
星新一の「はい」というとても短いタイトルのショートショートを読んだ。物心ついたころから、耳についているイヤリングの指示に従って生きている男の話。
「おい、起きろ。七時だぞ」と、耳元でささやかれ、今日の日付を言われて自分が28歳と三ヵ月であることを意識するところから始まる。会社の出勤も結婚さえも耳元でささやく声に従う。
心のなかに割り切れない疑問がわくが、その事に関してイヤリングの声は「世界で最も性能がよく、最も大型のコンピューターなのだ。また、なぜこうなったのかを知っているはずだ。おまえたち人間は、自分で自分がしまつしきれなくなったのでわたしにすべてをまかせたのではないか」と、説得してくれる。
ところで、ショートショートであるならば最後に意外な落ち、もしくはドンデン返しが用意されているものだが、このショートショート「はい」は、最後の最後まで大きな変化はなくそのまま終わってしまう。星新一らしくないお話しの運びなので、逆にそこが意外性であり、驚いたことになる。
この物語では、指示する声という実態を伴っているわけだが、本当に怖いのは指示の声がないのに、知らないうちにあるシナリオ通りに人生を動かされてしまうことだ。
今回の話で言えば、イヤリングからの指示は大型コンピューターからということになっているが、それが実はある時期から自分の奥さんからの指示に置き換えられてしまっていた・・・・
コンピューターではなく実際にコントロールしたいと思っている現実の人物が操作していた・・・というパターンもありそうだ。
どこかスッキリしない話しというのは、意外に自分の頭の中で色々想像し展開してしまうものだ。