今から2年ほど前に、自分の奥さんに有毒なメタノールを飲ませて中毒死させたという事件が東京都・大田区のマンションで起きた。その事件の初公判が9月2日に東京地裁で行われた。

「すべて間違っています」
被告は法廷で起訴内容を全面否定し、無罪を主張した。

「メタノール」というのは聞きなれない薬物で、殺害に使われたという事件をぼくは聞いたことがない。別名、「メチルアルコール」ともいい、こちらの名称のほうが聞き覚えのある人が多いのではないか。かつては密造酒に含まれ,その危険性から「バクダン」と呼ばれていたという。学生のころメチルアルコールは失明することが多いので,語呂合わせで「目散る」アルコールと覚えたとのネット記載もあった。

● 警察は他殺と断定
2022年9月16日、逮捕されたのは、大田区に住んでいた会社員吉田佳右(よしだ けいすけ)被告、当時40歳。2022年1月に、当時40歳だった妻の容子さんに有毒なメタノールを飲ませ中毒死させたとされる。

2022年1月16日の朝、吉田佳右被告が自ら119番通報。救急隊員へ「朝起きたら妻の意識がなかった」と説明。前日から嘔吐し、服を脱いだりベッドから落ちるなどして暴れていたという。

「吉田被告は、『妻を寝かしつけ翌日に様子を確認すると呼吸をしていなかった』と話していたそうです。容子さんはスグに搬送されましたが、病院で死亡が確認された。容子さんに目立った外傷はなく、警察は当初病死ではないかとみていました。

しかし司法解剖の結果、容子さんの胃の中から致死量を上回る有毒なメタノールが検出されたんです。メタノールは天然ガスなどから作られるアルコールの一種で、毒性のある化学物質。微量でも体内に入ると嘔吐や頭痛などの症状を起こし、死に至ることもあります。容子さんの死因は急性メタノール中毒でした」(全国紙社会部記者)

警察は事件と自殺の両方から捜査を始めた。容子さんに自ら命を絶つような理由は見当たらず、口から摂取したにもかかわらず自宅にメタノールがなかったことが判明し、何者かに混入された可能性が高く警察は他殺と断定した。

● 夫婦仲は悪くなる一方
吉田被告は北海道大学薬学部を修了後、「第一三共」に入社。社会人として別の国立大学大学院に通い博士号を取得し、2年間アメリカへも留学している。一方の容子さんも神戸大学農学部を卒業後、京都大大学院で修士号を取得した才媛。その後「第一三共」へ。同期の吉田被告と結婚すると退社し、事件当時は小学生だった長男と3人暮らしだった。

吉田被告の弁護側は、容子さんが第一三共の社員だった頃、容子さんの社内不倫が発覚し、それが原因で容子さんは退社したと述べた。その後、長男が誕生したが夫婦仲は悪くなる一方で、その背景には容子さんの退社後のキャリアがうまくいかなかったことが影響していたと主張した。

「吉田被告は調べに対し『家庭内別居だった』と話しています。関係者によると、吉田被告の浮気で関係が悪化していたという噂も出ている。夫婦には会話もなかったそうです。吉田被告は、容子さんにより家から閉め出されることもあったとか。しかし容疑に関しては、当時から『妻に殺意を抱いたことはなく、自宅にメタノールを持ち込んだこともない』と否認していました」(前出・社会部記者)

容子さんは吉田被告が風俗店に通うことや生活費を出さないことに、吉田被告は容子さんの喫煙癖や浪費癖に不満を持ち、家庭内別居状態に陥っていたと述べた。

一家は2018年から2年間、吉田被告の留学でアメリカ生活を送ったが、帰国後も吉田被告の風俗店通いは続き、A子という風俗嬢に入れ込むようになった。そんな吉田被告を容子さんは「気持ち悪い」「梅毒」となじりながら携帯で撮影・録音。さらに子供のいる前で「臭いから寄ってこないで」となじったり、消臭スプレーをかけ家から閉め出したり、息子と会話するのを邪魔することが度々あったと述べた。

「消臭スプレー」というのは強烈でいかに容子さんが吉田被告を毛嫌いしていたかがわかるようなエピソードだ。

 

「子供のことを考えると別れることもできず、我慢して同居生活を続けていた」と吉田被告は述べた。

そして事件前日の1月13日、検察側は吉田被告が会社の研究室に2リットルの高濃度のメタノールが持ち込まれていたと明かした。それを吉田被告が自宅に持ち込み、14日夜から翌日未明にかけて、容子さんが日頃から飲んでいた紙パックの焼酎に混入させて摂取させたと推定した。

● 嘔吐したり、失禁したり
16日午前7時40分に吉田被告が119番するまでの間、容子さんは嘔吐したり、自室で服を脱いで失禁したり、水風呂に入浴。またうめき声をあげてベットから落ちたりしながら中毒症状に苦しんでいたが、放置し続けた。この間、吉田被告がA子(風俗嬢)にLINEを送っていた。

容子さんがメタノール中毒に苦しんでいた時、すぐに119番通報しなかったのは「二日酔い」と考えていたからで、当時はコロナ禍の最中で安易に救急車を呼べる状況でもなかったと反論。「容子さんが自分でメタノールを摂取した可能性がある」と訴えた。

しかし限りなく吉田被告が犯人に近いのでは?と思われるが、裁判の結果が待たれる事件だ。

裁判は月末まで全15回の日程で、検察側・弁護側双方が解剖医や薬学の専門家などを証人として呼び、徹底して争われる予定とのこと。

 

参照:「メタノールで妻殺害」初公判 「第一三共」元エリート研究員は無罪主張

           第33回 「目散る」アルコール