岡山県里庄町のゲストハウス「Cafe&GuestHouse 凸屋」で発生した連続性的暴行・盗撮事件は、宿泊施設の安全性や経営者の責任が問われる極めて悪質な犯罪です。経営者の武内俊晴被告(52)には、2026年10月、懲役26年の実刑判決が確定しました。

2025年9月24日の第一審判決公判で、岡山地裁は検察側が懲役28年を求刑したのに対し、懲役26年を言い渡しました。これを不服とした武内被告は、事実誤認や量刑不当を理由に翌25日に控訴しました。しかし、第二審の広島高裁岡山支部も控訴を退けました。

さらに、武内被告は最高裁に上告しましたが、最高裁は先月26日付で上告を棄却する決定を出しました。これにより、懲役26年の判決が確定しました。

武内被告は、最初に逮捕されて送検された際、テレビカメラを見つけると、カメラに向かって親指を立てるしぐさを見せていました。

武内被告は高校卒業後、地元の電子機器製造会社の工場に勤務していましたが、数年前にゲストハウスを経営するため退職しました。車やバイクで旅行することが趣味で、北海道などにも足を運んでいたといいます。

親族の男性は、武内被告について「料理が得意で、性格もとても優しい。信じられない」と話し、事件への困惑を隠せない様子でした。

●  口コミでは「女性一人でも安心」と評判。「笠岡ラーメン」も人気に
「付近を旅行するときはいつも利用している」「夕食の鍋が絶品」――。

武内被告が経営していた「Cafe&GuestHouse 凸屋」は、大手旅行サイトの口コミ欄で利用者から高い評価を受けていました。現在、これらの口コミは削除されています。

インターネット上では「女性一人でも安心して利用できる」といった投稿もありました。また、名物の「笠岡ラーメン」を提供する宿としてネットニュースに取り上げられたこともあります。

関係者によると、武内被告は2018年に古民家を購入し、改装したうえでゲストハウスを開業しました。囲炉裏を備えた内装や名物の笠岡ラーメンが評判となり、バイクでツーリングを楽しむ旅行客などが多く訪れていました。女性が一人で宿泊するケースも少なくなかったといいます。

小規模なゲストハウスでは、経営者やスタッフが一人で施設を運営する「ワンオペレーション(1人勤務)」が一般的です。武内被告は、こうした運営体制を悪用し、ほかのスタッフや第三者の目が届かない状況を作り出していました。

宿泊施設の安全性を信頼して訪れた女性客、特に一人で利用する女性を標的にし、逃げることが難しい状況で犯行に及んでいたのです。

起訴状などによると、武内被告は2018年から2022年にかけて、自身が経営するゲストハウスの宿泊客など、女性計9人に睡眠作用のある薬物をカクテルなどに混入して飲ませました。そして、抵抗できない状態にしたうえで性的暴行やわいせつ行為に及んだほか、女性客1人を盗撮したとされています。

宿泊施設では、表向きには「料理がおいしく、優しいオーナー」として振る舞いながら、裏では複数の女性に対する暴行や盗撮を繰り返していました。利用者の口コミや施設の評判だけでは、こうした危険性を見抜けないという問題も浮き彫りになりました。

●  「黒い影から命令されていた」と主張
武内被告は公判で「黒い影から命令されていた」などと説明しました。弁護側は、武内被告が統合失調症、あるいはほかの精神疾患の影響によって善悪を判断し、自身の行動を制御する能力を失っていたとして、無罪を主張していました。

ただし、「黒い影から命令されていた」という説明が出てきたのは、逮捕・起訴後の公判の場でした。

捜査段階の取り調べでは、多くの事件について黙秘したり、「何をやったのか思い出すことはできません」と話したりして、容疑を否認する姿勢を見せていました。当時の取り調べで、黒い影から命令されたという具体的な幻覚や幻聴について供述していた記録は確認されていません。

そもそも、精神状態に問題があったと主張する一方で、ゲストハウスの経営を継続していた点には疑問が残ります。「黒い影から命令されていた」という説明も、犯行の責任を免れるための弁解ではないかという印象を受けます。

さらに、武内被告の逮捕後には、別の宿泊客に対するわいせつな画像や動画が大量に見つかりました。犯行の様子を撮影した映像データは、被害者ごとにフォルダを分けて保存されていたことも明らかになっています。

宿泊施設の経営者には、利用客のプライバシーと安全を守る責任があります。それにもかかわらず、武内被告は宿泊客を盗撮し、その映像を被害者別に整理して保管していました。顧客の安全を守るべき立場を利用した犯行であり、その悪質性は極めて高いといえます。

一方、近隣住民との関係も良好ではなかったようです。近所に住む男性によると、土地を巡って武内被告と口論になったことがあり、ほかにも他人の畑に瓦を捨てたことが原因でトラブルになったといいます。

この男性は「女性の宿泊客には優しく接していたようだが、地元住民は近寄らないようにしていた」と証言しています。

●  主要な逮捕・追送検の経緯
武内被告は、自身が経営するゲストハウス「Cafe&GuestHouse 凸屋」の女性宿泊客を標的に犯行を重ね、警察に少なくとも計7回逮捕されました。

・【1回目】2022年9月20日(初逮捕)
【容疑:準強制性交等の疑い】


2019年8月、宿泊客だった神奈川県在住の30代女性に睡眠作用のある薬物を混入した飲食物を摂取させ、抵抗できない状態にして性的暴行を加えた疑いです。

この逮捕をきっかけに、武内被告のスマートフォンやパソコンから、ほかの宿泊客に対するわいせつな画像や動画が多数見つかりました。これを受けて、余罪の捜査が本格化しました。

・【3回目】2022年10月31日(再逮捕)
【容疑:準強制性交等の疑い】


2021年11月、広島県から一人で宿泊に訪れた30代女性に対し、酒に睡眠薬を混入して飲ませ、性的暴行を加えた疑いです。

取り調べに対し、武内被告は「証拠が残っているのであれば私がやったことだと思うが、やったかどうかについては覚えていない」などと話していました。

・【7回目】2023年3月13日(再逮捕)
【容疑:準強制性交等の疑い】


2020年5月、大阪府から宿泊に訪れた20代女性に、睡眠作用のある薬物を混ぜた酒などを飲ませて抵抗できない状態にし、性的暴行を加えた疑いです。

この時点で逮捕は7回に及んでいました。武内被告は「何をやったのか思い出すことはできません」と話し、容疑を否認していました。

・【最終的な追送検】2023年5月19日
【容疑:準強制わいせつ未遂、岡山県迷惑防止条例違反(盗撮)など】


2人の女性に対するわいせつ未遂や盗撮などの容疑で、岡山地検倉敷支部に追送検されました。これをもって、一連の警察による捜査は終結しました。

武内被告は「記憶がない」などと話し、容疑を否認していたといいます。岡山県警は、女性計10人に対する被害を裏付けたと発表しました。

県警によると、追送検の容疑には、前年3月に20代女性客に睡眠作用のある薬物を飲ませてわいせつ行為に及ぼうとした事件と、同年6月に脱衣場へ設置した小型カメラで30代女性客の裸を盗撮した事件が含まれていました。

●  長期間にわたって犯行が発覚しなかった背景
今回の事件では、被害者に睡眠作用のある薬物が飲まされていたことが、被害の発覚を遅らせる一因になりました。

薬物の影響によって意識や記憶が曖昧になり、「何が起きたのか分からない」「当時のことを思い出せない」といった状態に陥ったためです。その結果、被害を認識することが難しくなり、警察への相談や事件化が遅れたと考えられます。

また、武内被告は土地やゴミの不法投棄を巡って近隣住民とトラブルを繰り返し、地域では不審な人物として見られていたようです。しかし、こうした地域住民からの評判やトラブルに関する情報は、宿泊予約サイトや行政による監督・取り締まりに十分反映されていませんでした。

旅館業法などに基づく行政の監督や、宿泊予約サイトによる施設の審査だけでは、経営者自身が犯罪に及ぶリスクを把握しきれなかった可能性があります。

この事件は、民泊やゲストハウスなど、個人経営に近い宿泊施設が抱える安全管理上の課題を浮き彫りにしました。

特に深刻なのは、利用客の安全を守るべき経営者自身が加害者になった場合、誰が宿泊客を守るのかという問題です。スタッフが少なく、経営者一人で施設を運営する場合、第三者の目が届きにくくなります。利用客が安心して宿泊できる環境をどのように確保するのか、業界全体で考える必要があります。

また、宿泊予約サイトにも、掲載施設の審査や安全管理体制の確認など、従来以上の対応が求められます。

利用者の口コミや施設の評判だけを安全性の判断材料にすることには限界があります。宿泊施設の運営体制や利用客の安全を守る仕組みについて、行政と予約プラットフォームが連携し、実効性のある対策を講じることが重要です。

参照:【判決確定へ】「薬物混ぜたカクテル」飲ませ女性10人に性的暴行・わいせつ行為等の罪
   「何泊していただいても大丈夫(笑)」女性宿泊客に薬飲ませ暴行か 口コミ高評価のゲストハウス 
   宿泊客の女性10人に薬物飲ませ性的暴行の経営者に懲役28年