ホテルからタクシーでやや西へ。
5分ほど走ったところで、渋滞。「やっぱりこの時間帯(夕方4時前後)はどこもかしこも渋滞するのかねぇ」なんて話しつつ、車はじりじり進んで…
右手にゲートが。
おおお、Kawasan Batik Trusmi!
大きな道から右折してこのゲートをくぐって…あれ、なにこれ、なんか屋台がいっぱい。
「いつもこうなの?」とタクシーの運ちゃんに聞いたら、「いや、今日はパサール・マラムだから…」と、立ち並ぶ屋台で狭くなった道に溢れる人をじわじわ掻き分けるのに必死。
ふうん、パサール・マラムかー。ド平日なのにそんなのあるんだー…。
「トゥルスミのどこへ行くんだ?」と問われて、はてさて。特にどこという決まった目的地があるわけじゃないんだけどな、工房巡って…って漠然と考えてたんだけどな、と、「バティックが見たいんだけど」と言うと、「じゃあBatik Trusmiでいいか」との答え。う、うん、どこ連れてかれるのかわかんないけど、トゥルスミでバティックならとりあえず。そこから歩いて移動すればいいし。
ゲートを入って直進、距離にして500mくらいでしょうか。
見えてきたのがこの看板。
ああ、目指すところの候補の一つじゃないか。「Batik Trusmi」って呼ばれてるのね、なるほど…。
ここ、事前にネットで調べてありました。トゥルスミのいろんな工房からバティックやバティック服を集めて売っている、観光客向けの大型ショッピング施設なのです。
あとあとわかったのですが、場所的にバティック・ショップが立ち並ぶエリアの入り口であること、駐車場が大きいことなどを理由に、チレボン、トゥルスミの人たちに「目印」的な位置づけとして見られているのでした。
で、ここでタクシーを降りたわけです。「待ってようか?」と言われたんですが、まあ大丈夫だろう、いざとなったらお店の人にタクシー呼んでもらえばいいし、くらいの軽い感じで、「いや、いいやー」と断ってしまいました。何時間いるかわからなかったしね。
それにしてもすごい人人人!屋台屋台屋台!
もともとそんなに幅が広いわけじゃない道路の両サイドにずらーーーーっと隙間なく屋台が並んでいて、その間をぎっしり人が歩いてます。すごい賑わいだのぅ…と初めて来た土地にいる時特有のふわふわした感じのまま、とりあえず目の前の大型店に突入することに。
手描きもチャップもプリントも。
入ってみると…
おお。
ほうほう。
なるほど。
こんな感じでずらーーーっと布だらけ。服に仕立ててあるのも、布のままのも、プリントのメーター売りも。全部、適正価格か「うっそ、安い!」と感じるくらいの値段。
さらに奥には、チレボン土産としてお菓子などのコーナーもありました。
でもお菓子はOut of 眼中。
バティックー!!
メガムンドゥンざっくざく!あっちを見てもこっちを向いても、とにかく目に入るのはメガムンドゥン。
メガムンドゥンというのは、この雲模様のことです。中国の影響で生まれたモチーフで、雨雲を意味します。中国から渡ってきた華僑たちに、縁起のいいモチーフとして好まれたそう。なんで雲が縁起ものなのか、日本人の感覚からはイマイチぴんときませんよね。プカロンガンのバティック・ミュージアムのおにいさんによると「雲は雨を降らせるでしょ。雨は天からの恵み。雨は大地を潤して作物を育てる。人間にも欠かせないもの。だから雲はありがたい、縁起のいいものなんです」とのこと。なるほどねー。
実は今回チレボンに行くまで、あんまりメガムンドゥンは好きじゃなかったんです。由来を知らなかったというのもあるけど、柄そのもののアクが強いというか…。色も強いし、ちょっとおどろおどろしいなあ、と。それに、スラバヤ辺りではほとんど見かけないんですね。たまにシャツにして着ている人がいるけど、全面どかーんとメガムンドゥンていうのではない。
本拠地でも「昔の柄」(つまり廃れた流行り)で、そんなに売ってないんじゃないかと思っていました。
でもそんなことなかった。チレボンでは今でもメガムンドゥンがとても愛されている。自分たちのモチーフとして、当たり前に着ているし、どこにでもあしらう。
私も、きちんと意味を知って、本場でも完全にメガムンドゥン推しなのを眺めるうち、だんだん心惹かれてきちゃったから不思議。「ちょっといい色ね」と広げた布にもれなくメガムンドゥンが入っていたりして、しまいにゃ「あらかわいい」と思うまでになってしまいました。
だってハンガーラックにもメガムンドゥンだし。
せっかく本場に来たんだから、いいメガムンドゥンを買おう、と決心。juta超えてもいい、むしろjuta超えくらいの、「本物」を買おう。
Batik Trusmiに並べてある布たちは、ピンからキリまでいろいろ。これは高い布たち。
メガムンドゥンに蝶々などの別のモチーフを組み合わせるのが旬? 店のお姉さんたちも「ほらこれ、いいでしょう?」という感じですすめてきます。
押し寄せるメガムンドゥンの波に、一同「うきゃー」とテンションが上がったところで目に入っちゃったのがこれ。
メガムンドゥンのワイングラスーーー!!!
なにこれめっちゃラブリー。スラバヤでは絶対売ってないよね…!?
「今なら20%オフよ」とそこにいたお姉さん。6客で1セット。バラ売りはしていないとのこと。その場にいたメンバー全員が色めき立ってわーきゃー言いだしたら、「
色違いもあるわよ」。青と緑バージョンもある、と出してきてくれちゃったもんだからさあ大変。
旅メンバーは私を含めて5人。3色それぞれ3セットずつ買えば、1色2客ずつで6客のセットが6セットできる…!
特に了解を取り合ったわけでもなく、その場で即決。「もう1セットはKさんへのお土産にしよう」と、今回のバティック旅に誘ったものの来られなかったお友達へのプレゼントにすることに。
問題は在庫があるかどうか。赤は売り場に3箱あったのですが、他が2箱ずつしかない。「倉庫を見に行ってくる」とお姉さん。待つことしばし、「あったわー」と大量の箱を抱えて戻ってきました。
やったーー!!
まだまだこれからトゥルスミを歩き回るつもりなのに、いきなりこんな重たい荷物を抱えてしまって大丈夫だろうか…という心配も一瞬頭をよぎったけれど、いい!いいのだ! 旅の買い物は、気に入ったらその場で買わないと、次にどこかで買えるという保証はないんだから!
「商品はレジで受け取ってね」と伝票を渡され(インドネシアではよくやるやり方)、グラス確保。うひひひひ。
そうこうしている内に外は雨になりました。結構な雨足。こりゃしばらくここにいるしかないね(全然いいけどね)と頷きあう私たち。
さてさて、布で沈没するぞー!
はい、沈没。
チャップやプリントものは、同じモチーフで色違いがあったりするものだから、掘れば掘るほど深みにハマってあれもこれもと広げるうちに手元にどんどん布がたまっていくのです…ふふふ。
私はと言えば、
ズキューン

これもチレボンならではの描き方。オランダ時代にうまれた、コンポニアン(Companyから来ていると思われる)と呼ばれるものです。兵隊さんやスポーツをする人、舶来ものの道具などを白地に描いたバティック。やべー、ワーゲンかわいー。色もすごいかわいいー。
一枚一枚手描き。同じモチーフのものが何枚もある場合もあります。ここにはこの車模様の他に、ゴルフをする人、ベスパとヘルメット、ガムランなどのモチーフがありました。「こういうのもっとないの?」と聞くと、「今あるのはこれだけね…他のお店に行ったらもっとあるんじゃないかしら」と売り場のお姉さん。
こういうののいいやつも1枚欲しいなあ。
トゥルスミは明日も、最悪明後日も来られるから、じっくり沈没しようっと。
…と思いつつ、バティックは本当に一期一会。いいと思ったら手に入れておかないと、同じものに再会できる可能性なんてありません。
というわけで車のやつは購入決定。手描きなのに、こんなにかわいいのに、色もすごくいいのに、安い。
手描きの、なかなかにクオリティの高いメガムンドゥンの値段を確認したり(意外なほど高くなかった。もっと出せるから、もっといいのあるかしら、と今後に期待)、メガムンドゥンからポール・スミスばりのストライプが伸びてるやつとかをきゃーきゃー言いながら広げて、こっちが似合うだのあれはどうだの、「お客様お鏡こちらでございます」「お似合いですわー」「ちょっとしたパーティーに」(個人的にマルイごっこと呼んでいる)を一通りやったり。
各自何枚か布を手に、レジへ。
グラスも受け取って、「さすがに重いわー」とボヤきつつ、小止みになった外へ出ました。
ひええええ、人増えてるうぅぅぅ。
狭い道、大荷物を持って人混みを掻き分け、ベチャにせっつかれ(こんなとこベチャで入ってくるなよー!と悪態をつきつつ)、Batik Trusmiのお姉さんが教えてくれたバティック・ショップを目指しました。
着いた先は中規模なバティック・ショップ、Hafiyan。
ここもメガムンドゥン目白押し。奥の部屋の棚に手描きのいいのがどっさり積んでありました。
高いのは本当に高い。そしてモノもいい。一通り見たあと、人と布にあてられて疲れてしまった私、布を広げるエリアでお友達が広げた布を眺めつつ座りこんでぼーっとしていたら、お店の人に「なにか飲むか? おおい、テ・ボトルもってこい。何人だ?5人?」と声をかけられました。それってあとから代金請求されたりしない?とバリ住まいだった頃に培われてしまった疑心暗鬼が顔を出して「いやいや、大丈夫ー」と言ったのも束の間、あっという間にストローのささった冷え冷えのテ・ボトルが。
あとで代金払ってもいいわ、ありがたや。一気に半分くらい飲んでしまいました。「今はこの甘さがりがたい…」とHさん。ほんにほんに。
すると、お店の人がその辺に置いてあった大きなガラス瓶のフタを開けつつ「これも食べなさい。この辺の名物だよ。油じゃなくてPasirで揚げてるからヘルシーだよ」とクルプッをすすめてくれました。遠慮なくー!ともぐもぐ。おいしー。軽いー。砂で揚げるってどういうことだかよくわかんない(このあとあちこちで同じく「Pasir(砂)で揚げた」クルプッを出されて、その度説明をじっくり聞いたけど結局最後まで理解できなかった)けど、うまいー。
1枚Rp.35,000、3枚でRp.10万という大安売りのプリントものの山に取っ組み合うお友達を眺めていたら、テ・ボトルを出してくれた、イスラム帽をかぶってサロン姿の男性が「チャイニーズか?コリアン?」と声をかけてきました。周りの従業員の態度を見るに、どうやらこの人はオーナーか、その一族の様子。
「日本人よ」と言うと、「日本人だってよ、ほらな、言ったろ?」。従業員の間で私たちが何者なのか話題になっているのは聞こえてきていました。
「インドネシア語はできるのか?」
「うん」
「なんでだ、なんで日本人なのにインドネシア語ができるんだ」
「あー、スラバヤに住んでるのよね」
「もう長いのか」
「スラバヤは5年」
「5年! 今日はスラバヤから来たのか?」
「昨日はプカロンガンに泊まったの。プカロンガンから列車で、今日のお昼にチレボンに着いたところ」
「チレボンは初めてか」
「うん、初めて」
「日本人てなんでみんなあんなに長生きなんだ?なにが秘密なのか教えてくれ」
へえ、日本人だって言うと大抵の人が「日本の製品は質がいいよね」とか車の話とかになるのに、この人は平均寿命と健康法の話か。面白いなあ。
「外、人が多いだろ?」
「うん、びっくりした。これは毎日やってるの?」
「いや、今だけだよ。2週間前に始まって、明日の夜まで。明日が最後の日なんだ。地域でやってる縁日なんだよ」
謎が解けた。そうなのか。年末から年始にかけて、地元がやってるおまつりなんだ。明日が最終日だからこんなに人が多いんだ。
「明日が最終日だから、この辺の店も閉まるところが多いんだよ。ウチも明日は閉める」
「ええっ、そうなの!? どうしよう、明日この辺のお店を回るつもりだったんだけど…」
「どこに行くんだ?」
「Pak Katuraって知ってる?」
「Katura?知ってるも知らないも、あのKaturaだろ?」
「ここから近い?」
「近くはないな。でも歩いていける」
「ちょっと、明日やってるかどうか電話で聞いてみてもらえないでしょうか…」
「ああ、いいよいいよ」
「地球の歩き方」に載っていた電話番号を指しながら私の携帯を差し出すと、「ああ、いいからいいから」と店の電話をとって、ピポパ、とダイヤル。
「ああ、Hafiyanの◯◯だけど。うん、そうそう」馴染みなのね。ご近所なのね。
電話を切ると、「明日も開いてるって」。よかったー!
「これ、Pak Katuraの息子の携帯番号。明日トゥルスミに着いたら電話して、『今着いたから迎えにきてー』って言うといいよ」む、息子…!巨匠と呼ばれるカトゥラさんの息子…!に、迎えに来いって言えってか…!
そんなことしていいの?と問えば、「なんでだ? 迎えにきてもらえば迷わなくていいだろ?」とさも当然、というお返事。そういうもんなのか…?
さらに、
「今日はこれからどうするんだ。ここまで何で来た? ああ、タクシーか。Argo(メーター)か?そのタクシーを待たせてあるんだな。え、待たせてない? 帰した!? ここからどうやって帰るんだ。ちょっと待ってろ、ウチの車で送っていくから」
と、ちゃっちゃかどこかに電話したと思ったら、「ウチのドライバーが送っていくからな」とにこにこ。そ、そこまでしてくれちゃうの…!?
この後分かるのですが、トゥルスミの人たちはほんとーーーーうに親切で、迎えに来てくれる、送ってくれる、お茶は出すしおやつも出てくる…ととにかく世話を焼いてくれるのです。
Hafiyanのにいさん(多分30代後半くらい)の申し出で、私たちはとっても楽にホテルへ戻ることができたのでした。「スリに気をつけろよ。ちゃんとカバン前に持ってな。ウチのドライバーに着いていくんだぞ。気をつけてな。またおいで」と最後まですっっごく気をつかってくれました。
「いい人だったね…」と帰りの車内でしみじみ。好奇心(と空腹)に抗いきれず屋台で買ったマルタバ(スラバヤのと全然違う!)とオンデオンデ(これもスラバヤのと全然違う!サイズがでかくて揚げパンみたい)をむしゃむしゃしつつ、ホテルへ帰り着いたのでした。