…本当に、この生き物は動物なんじゃないだろうか。


しばし逡巡のち、正人はカバンから残りの三冊を取り出すと本棚に収めた。


寮と学校の往復になるだろうからと、着替えは制服と部屋着が数着。
量にして、本の3分の1もなかった。

着替えをクローゼットにしまい、これで持ち物は一通り片付け終わり。
正人は軽く手をはたくと、最後の仕上げとばかりに竜姫のベッドへ向き直った。


「おい、そのまま寝ると……」

一瞬言葉を失った。

「ん…」

長いまつ毛をかすかに震わせ竜姫が小さく身じろぐと、やわらかそうな白い頬を栗色の髪がさらりとすべり落ちていく。
うすく開かれた桜色の唇からは、言葉ともつかない呻きのような吐息が発せられた。


これから毎朝これか…


正人はまだ見ぬ今後にげんなりしつつ、竜姫の肩を揺すった。

「おい、そんな格好で寝ると制服シワになるぞ」


やまびこのように同じ台詞が幾度か響いた。





数分後、部屋の中には早速机に向かい参考書を開く正人と、気持ち良さそうに寝息をたてる竜姫がいた。


「・・・いいなぁ」


背後のベッドから竜姫のつぶやく声が・・・聞こえない聞こえない。


教科書の類は卓上のブックスタンドに立てて、分厚い参考書や資料の類は本棚に。


本棚は2人で共有のようだから半分は空けておくとして・・・

とりあえず、先刻並んで歩いた印象では一番上の段を正人が占領しても問題なさそうだった。



「どーしたらなれんの?」


今度のは明らかに正人に投げかけられた言葉だった。


「・・・なにに?」


正人は手にした本を本棚入れると、仕方なく振り向いた。

残りの3冊も、早く本棚に片付けてしまいたいのに。


竜姫はベッドの上で頬杖をつき、丸っこい瞳をこちらに向けたまま答えた。


「館野みたいに」


・・・・・・


「あぁ、身長?」


正人なりに、訳のわからない言葉の意味をなんとか汲み取ろうとして出た答えだった。

多少竜姫に失礼なことを言っている気もするが。



「も、そうだけどさー。他もいろいろ」


いろいろが何を指すのかはわからないが、まず性別が違うんじゃないだろうか。

正人が抽象的な言葉の理解に苦しんでるのを見ながら、竜姫は枕に頬をうずめるとまた、独り言のようにつぶやいた。


「いいよなぁ・・・」



言葉は理解不能だが、不思議と不快感はない。

褒められている・・・のだろうか。



また言葉の意味を考え込んでしまっていた正人がふと我に返ると、ベッドの上では竜姫が小さく寝息を立てていた。


正人は竜姫に案内され、部屋へと向かった。


「へー!扉の色が違うんだ」


竜姫はキョロキョロと辺りを見ては、「これは同じだ」「あれはなかったな」などと楽しそうに感想を述べた。


「415,415・・・あったあった!」


竜姫に先導され、正人も部屋に入る。


部屋は左右対称な作りで、ドアを入ると2M程の廊下。正面には窓が一つ。

それをはさむようにベッドと勉強机が左右に一つずつ、右側の壁にはトイレとバスルームの扉、左側の壁には大きめの本棚がすえつけてあり、手前の壁の左右にはクローゼットがあった。



思いのほか質素な感じが・・・いやいや、他が豪勢すぎるだけで、寮の個室にバスルームがあるのは十分贅沢な作りだろう。広さも十分ある。


荷物はドアの脇に置いてあった。



「こっち俺ー!」


バフッ


竜姫は勢いよく右側のベッドにダイブした。


「新しいシーツっていいな~・・・・・・あ、館野もこっちがよかった?」


入り口に立ったままの正人を振り返る。


「いや、いい」


正人は荷物を拾い上げると勉強机の上に広げ、テキパキと必要な場所に配置した。


ベッドで頬杖をつきこちらを眺めている竜姫のことは、ひとまず気にしないことにした。