人口およそ一万三千人ぐらいの小さな街に住んでいるんですが、ここには5軒ほどのパン屋があります。
ドイツは確か、パンの国と言われていましたよね。日本からドイツでパンの技術を学ばんと、若人が修行に来る国ではなかったでしょうか。
どうしちゃったんでしょうか。わが街のパン屋さんたち。
ここ数年、味が年々落ちてましてね、もう胸ふさぐ味のパンしか手に入らないんですよ。見かけは悪くないんだけど。
一軒だけ満足できるパンを売ってくれるお店がありますが、ここはえらく不便なところにあり、しかも量を作らないために、一塊のパンを手に入れるのが至難の業。
わたし自身はね、パンなくたって生きていけます。お米があれば。それに夫も、現在もゆるゆると炭水化物を減らした食生活しているので、無けりゃ無くたっていい。
だけど、次女は、夜ご飯にはパンとハムとチーズとピクルスが必要なんですよ。あと、学校に持って行く弁当にもパンが必要だし。それにわたしだって、(大して好きでもない冷たい夜ご飯を)一日の締めくくりとして夕食にするためにはちゃんとしたパンがあったほうが良いわけです。
満足できない固く、酸っぱいパンの消費にも頭を痛め―薄くスライスしようが焼こうが焙ろうが、サンドイッチにしようが食べられない—粉々に砕いて、バターケーキを焼くときに一部小麦粉の代わりにするという方法のみしか消費方法が無いとわかった時に、もうきっぱりとパン屋でパンを買うことを辞めました。わたしは、この街の乳製品屋さん(チーズやクリーム、バターなどの専門店)と行きつけだった鳥屋さん(たまご、鶏肉の専門店)が相次いで閉店した時に、伝統ある小売業者を応援するために、できる限り物品は小売業者で買うことを誓ったんだけど、やはり、品質がアレだったら、応援したくても無理です。
そこで、大喜びでふかふかの日本風の食パンを焼き続けてましたが、遂に次女が飽きました。「まま、にほんのは、もういいや」だって。
母親が犯しがちな過ちですね。家族に喜ばれたのでうれしくて作り続け、すぐさま飽きられる。
で、現在は、ドイツ風パンを主に焼き、たまにおやつカテゴリーで食パンを焼くようにしています。どうしても時間が無い時ややる気のない時はスーパーで買っています。Lidlという、安売りスーパーがあるんだけど、そこに(大量生産に違いない)店内で焼き上げるパンのコーナーがあって、そこで数ユーロで一塊のパンが買えますが、はっきり言ってわが街のパン屋のパンよりもずっとまし。本当にどうしちゃったんだろうか。パン屋さんたち。
なんだかんだ雑穀を入れたわたしの「一期一会パン」。計量してないので、二度と同じのは焼けないのが特徴。おいしいですよ。ただね、発酵に時間かかるので、綿密に計画立てないと、温かいパンを夕ご飯に食べる羽目になったり(このタイプは冷めてないとダメと思う)、夜中に焼く羽目になったりします。ちょっと、しょっちゅうは無理だな。
で、先日から遂に禁断のバゲットにも手を出しました。ハマろうと思えばいくらでもハマれるバゲット。「クープ」なるものに魅入られてしまったら最後、どうやら納得するまで焼き続けてしまう症候群に侵されるらしいバゲット。
いや、これ、気に入りました。なにしろ、全然手がかからないんですよ。ヘラでぐるぐる混ぜて、しばらく置いといて、成型して焼くだけ。まあ、その一つ一つの工程にコツと言うのはあるんでしょうし、完璧を期すなら難関中の難関のパンなんでしょうけどね。見かけはどうであれ、ある程度美味しいもので満足できるんだったら、本当に気軽に焼けるパンと思います。
ちゃんとした焼き手の諸先輩がたが見たら噴飯ものでしょうが、でも、味は悪くない。あと、気に入ってるのは、材料が少なく、砂糖も入らないこと。粉と水と塩とイーストだけ。
目が詰まったパンではあるが、美味しかった次女の夕ご飯。これに二十日大根と作り置きの人参サラダとピクルスだけで、完璧に満足する。ドイツ人だなあ。長女だったら、こうはいかない。日本風にざーっとオカズがないとダメ。