12月2日(金)
駒場東大前の駒場アゴラ劇場で行われた渡辺源四郎商店第14回公演「エクソシストたち」観てきました。渡辺源四郎商店というのは、高校演劇界では知らぬ人がいない劇作家にして演出家・畑澤聖悟氏が主催する劇団。地元・青森市で活躍するローカル劇団ですが、年に一回か二回は東京公演も行っています。下北沢あたりで活動する有象無象の小劇場系劇団とくらべても、かなりレベルが高く、ほとんど外れのない作品を連発し続けています。はたして、今回は?

両親と中学生の娘の3人が暮らす青森の小さな家。娘のちづるは母親のまゆみの連れ子で、父親の昇とは血がつながっていない。さらに言えば、昇はまゆみとまだ入籍しておらず、ちずるとはまだ親子にはなっていない。ちづるの実の父親・敏三は宮城県か福島県でひとり暮らし。ちずるは時折、ひとりで敏三に会いに行っているようだ・・・。ある日、まゆみたちが暮らす青森の家に、6人の男女が集まる。ちづるの担任教師、精神科医、イタコ、怪しげな僧侶、ミュージシャン、そして神父。まるで悪魔が憑いたかのように変わり果ててしまったちづるを治療するために集められたのだ(担任教師は勝手にやってきたのだが・・・)。いずれもその道の「プロ」を自認する人たちだが、自傷行為を繰り返し、暴れ、誰彼かまわず暴言を吐き、吐瀉物を吐きかけるちづるになすすべがない。皆が途方に暮れる中、突然、ちづるの担任教師が暴れ出す。ちづるにとりついていた悪魔が、彼女にも取り憑いたのだ。はたして、悪魔憑きの原因は?人々はちづるを救うことができるのか・・・?
相変わらず、派手なセット転換などなく、ちづるの自宅の一階の居間だけで物語が展開します。ただし、その部屋は突然、敏三がひとりで暮らす宮城か福島の家に変わったりはしますが。担任教師が悪魔に取り憑かれるシーンは出てきますが、ちづるが悪魔に取り憑かれる場面はありません。部屋の二階で繰り広げられる悪魔憑き、悪魔払いの場面は、音声で想像するだけ。ただし、映画「エクソシスト」が勝手に連想され、想像力で十二分に補うことができます。このあたり、脚本と演出が実に巧みです。ちづる役の女性はまるで本物の中学生にしか見えませんが、実際には大学生みたいです。彼女が登場するのは「悪魔憑き」になる前の回想シーンとラストシーンだけ。のんびりしていて、実に可愛げのある憎まれ口を叩くいい感じの女の子としてしか登場しないのも、演出としては効果的。証言と音声でしか表現されない”悪魔払い”のシーンが逆にありありと、そして痛々しく目に浮かぶのです。
結局、ちづるを悪魔憑きにしたのは母親のまゆみの”女の業”とでも言うべき感情と行動でした。家計を助けるために出たパート先で世間というモノを知ってしまい、満足していたはずの敏三とちづるとの暮らしが物足りなくなる。夫と子供を残して家を出、若い男と暮らし始めます。しかし、お腹を痛めて産んだ子供を手放すのはやはりつらく、ちづるを引き取って育てることにします。昇は一生懸命にちづるをかわいがり、よい父親になろうと努力します。ちづるもまた、ひとりになった敏三を気にかけながらも昇をパパと呼び、新しい生活に馴染もうと努力します。しかし、そんなふたりのけなげな努力がまゆみには逆につらかった。じぶんのせいで二人に苦労をさせている。自分のために二人が頑張ってくれている。なのに自分が二人にしてやれることは何だろう?そうした鬱屈した複雑な感情が、ちづるへの虐待となって表出したのです。それを知った敏三は、離婚を拒否。まゆみの鬱屈視した感情は今度は敏三への憎悪へと変わります。「あんな男、死ねばいい」そう思っていた時に、震災が発生。敏三は津波にのまれて本当に死んでしまいます・・・。死ねばいいと思った人間が本当に死んでしまう。まゆみは混乱し、ちづるへの虐待はさらにエスカレート、敏三が死んだショックも重なり、ついに「悪魔憑き」となってしまった・・・。
このあたり、舞台でははっきりとは描かれません。観る側がそれなりに想像力を働かせてストーリーを補い、それぞれに物語を紡いでいくことで舞台が完結する、という感じ。このへんは好みの分かれるところかもしれませんが、ワシは好きですね。大きな”女の業”を宿し、すべての悲劇の原因となったまゆみが、あくまで淡々とした普通のおばさんにしか見えないところも、逆に効果的。だからこそ、昇とちづるをおいて、再びまゆみ出奔したラストシーンが効いてくる・・・。ラスト近く、会場のあちこちからすすり泣きが聞こえました。ワシは泣くまでは行きませんでしたが、皆それぞれに、自分の思いを重ね合わせて自分なりの物語を紡いでいたのでしょう。そういう意味でこの舞台は大成功だったのではないでしょうか。これまでワリとメッセージのはっきりした作品が多かった畑澤さんですが、「震災で世界観が変わった」と言ってたとおり、作風が少し変わったのかもしれません。これは進化と評価してもいいと思います。あ、もちろん巧みな台詞回しと演出で、笑わせてくれる場面もたくさんありますので、この辺は変わりませんが。いやいや、面白い舞台でした。80分という尺もGOOD。
★★★★☆(ホシ4つ)
PS:ワシ的には精神科医役の女優さんがとても好みです(^_^;)