現場マンションに向かう亀山

亀山『おい、伊丹。どうだ?見つかったか?』

伊丹『そう簡単に見つかれば苦労しねーよ・・・』

芹沢『あと5部屋なんですけどね。なかなか住民と連絡取れなくて』

亀山『花輪先輩の部屋は調べたのか?』

伊丹『刑事の部屋なんか見るだけ無駄だ』

三浦『一応、軽く部屋は調べたがどこにも隠されちゃいないぞ』

亀山『そうか・・・』

 花輪の部屋にて

花輪『どうした?亀山』

亀山『いやね・・・右京さんが調べてみる価値があるなんていうもんだから、ちょっと部屋の様子を見ようかなあと』
花輪『そうか、まあ俺も被疑者の一人だから当然だな。好きなだけ調べてくれ』

亀山『失礼しまっす』

 特命にて

右京『どうでしたか?』

亀山『隅々まで調べましたが、女性のいた痕跡などありませんでしたよ。今回ばかりは右京さんの考え過ぎですね』

右京『そうでしょうかね~もっとも相手も刑事。犯罪に対してはプロです。痕跡など残すとは思えません』

亀山『でも、実際に見つからないじゃないですか』

右京『あるいは、すでに外に運び出されたのかもしれません』

米沢『是非、トリックをお聞きしたいですな』

右京『外に通じる階段。ドアからの出入りは不可能です。しかし2階の踊り場から飛び降りることは出来るようにみえました』

米沢『確かに、それは可能でしょう。しかしお言葉ですが、それも犯人一人ならばという前提です。とても女性を担いでそんな真似はできません』

亀山『そうっすよ。残りの部屋にいますよ。きっと』

右京『そうですかね~』

 その頃、現場にて

芹沢『伊丹先輩!205号室の住人は丸尾雄二(34)です』

伊丹『丸尾?誰だ?そいつ』

三浦『おいおい、俳優として最近売れてきてるヒロシの本名だろ』

伊丹『そいつがどうしたんだよ』

芹沢『マネージャーの話では二日前から休みを取って自宅にいるはずだって言うんです』

三浦『じゃあ、事件の日からか。何か関係ありそうだな』

伊丹『よし、一か八か探りを入れてやる』

 しばらくして

マンション内に非常ベルがなった、しばらく間をおいて丸尾が部屋から出て来た

伊丹『丸尾、やっぱり中にいたんだな』

芹沢『ちょっと調べさせてもらいますよ』

三浦『なんだこりゃ・・・覚醒剤じゃねえか』

伊丹『おい!桜さんはどこだ!』

丸尾『しらねーよ。俺は・・・薬やってるのがばれると思って部屋に隠れてただけだ』

右京『どうやら、この部屋にもいないようですね~』

亀山『残りは4部屋か・・・いったいどこいったんだ』

 その日の午後

内村『なに?遺体が発見されただと?』

中園『はい・・・現場近くの公園でつい先ほど』

内村『やっぱりマンションにはいなかったのか!いままでの捜査はまるで意味なかったのか』

 現場にて

伊丹『なんでだ・・・』

亀山『どうなってるんです?右京さん』

右京『僕にもまだ分かりません。とにかく公園に行って見ましょう』

米沢『死後二日といったところです。詳しくは解剖してみないと何とも言えませんがおそらく失踪直後になくなったものと思わせます』

右京『死因は?』

米沢『首を絞められての窒息死ですね、他に目立った外傷はありません』

亀山『マンション内で殺されて、ここに連れてこられたってことですか?』

右京『おそらくそうでしょう。この場所ではすぐに発見されないでしょうからね~いつ運ばれたものかは分かりませんが』

 特命にて

亀山『右京さん、ちょっと考えてみたんですけど。桜さんが自分でカメラの死角をついて外に出たんじゃないですかね』

右京『面白い発想です。ですが動機がありません。確かに君の言うとおり失踪に見せかけるためということもあるかもしれませんが実際に殺害されているのでそれはないでしょうね~そして遺体に外傷がないということは踊り場から放り投げられたとも考えにくい』

亀山『ワープでもしない限り無理っすね・・・』

 捜査一課にて

内村『伊丹、随分と無駄な捜査に時間を費やしたな』

伊丹『申し訳ありません・・・しかし犯人を逮捕するまでは捜査をやらせてください』

内村『ばかもの!あんな恥をさらしといて何を言ってる!』

伊丹『・・・』

三浦『・・・』

 花の里にて

美和子『それで点と線の謎は解けたのかな?』

亀山『さっぱりだよ・・・』

たまきさん『でも推理小説みたいね~どこから遺体は飛んできたのか』

右京『僕としたことが!そうですね、遺体は飛んだのかもしれませんね~』

 次の日

米沢『遺体の衣服からはオレンジ果汁が検出されました。もっともそれが何を意味するのかはわかりませんが』

右京『そうですか』

 現場にて

亀山『唯一外に出られそうなのがこの2階の踊り場ですね』

右京『亀山くん。すぐ下にある自動販売機。これが何を意味するか分かりますか?』

亀山『えっ・・・まさか、あれで遺体は運ばれたってことですか』

右京『そのようですね~』

 しばらくして、花輪の部屋にて

花輪『伊丹って刑事も大変だな。責任取らされそうじゃないか』

亀山『それがそうでもないんですよ、花輪先輩』

右京『伊丹刑事の捜査方法に間違いはなかったと思いますよ。しかしあなたがその上を行ったというだけですよ』

花輪『ははは・・・まるで私が犯人みたいな言い方ですね』

亀山『先輩!正直に話してください』

花輪『俺は何も隠しちゃいない』

右京『そうでしょうか。あなたが桜さんを殺害し遺棄した。違いますか?』

花輪『私にはアリバイがある。その証人は他ならぬあなたたちのはずだ。第一、どうやって遺体を運び出すんですか』

右京『亀山君を招待したのも、そのためでしょう。6時半に犯行に及び、亀山君を7時に来させた。普通に考えればあなたに犯行は不可能に思えます。しかしあなたは防犯カメラを巧みに使ったんですよ。まず帰宅直後の桜さんを気絶させ、すぐにカメラの無い階段を使って2階まで降りてくる。そこであなたは殺害後に自動販売機のジュースの補充に来たトラックの荷台に遺体を置いたんです。トラックの荷台には回収した空き缶やペットボトルが大量にあります。そこに遺体を置けば外から見られることも、途中で投げ出されることもありません。そして翌朝までにゴミが放置されたトラックの荷台から遺体を公園まで運び遺体発見まで待っていたのですね』

亀山『桜さんの服から空き缶からこぼれたオレンジジュースが検出されたたんです』

花輪『なるほど。実に面白い推理ですね。でもそれなら誰にでも出来そうじゃないですか。私が犯人だという証拠はあるんですか?』

右京『問題のトラックを見つけ出し調べてみましたが、そのときのゴミはすでに回収されていました。しかし荷台に残されていたんですよ。あなたのほつれている袖口のボタンと同じボタンが。どういうことか明確な答えをお聞かせください』

花輪『そんなボタンはどこにだってあるでしょう。私のものだと断定できますか?』

亀山『まだあるんですよ・・・ボタンのそばから髪の毛が採取されています。いま鑑定待ちですが、もう認めましょうよ。先輩』

花輪『・・・なんで俺だとわかったんだ・・・』

右京『今回の犯行はマンション内部の者にしか出来ません。しかし部屋にいないとなれば容疑者からは早々にはずれ、後に遺体が発見されても捜査線上に浮かぶことはないと考えての犯行のように見えます。そのようなことが出来るのは刑事であるあなたしかいませんよ。しかも仮に遺体をトラックから公園まで運ぶところを見られてもかえって外部犯の存在を印象付けられますからね~』

亀山『自動販売機の会社に確認したんですよ。ほぼ同じ時間に同じルートを回っていると。それを利用したんすね・・・でもなんでこんなことを』

右京『僕の勝手な想像ですが、丸尾と何か関係があるのでは?』

花輪『杉下さんのおっしゃるとおりですよ。私は丸尾に押収した覚醒剤を横流ししていました。数日前に偶然取引現場を桜さんに目撃されてしまって・・・』

右京『一つ分かりません、目撃されるようなヘマをあなたがするとは思えません。他に理由があるのではないですかね~』

花輪『・・・』

右京『花輪さん!一人の人間を死に追いやってまで何を守っているのですか!』

花輪『・・・ウチの署が組織ぐるみで覚醒剤の密売をしている証拠テープを桜さんに録られていたんです』

右京『そのテープは今どこにあるんですか』

花輪『彼女の留守中に何度部屋を探しても見つからなかったんです・・・だから仕方なく』

殴ろうとする亀山『なんてことすんだよ!警察官として恥ずかしくないのかよ!』

止める右京『亀山君!』

花輪『俺だってこんなことしたくなかった・・・しかしいつの間にかこうなってしまって。亀山・・・お前はいいな。あの頃の純真さをまだ持ってるし、上司にも恵まれて羨ましいよ・・・』

 特命にて

角田『でも、なんで証拠テープなんて録れたんだろうな?』

右京『もしかしたら、そんなものは存在しなかったのかもしれませんよ』

亀山『どういうことです?』

右京『桜さんはどうやら花輪さんのことを好きだったようです。それで在りもしないことを言って相手の気を引こうと考えた。こうは考えられませんかね~?』

亀山『でも、そんな嘘、すぐ分かりそうですけどね』

右京『心にやましいことがあるときは、何に対しても臆病になるものですよ。まして心当たりのある会話の録音をされたと聞いたら、本当かどうかを確認する前に抹消しようと考えたのではないでしょうかね~』

角田『しかし、いずれにしろ警察の組織ぐるみってのはまずいな・・・』

右京『そうですね~』

そのとき、伊丹が特命にきた。伊丹は一礼した後、無言で去って言った

亀山『なんだあいつ。まあ俺たちのおかげでクビにならなくて済んだようですね』

右京『亀山君、そろそろお昼です。そばでも食べに行きましょうか』

亀山『いいっすね』

 杉下右京は晴れえぬ気持ちのまま、特命の部屋をあとにした。


 終わり~

 3月18日、江東区のとあるマンション


 午後7時。亀山薫は私用でこのマンションに来た

亀山『(花輪)先輩のうちに来たのは俺が一課にいた頃だから8年ぶりですね』

花輪『そうか、もうそんなにたつか。そう言えば結婚したんだってな。招待状もよこさないから最近まで知らなかったぞ』

亀山『特に式は挙げてないんすよ。でも手紙書いたはずですよ~』

花輪『そうか?』

その時、ある女性が声をかけてきた

浜崎『すいません』

花輪『どうしたんです?浜崎さん』

浜崎『たまえがいないんです。さっき家に戻ったはずなのに・・・』

花輪『また出掛けたんじゃないんですか?』

浜崎『いえ・・・だって30分前にマンションの前で別れて、でもたまえが忘れ物したんですぐに届けに来たんですよ』

亀山『それで部屋の様子は?』

浜崎『あなたは・・・?』

亀山『申し遅れました。警視庁の亀山です』

浜崎『それが、部屋に鍵がかかってなくて、中を見たらさっき買い物したものが玄関に置いてあって、なんか血みたいなものまであるんです』

亀山『先輩、拉致されたんじゃないっすか・・・』

花輪『とにかく部屋に行ってみよう』

亀山『その前に電話一本入れさせてください』


 しばらくして

花輪『たしかに血のあとだな・・・しかしこれだけで事件性があるのか分からんぞ』

亀山『部屋に争った形跡はありませんね』

右京『亀山君。君はマンション名だけ告げて住所を言い忘れてましたよ』

亀山『すんません。でもよく分かりましたね』

右京『ところで、状況を教えてください』

花輪『こちらは?』

亀山『俺の今の上司の右京さんです』

右京『はじめまして。特命係の杉下と申します』

花輪『麹町西署刑事課の花輪です。どうやらこの部屋の住人の桜たまえさんが帰宅直後にいなくなったようです』

右京『失踪に最初に気付いたのはどなたですか?』

浜崎『私です』

右京『失踪直前に変わった様子はありましたか?』

浜崎『いえ・・・ありません』

亀山『どう思います?右京さん』

右京『君は事件性があると判断して僕を呼んだのではないのですか?』

亀山『まあそうなんすけどね』

右京『とにかくマンション入口とエレベーターの防犯カメラを確認してみましょう。それと念のため捜査一課にも連絡してください』

 しばらくして

伊丹『毎度毎度、事件に関わる亀山~今度はなにやらかした』

亀山『よりによってなんでお前が来るんだよ』

芹沢『切っても切れない腐れ縁って奴でしょ』

三浦『それで本当に事件性はあるのか』

右京『事件でないに越したことは無いはずですよ』

伊丹『いちいち揚げ足取りは結構です。で、本当に失踪事件なのかよ』

亀山『それが・・・防犯カメラを見る限り、彼女はまだこのマンション内にいる可能性が高いんだ』

三浦『どういうことだ』

亀山『さっき管理人に頼んでカメラの映像を見たんだ。浜崎さんの言うように午後6時半ごろ、エレベーターの防犯カメラの映像にたまえさんらしき人物が写っていた。それで9階で降りているんだ。でも、その階で降りたのはたまえさんだけ。前後に不審な人物も写っていなかった』

伊丹『バカか。階段を使って外にでたかもしれないだろ』

亀山『なんだと~』

右京『それはできません。調べたところこのマンションの階段はセンサーで管理されているため非常時以外に外に通じるドアは開きません。また同じ理由で外部からの侵入は不可能です』

芹沢『じゃあ、マンション入口から住民が入った隙に入り込んで、階段で移動したんじゃないっすか?』

右京『しかし、入口の防犯カメラにはそれらしき人物は確認できませんでした』

三浦『となると、まだこのマンション内にいるということか・・・』

右京『僕もそう思います。この状況ではそう考えるのが最も合理的でしょう』

伊丹『でも、どこにいるって言うんですか』

亀山『ばかか。どっかの部屋に連れ込まれてるとしか考えられないだろ』

伊丹『うっせー。おい1階から9階まで全ての部屋を調べろ』

亀山『見つかりますかね』

右京『無事でいることを祈りましょう』

 

 しばらくして

 警視庁にて

内村『勝手に捜索令状を請求して、部屋を調べ始めたそうだな』

中園『はい、マンション内にいるものと思われ、一刻も早く女性の保護と犯人確保の必要性があると思いまして』

内村『早まったことをしてくれたな!もしこれで見つからなかったら・・・マスコミのいい笑いものだぞ』

中園『しかし・・・』

内村『とにかく、この件に関しては私は無関係だ。責任は伊丹とお前にあるんだからな』

 翌朝、現場にて

芹沢『先輩、部長から電話はいってます』

電話に出る伊丹『はい・・・必ず見つけ出します』

三浦『どうした?』

伊丹『見つからないときは責任をとれだとよ。こうなったら意地でも見つけてやる』

 しばらくして

花輪『それで、見つかったのか?』

伊丹『・・・』

芹沢『今のところ空き室は全て調べましたが空振りです。住人のいる部屋も留守の家を除いてシロですね』

三浦『あと10世帯か。まだ住人に連絡は取れないのか』

伊丹『くそっ』

 特命にて

亀山『どこ消えたんすかね?』

右京『残りの部屋にいる可能性はあります。しかし、そうなると疑問が一つ。これでは必然的に犯人は絞られてしまいます。こんなリスクを犯してまでする意味があるのでしょうかね~』

亀山『確かにそうっすね。帰宅途中を狙ったほうが通り魔の犯行に見せかけられますね・・・』

右京『犯人にとってこれが最適な方法だった。それは何故か・・・昨夜考えてみました。部屋を調べられない自信があったからではないかと』

亀山『留守にしていればいいってことですか?それじゃいつまでも外にでれませんよ』

右京『いいえ、もう一つ可能性があります。自分が刑事だったら。きっと最後まで警察の調べは受けないでしょうね~ましてや今回の事件の発見者でもありますから』

亀山『ちょっと待ってください!花輪先輩の犯行だって言うんですか?そんな無茶苦茶な!』

右京『あくまでも可能性を述べたまでです』

米沢『失礼します。桜たまえさんを部屋を調べてみましたが、台所から果物ナイフが無くなっています。そして携帯電話も、失踪時の服も見当たらないので拉致されたのは間違いないようです。それともう一点。防犯カメラも検証してみましたが入口のカメラにはカメラの死角がありました』

亀山『じゃあ外部犯の可能性もあるんですね!?』

米沢『いえ、それはちょっと考えにくいかと。なにしろ死角はほんの僅かな隙間です』

右京『一人ならともかく、二人で外にでるのは無理なんですね?』

米沢『そうです。もし被害者が残され、犯人が死角をついて逃げたとしたら可能性がありますが。外に拉致されたとは思えません』

亀山『・・・しかし先輩がそんなことをやるとは思えません!』

右京『とにかく調べてみる価値はあると僕は思いますよ』

 続く~


 鑑識にて

右京『橋本さんの亡くなった現場に何か不審な点はありましたか?』

米沢『ドアノブにネクタイをかけての典型的な自殺のようにも見えます。ですが遺体からは睡眠薬が検出され、部屋のパソコンのデータは全て消去されていました。こうなると・・・』

亀山『他殺の可能性が高いということですか』

米沢『そうは言いません。あくまで可能性があるというだけです』

右京『どちらにしても橋本さんが亡くなるには意味があったはずです。遺書か何かはあったのですか?』

米沢『一応、パソコンで書かれた【私がやりました。申し訳ありません】というものだけです』

亀山『かなり怪しいっすね』

右京『データの復旧は出来ますか?』

米沢『少々時間をいただければ出来ると思います』

 宮本の自宅

右京『退院なされたと伺ったので、自宅の方にお邪魔しました』

宮本『刑事さん、橋本が自殺ってのは本当なんですか?』

右京『まだそうと決まったわけではありませんよ、それとも何か心当たりでもおありですか』

宮本『関係ないかもしれませんが・・・石毛さんと揉めていたのを見てしまって、それからなんです、彼の様子がちょっと変だったのは』

亀山『石毛さんって言うのはどなたです?』

宮本『うちの球団の上層部ですよ。細かい役職は分かりませんけど』

右京『その揉めていた内容というのはなんだったのでしょう』

宮本『わかりません』

 球団事務所に向かう二人

亀山『気になりますね』

右京『そうですね~』

 球団事務所にて

石毛『石毛は私ですけど』

亀山『女性だったんですか』

石毛『女がこういう仕事するのが珍しいですか?』

亀山『いえ、そんなことありませんよ』

右京『さっそくですが、あなたと橋本さんが揉めているのを目撃した人物がいるのですが、差し支えなければその内容をお聞かせください』

石毛『差し支えあるので内容は話せませんが、別に揉めていたわけじゃないですよ』

右京『では橋本さんがなぜ亡くなったとお思いですか』

石毛『私に解るわけありませんよ。いつきに・・・』

右京『はい?』

石毛『とにかく私は事件とは無関係です!』

 警視庁に戻る二人

亀山『やはり臭いますね』

右京『何か気付きましたか』

亀山『途中で止めたけどいつきって名前言いましたよね。ちょっと調べたんすけど球団のナンバー2が五木三郎という男なんですよ。そいつの名前が出たってことは組織ぐるみの犯行ってこともありませんかね』

右京『なるほど。君にしては上出来です、さらに言うなら石毛さんは自殺といわれている中【事件とは無関係】と言っています。直接関わっていると見てまず間違いないと思いますよ』

 警視庁にて

伊丹『特命係の亀山~おめーガセネタつかませやがって』

亀山『何の話だよ』

芹沢『埼玉のK社の異物混入事件の犯人が今日捕まったんすよ、しかもY社の事件も、宮本投手の事件にも無関係でしたよ』

右京『亀山君、君は本当に口が軽いですね~』

亀山『いやっ・・・つい』

右京『しかし、K社の事件の犯人が別だったとなると・・・もう一度組み立て直さないといけませんね~』

亀山『それでK社の犯人は誰だったんだよ?』

芹沢『元社員の浅はかな犯行ですよ。解雇された腹いせにってやつで』

 たまきさんの店【花の里】にて

美和子『それで事件に進展はあったのかな』

亀山『怪しいのは結構いるんだけど、動機もなければ証拠もないんだよ』

たまき『そういえばその宮本って選手、大リーグに移籍するって今朝やってましたね』

亀山『え?でもまだFAでもないのに』

美和子『ポスティングで行くみたいよ』

亀山『球団がよく許したな~絶対的なエースなのに』

右京『メジャーで複数年契約。日本で稼ぐよりも数倍の報酬を得られるそうですね~』

美和子『でも、宮本投手は入団当初から怪我との戦いだったから否定的な見方をする人も多いんですよ』

 
 店にあったスポーツ紙を手に取る亀山

亀山『メジャーで一攫千金か、うちらには縁のない話ですね、右京さん。右京さん?どうしたんすか?』

右京『僕としたことが・・・この片隅の記事、とても興味深いです。亀山君、明日新聞社に付き合ってもらえますか』

亀山『?はい・・・』

 東都新聞社にて

右京『この特集記事を書かれた方にお会いしたいのですが』

編集長『その記事なら槙原のやつっすね。どっから得た情報なのか・・・ウチみたいないい加減な記事を書く新聞社じゃなきゃすぐさま裁判沙汰ですよ(笑)』

槙原『俺に何か?』

右京『この記事の情報源はどちらでしょうか』

槙原『奥の部屋てどうぞ・・・』

亀山『この内容は本当なんですか?』

槙原『ええ、橋本さんから直接聞いたものです。でも証拠がない、橋本さんもあんなことになってしまったし。だからウチで記事にしたんですよ。解るってくれる人がいるかもしれないと思って』

右京『そうでしたか。この記事を無駄にはしませんよ』

 鑑識にて

米沢『そろそろ来る頃だと思いました。ご注文どおりデータは復旧しました。なにやら怪しいリストはありますが何を示すものかはわかりません』

亀山『T、D、C、L、F、YB、M、B、G,、S、E、Y、・・・』

右京『左の数字がおそらく年次、2003年にDはSになり、2005年にEが登場。どうやら目当てのものが見つかったようです』

 再び球団事務所を訪れた二人

石毛『また刑事さんですか。今日は何をお聞きに?』

亀山『橋本さん殺害の犯人がわかったのでご報告に』

石毛『殺害って・・・彼は自殺したんじゃないんですか?』

右京『いいえ、殺害されました。そして、その犯人はあなたですよ』

石毛『なんで私が・・・私にはそんな』

亀山『動機ならありましたよ。これです』

  
  記事を見せる【大規模野球賭博か?球団スタッフが語る】

石毛『そんな信憑性の無い記事が動機といわれても』

右京『だからこそあなたはこの記事を放っておいたんですよ。下手に抗議をすれば逆に勘ぐられてしまいますからね~』

石毛『・・・』

右京『橋本さんのパソコンから賭博のリストも復旧できました。左から年次、球団名、出資者、さらには賭けのオッズといった具合です。さらにはあなたの口座から橋本さんの隠し口座に高額の振り込みも確認できました』

石毛『こんなものが何の証拠になるんですか』

右京『これだけ具体的な証拠となれば家宅捜索令状も容易に取れますよ。そろそろ東京地検が動いていると思いますよ。ですが僕らには橋本さん殺害の犯人の方が重要です』

亀山『橋本さんの死亡推定時刻の直前にあんたと橋本さんが会っているのを目撃した人物がいるんですよ』

石毛『確かに会っていましたけど』

右京『あなたは橋本さんともめていた、それは何故か。こう推理してみました。あの優勝を争う節目の試合でエースの宮本さんに登板させたくなかったあなたは、宮本さんに薬入りのドリンクを橋本さん経由で渡し登板回避を狙った。違いますか?』

石毛『なんで私が自分のチームの選手にそんなことをしなきゃならないんですか』

亀山『あの試合、相手は怪我人続出だったし、エース宮本が登板すればかなりの確率で勝っていたはずですよね。現にジャイアンツの勝ちを予想したオッズが高かった。しかしそこでジャイアンツの負けに賭けて、それが現実となれば莫大な金額が手に入る。あんたはこれを狙ったんだろ?』

石毛『・・・証拠はあるんですか?』

右京『残念ながら、これは想像の域をでません。もっともかなり可能性が高いと思いますが』

亀山『そして橋本さんは宮本さんの事件後、恐ろしくなって全てを公表すると言ったんじゃないですか?』

右京『そして、あの日あなたは橋本さんを呼び出し殺害した』

石毛『橋本さんと会ったのは認めます。でもそれだけです。部屋にも入ってませんし、そのあと勝手に玄関で自殺したんでしょ』

右京『妙ですね~何故玄関だと?』

石毛『テレビで見たからですよ』

亀山『報道では首をつったことしか公表されてませんよ。場所やどうやって亡くなっていたかは捜査上の特殊情報として報道されないんですよ』

右京『つまり犯人しか知りえない情報をあなたは知っていた。確かな証拠だと思いますがね~』

石毛『・・・』

右京『石毛さん!あなたは自分が何をやったのかわかっているんですか!賭博も、不正ももちろん許されるものではありません、しかし自らの利益のために人の命を奪ったあなたはもっとも邪悪ですよ』

石毛『こんなはずじゃなかったんです・・・』

 事務所を出る二人

右京『亀山君、次に向かってもらいたいところがあります』

 
 宮本の自宅

宮本『刑事さん、犯人わかったんですか?』

右京『ええ、ですが今日は殺人とは別件です。あなたの飲んだドリンクは本当に橋本さんから手渡されたものだったのですか?』

宮本『何が言いたいんです』

右京『以前も言ったように、あの薬品を一気に飲むのはかなり不自然です。そして石毛さんと橋本さんの会話を本当は聞いていたのではないですか?石毛さんの言った【いつき】というのは五木ではなく、あなたの名前の樹だった。つまり橋本さんの死の真相は宮本さんが鍵を握っていたということですよ』

宮本『・・・』

右京『あなたは今、肩に爆弾を抱えている。何度も伺ってようやくチームドクターから聞き出しました。前回登板もあなたは完封ペースにもかかわらず8回でマウンドを降りています。そのときから投げられる状態ではなかったはずです。普通ならば怪我をしたというだけでしょうが、あなたの場合は違いますね~』

亀山『メジャー挑戦を前にして怪我で登板回避なんて言ったら当然評価は下がり、契約金も高額は期待できない。だからあんたは橋本さんを利用したんだろ』

宮本『・・・』

右京『橋本さんが、いえ石毛さんが用意したものは別の薬だったと思います。もちろん毒性は少なく、刺激臭も無いもの。そうでなければ飲む前に捨てられるはずですから』

亀山『つまり、あんたは自分で用意した農薬をあたかも仕込まれたように飲んで登板を回避したんだろ』

宮本『・・・ええ、よくわかりましたね。この肩の状態じゃいつまで投げられるか分からない。だから最高の状態のまま契約したかったんですよ』

右京『そして橋本さんは石毛さんが毒薬まで仕込んだと勘違いし、もともと揉めていたこともあって決定的に分裂したということでしょう。しかし、結果として橋本さんを死に追いやったのはあなたです。あなたの自分勝手な行動がもたらした結果だということをしっかりと自覚してください』

宮本『・・・』

 特命にて

亀山『結局、Y社の事件も石毛がやったことだったようですね。K社の事件がたまたま他球団のスポンサーだったから、別人の犯行に見せるために利用したそうです』

右京『そうですか。僕も彼女の行動に振り回されてしまいました』

角田『しかし球団幹部自ら賭博をやって、さらに不正まで・・・とんだスキャンダルだな』

右京『球界の自浄作用を待つしかないようですね~』

亀山『宮本も引退に追い込まれたようですよ。多くの選手はただ純粋に野球を楽しんでいるだけなんすけどね、こういった事件で野球離れに拍車がかかるんでしょうね・・・』

右京『そうともいえませんよ。本当の真剣勝負は見れば解ります。球場内ではそんな事情は関係ありませんよ』

 杉下右京は今日も紅茶を片手にくつろいでいた

終わり

 10月21日 特命にてスポーツ新聞を広げる亀山

 一面の記事【ジャイアンツ惨敗、エースの不在響く】

亀山『まあ、優勝を決める大事な試合でエースが突然登板回避じゃ厳しいっすね』

角田『なんでも試合直前に体調不良になったらしいな』

亀山『全くついてないっすね~せっかく追い上げてきたのに』

内村『杉下はどうした?』

亀山『あ、部長おはようございます。右京さんなら少し遅れるって連絡ありましたよ』

内村『ならば、来たらすぐに私の部屋に来い。お前も一緒に』

角田『また、お前ら何かやったのか?』

亀山『さあ・・・最近おとなしくしてたんだけどな~』

右京『おはようございます』

亀山『右京さん、たった今部長から呼び出しがありましたよ。なんかの処分ですかね?』

右京『ならばわざわざ部屋に呼び出すまでもありませんよ、とにかくさっそく参りましょうか』

 刑事部長室にて

内村『お前らに仕事だ。昨日、読買ジャイアンツの宮本投手が体調不良で急に登板回避したのは知ってるな?』
亀山『ええ・・・』

中園『調べたところ、宮本投手の口にしたペットボトルから農薬が検出されたんだ』

右京『それで我々に捜査をしろということですか』

内村『球団幹部からマスコミに騒がれる前に解決して欲しいと言われている』



 部屋の外に出る二人

亀山『まさか事件だったとは思いませんでしたよ』

右京『ええ、宮本投手は今どちらに?』

亀山『城南大学病院に入院しているそうです』

 大学病院にて

右京『警視庁特命係の杉下と申します』

亀山『同じく亀山です』

宮本『よろしくお願いします。いったい誰がこんなことを・・・』

右京『二,三質問してもよろしいでしょうか?』

宮本『ええ・・・』

右京『問題のドリンクはどこで手に入れたものですか?』

宮本『いつもは球団の用意するものを飲んでいるんですが、あの日はたまたま飲みたいものがなかったのでスタッフにコンビニで買ってきてもらったんです』

亀山『それを飲んですぐにめまいがして、一時的に歩くのも困難になったんですよね?』

宮本『ええ』

右京『そのスタッフというのはどなたでしょうか?』

宮本『橋本君です。彼にはよく買ってきてもらうんですよ』

右京『そうでしたか、ではその日にあなたが買うものを予測できる人物に心当たりはありますか?』

宮本『さあ・・・よく飲むものなら自分のブログにも書いてますけど、いつもとは限りませんし・・・』

右京『なるほど、では失礼します。あっ最後に一つだけ。そのドリンクは妙な味は無かったのですか?検出されたのはグリホサート。毒性があり、刺激臭もあります。それを飲む人はそうはいないと思いますよ』

宮本『あの時は急いでいて一気に飲んでしまって・・・すぐに吐き出したんですけど・・・』

右京『なるほど、では橋本さんはいまどちらに?』

宮本『いまは自宅にいると思いますよ』

 橋本宅

亀山『橋本さ~ん、・・・留守みたいですね』

右京『出直しましょうか』

 特命にて

内村『杉下、亀山。農薬事件は捜査一課で扱うことになった。お前らはもう何もしなくていい』

亀山『どういうことっすか?』

内村『第二の事件が起こった、とにかくもう余計な真似は無用だ』

 内村が帰り、角田課長が来た

角田『おい!ニュース見てみろ』

 【昨夜10時頃、都内に住む橋本猛さん(30)が自宅マンションで首をつってい死んでいるのが発見されました。警視庁は自殺、事件の両面から捜査を進めています。橋本さんの友人の証言によると最近悩んでいた様子だったということです。次のニュースです。K社の緑茶ペットに続きまたも異物混入、今度はY社の乳飲料ジョアンから農薬が検出されました。飲んだ男性はすぐに吐き出し命に別状はありません】

亀山『橋本が自殺ってことならあの異物混入も橋本がやったってことっすかね』

右京『そう決め付けるのはまだ早いですよ。そしてその後のニュースのY社の異物混入事件・・・亀山君、調べてもらいたいことがあります』

 しばらくして

亀山『右京さん!やはりそうでしたよ。K社はドラゴンズの主なスポンサー、Y社はスワローズ本社の子会社でした』

右京『プロ野球球団へのなんらかの報復なのかもしれませんね~しかしこんなことをゲームのように楽しんでいるのであれば到底許されることではありません』

角田『でも橋本って奴は死んでるんだろ?じゃあいったい誰がこんな真似を』

右京『亀山君、僕らが橋本さんを訪ねたのが午後7時ごろでしたね』

亀山『そうですね』

右京『ということは、その時間橋本さんはまだ生きていたはずです。しかし自宅には応答がなかった。これがどういうことか分かりますか?』

亀山『つまり、その時間に出掛けていたか、もしくは誰かと会っていたってことですかね』

右京『ええ、宮本さんに伺ったところ事件でショックを受けて自宅にいた橋本さんが自殺するというのは、(真犯人ならば)筋が通らなくも無いですが、その前に出掛けているので自殺とは考えにくいと思いますよ』

角田『死ぬ前に外にでたくなったんじゃないか?』

右京『可能性が0とは言いませんが、それならばわざわざ自宅に戻って自殺する必要はないですよ』

亀山『じゃあ、今回の一連の事件の犯人に殺されたってことですか・・・』

右京『しかも真犯人を知っていたために(犯人に呼び出され)口封じで殺された可能性もあります』

亀山『どっから調べます?』

右京『K社の事件が埼玉、Y社の事件が千葉です。各県警に協力を願いましょう。僕らは宮本さんの事件をもう一度検証してみましょうか』

 

 トイレにて

伊丹『特命係の亀山~おめー何勝手に調べまわってんだよ!』

亀山『うっせーな、K社とY社でも調べてろよ』

三浦『なんだよ、そのK社とY社って・・・まさか異物混入事件と今回の事件がつながってるのか?』

亀山『まだわかんねーよ』

芹沢『もしそうなら大事件じゃないっすか!』


 捜査本部にて

内村『なに?K社とY社の異物混入もかかわってるだと?どっからの情報だ』

伊丹『それは・・・特命係からでして』

内村『まったく、あいつらまた勝手なことを!』

伊丹『しかし・・・事件の農薬の種類も今回の事件と一致していますし、なにより杉下右京が捜査を始めているので可能性は高いと思います』

中園『それで、あいつらは何を調べているんだ』

伊丹『まだ分かりません、しかしいつもどおり手柄は我々のものにしますよ』

内村『バカモノ!特命より先に事件を解決する気は無いのか!』

 

 続く~


 翌日 警視庁に高木雅樹(61)という男が現れた

高木『今井の事件を担当されている刑事さんにお会いしたいのですが』

受付『少々お待ちください』

右京『失礼ですが、僕でよろしければお話をお伺いしますよ』

高木『今井の部屋の遺留品を整理したいと思いまして』

右京『今井さんのお宅はすでに調べ終わっているので構いませんよ』

亀山『ただ所持品に関してはまだお返しできないんですよ』

高木『そうですか・・・』

右京『今井さんとはどういったご関係ですか?』

高木『趣味で囲碁をやってまして、その囲碁仲間ですよ。今井は奥さんに先立たれ、娘さんも海外で暮らしていますので私が引き受けようと思いまして』

亀山『じゃあ遺体の引取りがまだなのもそのためだったんですか』

高木『ええ、私と他の仲間で葬儀をやるつもりです』

右京『一つよろしいでしょうか?今井さんが何かトラブルに巻き込まれていたというような話はありましたか?』

高木『さあ・・・ただお金では相当苦労していたそうです』

右京『そうですか』

 刑事部長室にて

内村『まだ被疑者の目星はつかないのか』

中園『はい、米軍の兵士となると我々だけではどうにもなりません』

伊丹『他に動機があったものを現在捜査中です』

内村『それで例の細工はなんだったんだ?』

芹沢『それも現在捜査中です』

内村『要するにまだ何も分かってないんだな!』

伊丹『・・・』

 部屋の外にでる一課

亀山『おい、伊丹』

伊丹『なんだよ、カメ!』

右京『先ほど高木という男が遺留品の引き取りに来ました』

芹沢『高木?』

三浦『ああ殺害された今井の友人でしたね』

右京『彼のことはもうお調べになったのですよね~』

伊丹『警部殿に言われなくともとっくにやりましたよ!特に不審な点はないです!』

亀山『もう一度調べ直した方がいいんじゃないのかな~』

右京『亀山君、そろそろ戻りましょうか』

芹沢『やっぱわかんないすね~杉下警部は・・・』

三浦『とりあえず高木の経歴もう一回調べておけ』

 特命にて

亀山『ああは言ったものの俺たちも何を調べていいのか・・・』

右京『必ず何かあるはずです』

角田『ヒマか?』

亀山『ヒマじゃないっすよ!あっ・・そうだ課長この前貸した金返してくださいよ』

角田『金?ああ、はい100円』

亀山『そうそう、昨日貸した100円。ってそうなないでしょ~1週間前に貸した1万円ですよ』

角田『やっぱ覚えてたか・・・今月ピンチなんだ、来月まで待ってくれない?』

亀山『しょうがないっすね~』

右京『なるほど・・・そういうことでしたか。もう一度捜査一課に参りましょう』

亀山『?右京さん?』

角田『ありゃ何かひらめいたな』

 捜査一課にて

亀山『で、高木については当然調べたんだよな?』

芹沢『ええ、でも元銀行マンで、先日退職したってことくらいで、やっぱり不審な点はないですよ』

右京『その銀行というのは、東都銀行ではありませんか?』

芹沢『そうですけど・・・なんでです?』

右京『参りましょう、亀山くん』

 しばらくして

米沢『これが事件翌日の新聞です』

亀山『なんです?これは』

右京『この記事です』

【東都銀行、横須賀支店で銀行強盗、1億円奪われる】

亀山『強盗事件と今回の事件に何かつながりが?』

右京『タクシーに現金が残されていた時点で我々は金銭目的の犯行という選択肢を捨ててしまいましたが、もしもタクシー料金よりももっと高額なものがあったとしたら話は別です。1万円の話をしていると100円が安く思えるのと同じです。』

亀山『それはちょっと飛躍しすぎじゃないですか?』

右京『それだけではありません。記事によると神奈川県警は事件発覚後ただちに非常線をはり、大規模な検問を実施したにも関わらず犯人を発見できなかった』

亀山『それは車を乗り換えたりしたんじゃ』

右京『僕もそう思います。しかしただ車を乗り換えただけでは検問は突破できません。そこで、あの細工されたドアの出番です』

亀山『まさか、あの僅かな隙間に1億円を?』

右京『100万円の束にして100枚、両サイドのドアを使えば問題なく入りますよ』

米沢『杉下警部に言われたとおり同一車両で実験済です。きっちり収まりました』

亀山『なるほど・・・検問では客の持ち物は検査しても、まさかタクシーの運転手が犯人だとは思わないですね』

右京『ましてや、そんなところに隠されては発見できなくても無理はありません』

亀山『ちょっと待ってください?じゃあ今井がその犯人で、仲間割れで殺されたってことですか?』

右京『ええ、そしてそれが可能なのはただ一人です』

 今井の住んでいたアパートにて

右京『その様子では、今井さんが隠した現金はまだ見つかりませんか』

高木『な・・・何を言っているんですか。私はただ整理しているだけですよ』

亀山『あんた、1年前まで東都銀行に勤務していたよな?しかもリストラ同然で退職金もろくにでなかった』

高木『それが何の関係があるんですか』

右京『銀行への復讐、それともただ単に金銭目的だったのか、そこは解りません』

高木『今井はアメリカ人に殺されたとニュースで見ましたけど』

亀山『あんたがそう仕向けたんだろ?』

右京『おそらくケインさんの言っていたようにカードは財布ごろ落としたのでしょう。そしてあなたが偶然それを拾い、犯行現場に残した。違いますか?』

高木『証拠はあるんですか?』

右京『残念ながら今のところありません。凶器の角度から犯人は左利きです』

高木『話になりませんな。私は右利きですよ。強盗事件だって知りませんよ』

右京『何故強盗事件だと?』

高木『いまあんたたちが言っていただろ』

亀山『変ですよね~我々はあんたが銀行に勤めていたことと、財布を拾った可能性を言っただけなのにね~右京さん』

高木『いや、話の流れで・・・とにかく強盗の犯人だというなら1億円はどこにあるって言うんだ。それも見つからないうちに犯人扱いとは警察も傲慢ですな~』

右京『やはり(1億円)強盗犯はあなたでしたか』

高木『あっ・・・』

亀山『犯人の目星がつけば警察はしつこくあなたを調べますよ。せっかく金を手に入れても使えないんじゃ意味ないでしょ~』

高木『・・・』

右京『高木さん!』

高木『なんで私だと?』

右京『あなたが警視庁にいらした時、遺体の引取りの前に遺留品の引き取りに来たことが最も引っかかりました。そしてタクシー内にカードのみが残されたのは財布に真犯人の指紋が付着していたからではないかと思いました、下手に拭いたりしたら持ち主の指紋まで消え妙なことになってしまいますからね~』

亀山『真犯人がいるのなら、強盗に関わったものの犯行と考えるのが自然だからな』

高木『でも、私は今井を殺したりしていない』

右京『ええ、あなたが直接の犯人ならばタクシーのメーターを入れたままで走行したりしませんよ。強盗犯は二人組です。今井さんが運転手役だったのならもう一人事件に関わっていたことになります。正直に話してはもらえませんか?』

高木『・・・田崎です。川辺組の構成員で・・・ドアの細工もあいつがやったこと、私は奴の計画に乗っただけだ』

右京『いいえ、銀行の盲点をついた今回の犯行はあなたが中心的な役割をしていた何よりの証拠ですよ』

高木『・・・仕方なかったんだ。長年銀行に使えてきたのに・・・あんな僅かな退職金でクビ同然で放り出されて・・・』

右京『どんな言い訳も通用しませんよ。今井さんは何故?』

高木『あいつが自首するなんて言い出すからいけないんだ、しかも金をどこかに隠しやがった』

亀山『それで脅して隠し場所を聞くつもりだったのか』

高木『ああ・・・しかし田崎が聞きだす前に殺してしまった』

右京『そこで駆けつけたあなたがカードを残し、1億円を探そうとしたが見つからず、遺留品に何かヒントがあると思い警察を訪れましたか。我々が疑ってもいないのに、随分と大胆な行動を取りましたね~もっとも金に目がくらんだ人がよく陥るケースですが』

 

 特命にて

亀山『結局、1億円はコインロッカーから見つかったそうですよ。あとさっき田崎って奴も逮捕されたそうです』

右京『そうですか』

亀山『でも、なんで今井は強盗に関わったりしたんですかね?』

右京『脇道をよく通るのは道に詳しいということです。おそらく運転技術を買われて雇われたのでしょう。さらに耳が聞こえないことを会社に知られれば免職になると脅されていた可能性が高いと思いますよ』

亀山『それで協力せざる得なかったってことですか、でも何で隠したり?』

右京『身の安全のためでしょう。もっとも今回はそれが仇となって殺されてしまいましたが・・・』

角田『ヒマか?いや~競馬で万馬券出しちゃってさ~』

亀山『課長、借金で競馬なんてやってたんすか!?』

角田『いや・・・まあいいじゃないの、ほら1万円返すからさ、千円の利子もつけちゃおう』

右京『警察官としてどうかと思いますがね~たとえ僅かな額でも金銭の恨みは恐ろしいものですよ』

角田『脅かすなよ~じゃあ2千円、いや3千円つけよう。ね!これで恨みっこ無しだ』

亀山『まだまだっすね~5千円で』

右京『亀山君』

亀山『冗談すよ~』

 杉下右京は今日も紅茶を飲んでいた

終わり~