箱根の森の中の発見現場に来た特命の二人
亀山『ここですか』
神奈川県警の吉井刑事『ええ、遺体は埋められていましたが手の先が見えていました』
右京『この場所は普段から人通りはあるのですか?』
吉井『いえ、普段は余り無いですね、ただ昨日から箱根の森のゴミを拾う団体が結構な人数で来ていました』
亀山『なるほど、普段は見ない場所も見ることが出来たということですか』
右京『その団体の行動予定は事前告知などはあったのですか?』
吉井『ええ、調べたところ駅のパンフレットやホームページでも公開されていました』
右京『・・・』
亀山『それで薫さんの遺体はいまどちらに?』
吉井『監察医の二宮早紀先生が解剖しているところです』
右京『亀山君、そちらに行ってみましょう』
大学病院にて
二宮『遺体には背中を一回、胸を2回刺された跡がありました。抵抗した後がほとんど無かったのでおそらくいきなり背中を刺され、振り返ったところを再度刺されたのでしょうね』
右京『では躊躇なく行われた犯行だと言えますね』
二宮『ええ・・・とても犯人が自殺まで考える人物は思えないわ。これは衝動的な犯行ではなく計画性が感じられるわ』
亀山『でも・・・近藤は遺書の中で殺人を自供しているんですよね』
右京『こうなると近藤さんの自殺をもう一度洗い直す必要がありそうですね~』
特命に戻った二人
右京『事件の起こった順序はこうなります』
【2月15日、間山薫が母親に電話したあと行方が分からなくなる】
【2月16日、大家の松村さんが様子のおかしい近藤を目撃】
【2月18日、近藤が遺書を残し自殺】
【2月19日、間山薫の遺体発見】
亀山『間山薫の死亡推定時刻も15日の夜から16日にかけてでしたね』
右京『ええ、しかし何かあるはずです』
角田『ヒマか?』
亀山『今取り込んでますから』
角田『新しい情報を持ってきてやったのに』
亀山『なんすか、情報って』
角田『どうやら近藤は14日にレンタカーを借りていたことが分かったんだ。しかも一ヶ月ほど前から精神科に通院していたんだ』
亀山『レンタカーで箱根に行く、精神を病んでいた・・・こりゃ決定的ですよ』
右京『レンタカーはいつまでの予定だったのですか?』
角田『確か・・・16日までだったかな。でも返却に来なかったそうだ』
右京『・・・妙ですね~二宮先生の言うように殺害した人物が冷静さを持っていればレンタカーは返却しているはずです』
亀山『いざ殺してみると恐ろしくなったってことですかね』
右京『それにしても犯人像とのイメージの差がありすぎますよ。先ほどおっしゃった精神科に行ってみましょう』
精神科にて
亀山『精神科医って美咲先生だったんですか』
内田『杉下さん、亀山さん、お久しぶりです』
右京『さっそくですが、近藤さんの症状というのはなんだったのでしょう?』
内田『それが・・・私には分かりませんでした』
右京『というと?』
内田『本人は二重人格だとか、夜中に自分が何かをしているとか言っていたんですが、そんな症状が見えてこなかったんです』
右京『それはどういうことが考えられるのでしょうか?』
内田『嘘をついているか・・・誰かに洗脳されているか、まあ我々でもない限り無理な話ですけど』
亀山『どうなってるんすかね?』
右京『僕にもまだ分かりません、ただ近藤さんは誰かに犯人に仕立てられたと考えるべきでしょう』
花の里にて
美和子『それでどうなの事件の方は』
亀山『さっぱりだよ、ねえ右京さん』
右京『ええ・・・もう1ピースあれば』
たまきさん『罪の意識で自殺なんて、その近藤って人は人がよすぎたんじゃないかしら』
亀山『でも人を殺してるんすよ?』
たまきさん『それは殺すつもりが無かったとか、誰かをかばってとか考えられるじゃないですか』
右京『なるほど・・・ようやく見えましたよ。どうやら近藤さんは人がよすぎたようですね~』
警視庁に戻り、鑑識にて
米沢『捜査一課は被疑者死亡で送検するようです』
右京『今の状況では仕方ないでしょうね~しかしまだ間に合うかもしれません。それで先ほどお願いした件はどうなりましたか?』
米沢『ご指示通りに調べてみました。近藤さんの部屋からは特定できない女性の髪の毛と指紋が検出されています。それが昨日検挙されたデリバリーヘルスの女性のものと一致しました』
右京『これほど、これほどうまくいくとは思いませんでしたが、亀山君、行きましょう』
亀山『はい』
明政大学にて
亀山『探しましたよ、町田さん』
町田『まだ何かようですか?いろいろ忙しいんですよ』
右京『おおかたご令嬢との婚約準備といったところですか』
町田『なぜそれを・・・』
亀山『あんたについていろいろ調べされてもらったよ、中学時代からの同級生である近藤さんの性格を熟知し、田中建設のお嬢さんとの婚約のため間山薫さんが邪魔になって殺害したんでしょ?』
町田『ははは・・・何を言い出すかと思えば。薫は近藤と付き合っていたんですよ』
右京『しかしあなたは最初会った時にはそんなことは一言も言ってませんでした。近藤さんの部屋には3人で写った写真はいくつもありましたが薫さんとの二人だけの写真はほとんどありませんでしたからね~その設定からあなたのストーリーは構成されていたのです』
町田『一体何が言いたいんですか』
亀山『あんたは薫さんを呼び出し自分の車で箱根に向かった。そこで彼女を殺害し、遺体を埋めて、自宅に戻った。その後、ある女性を電話で呼び、薬で眠らせて近藤さんの家まで連れて行った』
右京『そして合鍵を使って部屋に侵入し、女性をそこに寝かし、あたかも死んでいるかのように見せた』
亀山『まあ暗闇にはケチャップでも血に見えるから、死んでいると思わせるのは簡単だからね』
町田『そんなことをしていたらすぐに近藤にバレるだろ』
右京『いいえ、彼は睡眠薬を飲んでいたので気付きませんよ。たとえバレてもいたずらだと言えば済む話ですから』
亀山『そして、部屋の外から近藤さんに電話し今から行くとでも言う。当然近藤さんは目の前の光景に動転した』
町田『見ず知らずの女性が死んでたからって・・・』
右京『あなたが彼にそう思うように仕向けたんですよ。彼に睡眠薬を飲ませ眠らせてから、後日談としてありもしない彼の行動を近藤さんに伝えるだけで一種の洗脳が完成します』
亀山『酔って店員を殴ったとか、女性を殴ったとか言われたら自覚が無くても信じてしまうのも無理はないからな』
右京『そして近藤さんが警察に電話する前に部屋に入り、遺体を運び出せばお前は捕まらないとでも言えば動転していた近藤さんを意のままに動かすことが出来ます』
町田『しかし、そんなの近藤が自首でもしたら成り立たないじゃないですか』
右京『そこで、あなたはもう一捻りを加えたんですよ。おそらく遺体の移動を買って出たあなたは近藤さんにこう告げた』
【お前が捕まれば、俺も捕まる。裏切ったりするなよ】
亀山『そして彼が誰にも相談できず、自首することも出来ずに、自殺するのを期待したんだろ』
町田『すばらしい想像力ですね~でも経済学部の僕にはそんな人を操るようなこと出来ませんよ』
右京『確かに難しいかもしれません。しかし相手のことを熟知し、まして相手が信じ込みやすい人物になら可能ですよ』
町田『でも、そんなことをするメリットは何なんですか?』
亀山『だから近藤さんを間山薫殺害のの犯人に仕立て上げることだろ』
町田『ばかばかしい、証拠はあるんですか?』
右京『昨日検挙された女性が証言してくれますよ。あなたに呼び出されたと』
町田『・・・ばかな!あの女が見つかるはずは・・・』
亀山『やっぱりあんただったんだな。ああいう職業の女なら見つからないと踏んだんだろうが、そんなにうまくいかねーんだよ』
町田『確かに近藤にやったのは認める。でもさっき刑事さんが言ったようにただの悪戯ですよ。近藤が自殺するなんて予想できませんでしたよ』
亀山『てめーそれでも人間か!』
右京『あなたはこの期に及んでまだ逃げるつもりですか!現場から凶器が見つかっていません!あなたが犯人と断定して家宅捜索令状を取ります。そしてあなたの婚約者のお父上の会社にも捜査員が出向くでしょう。そうなればどうなるかはあなたが一番ご存知のはずです!』
町田『くっ・・・やめてくれ。恵子(婚約者)は関係ないんだ・・・』
特命にて
亀山『あんなやつでも婚約者は愛していたんすね』
右京『そのようですね~』
亀山『しかし、あれで自供しなかったらどうする気だったんです?』
右京『そのときは有無を言わさぬ証拠を見つけるまでですよ』
亀山『でもあの近藤さんが借りたレンタカーはなんだったんですかね』
右京『おおかた町田が3人でドライブにでも行こうと借りさせたというとこでしょう』
角田『よ!ヒマか?俺たちの検挙した女が役に立ったそうだな』
右京『おかげさまで』
角田『田中建設の社長(田中秀明)は次回の選挙に出馬を予定していたのは知ってるか?』
右京『ええ、しかし今の言い方だと出馬は断念したのですか?』
角田『ああ、表向きは今度の事件のことでだが、実際は闇献金疑惑がらみじゃないかってのがもっぱらの噂だよ』
亀山『まったくどうしようもないっすね』
右京『もしかしたら・・・間山薫が殺害された理由もその件だったかもしれませんね~』
亀山『まあ、それはまたの機会にしましょっか』
右京『そうですね~』
杉下右京はゆっくりと紅茶に口をつけた
終わり~