ドイツではどんなケーキを食べればよいか (主観だらけです)
もしも、運が良く、何かローカルなお祭りや催し物に出くわしたときは、それが昼時であろうとも、この際食事は忘れて、手作りケーキのコーナーへ行こう。まあ、そういう偶然はめったにないだろうが、まったくないとも限らない。あるいは、週に何回か催される青空市場の一角に、その土地の学校の保護者が企画したケーキ販売スタンドがあるかもしれない。学校の遠足とかお金のかかる行事の資金の足しにするために、ドイツの学校はよくこういったスタンドを出店し、手作りケーキを売りさばき、小金を儲けるのだ。これは本当に良くやる。実際昨晩私も長女の学校の保護者役員なのだが、卒業パーティのどんちゃん騒ぎの資金集めのために、ケーキを売りさばこうと発案し、全員の賛同を得、今後月に二回、街の青空市場で出店するのだ。私はさっきまでシフト表とケーキ当番表を作っていた。
ドイツで最も美味しいケーキは、主婦の作った手作りケーキです。これは断言できる。
食事つくりにはほとんど情熱を見せない女が多いドイツにおいて、唯一主婦が台所で一心不乱に作成するものはケーキのみ。
日常の生活の中で、あまりにも頻々とケーキを焼く機会があるので、通常の真人間の主婦ならば、だれもをうならせることの出来る十八番の一つや二つはあるのだ。こういうケーキ即売会で売られているケーキは、生クリームを使用したスポンジケーキでも大変美味である場合がとても多い。
しかしながら、これらは短期旅行者の方々が出会う可能性はまったくないとは言えないが、少ないために、先を省略して、もっと現実的な方向に話を進めよう。
ファッションを見てみれば良い。街を闊歩するドイツ婦人達を。
質実剛健、コンサバティブ、スポーティ、おしゃれ気皆無、ダサ地味。こういう人ばかりだ。イタリアやフランスの都会でお目にかかる、ファッショングラビアの「ヨーロッパでみた迫力マダム」みたいな特集にでてくるような婦人はいない。そもそもドイツの街がファッショングラビアの特集に出た事あるだろうか?ファッショニスタに相手にされない国なのだ。
ちょっと張り切った人がいるかと思うと、それは大昔のボディコンの亡霊が取り付いているようなけばい婦人で、これも到底洒落ているとはいい難い。
ケーキも同じなんですね。
ちょっと張り切ったごてごて手をかけたように見えるケーキはお手の物でないのです。
ドイツの喫茶店で食べるべきは、質実剛健、素朴、伝統的、手作り感満載、お洒落気皆無のケーキなのです。
具体的に言うと、まず果実を使用したもの。
りんごのケーキ
これはいろんなバージョンがある。バターケーキの上に大きく切ったりんごを無造作にばさばさ置き、焼き上げたもの。薄めのパン生地、あるいはバターケーキ生地の上に少し薄めに切ったりんごを大量にのせ、その上からバターと小麦粉と砂糖で作ったそぼろをかけてこんがりと焼き上げたもの、クッキー生地で作った枠に、りんごの甘煮をぎっしりと詰めて、更に生地で蓋をして仕上げたもの。
これらは、さすが「明日世界が終わろうとも、それでも私はりんごの木を植える」という言葉で有名な、マルティン・ルターの国の面目躍如と言うか、本当に良い味のことが多い。
ベリー類のケーキ
フランボワーズ(Himberren)、すぐり類(Johannisbeeren/Stachelbeeren)などのケーキも秀逸である。
りんごケーキと同じように、生地の上にただばさばさと乗っけて焼いた簡単バージョンから、バニラ味のプディングを絡めたようなお洒落バージョンまであるが、見かけは単なる焼きっぱなしのケーキ。原則的にその果実が収穫されるときしか作らない季節の風物詩でもある。
収穫に感謝し、地の恵みに感謝しながらその季節になるとドイツ人は大喜びでこれらのケーキを楽しむ。
どうです?だんだん見掛け倒しのファッション反対、質実剛健でなにが悪いって気持ちになってきませんか?
国民的ケーキ
ツヴィッチゲン(プラム)ケーキおよびルバーブ(だいおう)ケーキ
ツヴィッチゲン、これは、9月の終わりから収穫できる果実だが、日本語ではプラムでいいと思う。この木は、庭を持っている家庭なら、片隅に必ずあるくらいポピュラーな果樹で、紫色の実がたわわに実った重たげな枝もドイツの秋の風物詩である。
春の代表はドイツ語ではRhabarber、ルバーブのケーキである。
かつて小学生のころの愛読書、「赤毛のアン」シリーズのどれかに、アンの腹心の友ダイアナがおばさんだかなんだかに「ダイオウ」のゼリーを持っていく件があるのだが、そのころ「ダイオウ」とはなにか、想像もできず、なにか固いりんご状の果実かなあと想像していたのだが、長じてドイツにて、その正体を知ることができた植物である。見かけはみどりか薄赤の蕗だが、火を通すとちょっと青臭くてすっぱい魅力的なケーキの具になる。
果物と言えば真っ先にイチゴが思い浮かぶと思うが、ドイツのイチゴケーキはまあ、好き好きと思う。通常は春にしかない。ごく一般的なイチゴトルテは、スポンジ生地で台を作り、そこにイチゴをばさばさとのせ(薄く切って丁寧に芸術的になんてのせない)、イチゴの上からゼリーを回しかけ、イチゴを固定したものである。だから、日本のそれのように、しっとりとした感はなく、なんとなくぱさついたケーキなのだが、お決まりの生クリームをてんこ盛りに添えて食べるのがスタンダードだ。ちょっと気の効いた店では、スポンジとイチゴの間にカスタードクリームを敷いたりしている場合もあるが、ごく稀だ。イチゴの季節にドイツを訪れることがあれば、まあ一回は話のタネに試してもいいかもしれない。
余談だが、イチゴのショートケーキを含む生クリームを使用したショートケーキはたぶん日本の子供は大好きと思うが、ドイツの子供たちは、そんなものより焼きっぱなしのマーブルケーキ、バターケーキのようなものの方が断然人気が上だ。
以上の様な果物使用の焼きっぱなしケーキは、それこそドイツ人の得意とするケーキで、物心つく前からこれで餌付けされているのだ。したがって、プロと言っても、ちゃらちゃらしたケーキより断然こっちのほうが得意なわけで、しかも(私が思うに)注文数もこれらの素朴なケーキのほうが、断然多く、したがって回転も速いということも味の勝負でお洒落系ケーキに圧勝する理由ではないかと思っている。
さて、それでは次回はドイツの喫茶店での場面のシミュレーションをしてみよう。
さんぼ