私は無類のお酒好きであったこともあり、数年前まで毎晩のようにネオン街に繰り出していた。
それなりに高級店へも足を運び、美味しい料理に舌鼓を打つといった経験も沢山してきたけれど、昔ほどの魅力を感じなくなっている。
特に高級店になればなるほど、高いお金を支払えば高級な料理やおもてなしを受けられるという、いわば出来レースに飽きてしまったというのが本音である。
今思えばゴージャスな生活こそが、成功者の証だと勘違いしていたのかも知れない。
ある頃から週末は繁華街ではなく、海や山へ野宿キャンプに出掛けることが多くなった。
コンクリートジャングルでは感じられない、懐かしい土の香りや心地よい潮の風。週末に街を離れ自然と調和する。
オートキャンプとは異なり周囲には誰もおらず、山では虫の声と風で葉がこすれる音だけしか聞こえない。
普段は見上げることのない夜空に広がる無数の星。月明りがパソコン作業で疲れた目を癒してくれる。
テントを張ってたったひとりで一晩過ごしていても、不思議と誰かと繋がっていたいという気持ちは全く湧き上がってこない。
ゆったりと無意識に深い呼吸をしている。時間とともに思考がとことんシンプルになり、複雑に絡みついていた脳のすべてがどうでもよくなってくる。
つい数年前まで、毎日やるべきことをこなすだけで時間が無かった。
でも時間が無いから落ち着けないのではなく、落ち着かないから時間が持てないのだと気づく。
何も考えずに自分の心と向き合う時間。
まったく騒音の無い大自然の景色が、スパークした心や身体をリセットしてくれる。
海では波の音をＢＧＭに、ウイスキーで火照った頬を潮風が心地よく冷やしてくれる。
山では虫の声で眠りにつき、野鳥たちのさえずりで目を覚ます。
地球の上で、自分がいま生きていることを確認してみて欲しい。
ゴージャスな生活を送るためにキャッシュポイントを増やしたわけではない。
将来が不安だからは建前であり、好きなことを好きな時に好きな場所で好きな人とすることを可能にするため。
もう四十も後半に突入し、そろそろ人目や人の意見に振り回される人生は完全に卒業だ。
社会の常識や正しさなんてくだらない、自分がどう在るべきかだけ。
きらびやかな世界も時に人の心を豊かにしてくれる。
けれど、人間が傲慢にさえならなければ、自然はいつでも最高のおもてなしをしてくれる。
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