれないので不振に思い、抜き打ちで押しかけた。ドアの外から女性の声。それは百歩譲っても、その後に子供の声がする。え?????ブチ切れて電話で呼び出す。さすがに修羅場。冷静になろうと言われて飲み屋に入ったが、結局、大喧嘩になり、飛び出す。その後はバーで一人浴びる程呑んだ。ウォッカで正体不明になり、夜道を歩いて酔いを醒まそうとしていたころ。何たる偶然の連続であろう。

 

④自宅に連れ込むのに成功する(今日の俺はどうしたのだろう????)

と、ここでシナリオが急展開する。話し込んでいるうちに女の子が寝入っしまった。布団をかけてやろうというところまでは平常心を保っていた。しかし彼の中に感じたこともない、人生で初めての「どす黒い感情」が浮かび上がってくる。もはや制御不能となり、気付くと彼女の上に覆いかぶっている。これ一瞬の出来事?いや、何秒?いや、何分こんな状態だった????前後不覚。

 

⑤事態は最悪の結末へ

すると、彼女が目を覚まし、いきなり大声を上げて騒ぎ始めた。部屋を出て行こうと暴れ始める。玄関まで追いかける。腕を掴んで引き寄せる。そして彼は思わず彼女の口を押えて声を制御しようとする。手を噛まれた。めちゃくちゃ痛い。今度は両手で口を塞ぐ。すると、意外とすんなりと声が止まった。よかった。。。。助かった。。。。。ん?よく見ると、女性が白目を剥いている。大して強くやっていないのに。心の中はまだずっとさっきのどす黒い感情に支配されている。こいつ、ついてきたくせにふざけてる。静かにさせて当然だ。両手に力を込める。大汗がぽたぽたと吹き出す。

 

⑥クリティカルな状況での判断機会が訪れる

よく見ると口から泡を吹いている。一気に酒が冷める。今後は大汗が冷や汗に変わる。さあ、ここからだ。あなたならどうする?救急車を呼ぶ。警察を呼ぶ。友人に助けを求める。ひとまずベットで看病する。この段階で彼は人生最大の分岐点を迎えている。冷静さは酒量に寄るかもしれない。酒が一気に冷めてくると、色々な可能性が急に頭の中を駆け巡る。俺、就職が決まったばかりだった。大学の卒業式が明後日に終わったばかりだった。おとん、おかんの顔。友人、知人の反応。女性はその場に倒れたままなので息を確認する。しているような、していないような。その瞬間に完全にパニックになった。どうしよう。どうしよう。こんな機会が訪れしまった時、冷静に対応できる人は何割いるだろうか。気づいたら、彼は証拠隠滅に走っている。さっきの公園に置いてきてしまおう。彼女と俺の接点など一切ない。指紋を消せたら完全犯罪かもしれない。警察に通報したら逮捕?こんな「機会」が訪れた時、犯罪予備軍ではない一般人でも判断ミスを犯してしまうものだ。一瞬、心に沸いた「どす黒い感情」は誰にでも起こる感情だが。

 

このような「機会」が無ければ一生、何事も起こさない一般人でも大きなリスクがある。③のシチュエーションに至っては、17.5%という高い確率で誰にでも起こることだ。例はちょっと飛躍しているかもしれないけど、偶然の機会が重なると素人ですら犯罪者側に足を踏み入れてしまう可能性がある。逆に「機会が来なければ犯罪予備軍でも犯罪者にはならない」「犯罪者に機会を与えないことで犯罪を未然に防ぐ」という防止策に使える理屈であるそうだ。後悔の念が次々と起こってももう遅い。そもそも女性に声をかけなかれれば。角のコンビニに寄って、本当は買う必要ながなかったジュースと雑誌を買って、結局一人暮らしのアパートにたどり着く。何でもない一日が終わる。人生とはそういう偶然の、または必然の「機会」を繰り返しているだけの、非常にあやふやで、危なっかしいものなのかもしれない。

 

ちなみに。機会論で重要な要素は2つあるという。1つは誰も参加できるオープンな場所があること。2つ目はその参加できる場所の中に死角があるということ。先程の例で言えば、まず夜道。これはオープンで誰にでも開かれた場所だ。故に彼はターゲットの女性に出会えたということになる。飲み屋とか学校とかインターネット上とか、犯罪者予備軍(または彼のような一般人)と出会うオープンな場所があること。次に死角、要は隠れ場所があること。さっきの例ではオープンなのに誰もいない、誰も見ていないというのが死角。連れ込んだ超クローズな自宅という場所。この密室というエリアに入った段階で大いなる死角ができ、どす黒い感情が沸き起こってくると考えられる。

 

女性を殺し、3年近く逃亡を続けていた犯人が捕まって、どこで何をしていたかを記した本が出版されている。その中に潜伏先の情報が多数書かれているが、潜伏先も同じようにこの2つの要素が重なる場所を探していたことが分かる。例えば誰もが入れる公園。その中のずっと工事中で閉まったままのトイレとか。誰もが見慣れていて逆に死角になっているのでわざわざ扉を開ける人はいない。公営図書館とその隣のビルの小さな隙間。ここにもブルーシートにくるまって犯人は長く潜伏していた。無防備で誰にも疑われずに入れて、入った後に死角になる場所に犯人が隠れている傾向が高いそうだ。

 

今、話題のあのニュース。大谷翔平ですら、「機会」が来て、判断を間違えたかもしれない。通訳を庇って自ら振り込んでしまった可能性がある違法賭博金。本当なら振り込む前に一刻も早く球団に申し出なければならなかった。故に違法に加担した可能性が出ていると言われている。大谷は誰にも相談せず、隠蔽しようとしたのかもしれない。これ、殺人ほう助と同じ心理だろう。違法と知っているのに手を貸す行為。更には、なぜそこまで庇ったか?ということで言えば、大谷は最初から全部知っていて、自分もこの件に噛んでいた可能性すら疑われている。だって普通は違法なものだと分かっているのに、あれだけクリーンイメージのヒーローが手を貸すのは理解できない。球団も通訳の話を受けただけで、ちゃんと調べず「大谷は一方的な被害者であり、勝手に資金をハッキングされて振り込まれた」と今度は通訳に詐欺罪が適用されるような発表をしてしまった。本当か?これ、松本人志の件で吉本が「松本は一切の性加害には加担しておらず、完全に被害者」と早々に発表したことと酷似している。どうしてこんなことになるのか?もっと言えば自民党の裏献金問題も一緒。グレーを何とか正当化しようとして、もっと泥沼にはまっている。どうしちゃったんだろうね?本当に。

 

では、また書きます。

人生は続く。

 

 

 

 

↓出版された日にすぐにこの小説を買って読みました。

 

 

 

↓映画化されています。