特命係の部屋

亀山『おはようございます』

右京『おはようございます。先日の結果が届いていますよ』

亀山『結果?ああ、健康診断のですか。どれどれ、まあ健康には自信ありますけどね』

 亀山の表情が曇る

右京『どうしましたか?』

亀山『え?いや・・・』

右京『再検査ですか』

亀山『なんでわかるんです?』

右京『それだけ分かりやすい態度を見せられれば誰でもわかりますよ』

亀山『どうも肺検査で引っかかったみたいです・・・』

角田『ヒマか?』

亀山『今取り込んでますからまた後にしてくださいよ』

角田『なに、健康診断で引っかかったのか?』

亀山『なんでわかるんです?』

角田『わかるって。それで警部さんはどうだったの?』

右京『僕はまだ見ていませんよ』

角田『じゃあ俺が見てやるよ。ありゃりゃ肝臓で再検査だね』

右京『そうですか。しかし名前をよく見てください』

角田『?角田?なんで俺の診断結果があんたのところに??』

右京『何かの手違いで入れ替わったのでしょうね~ということで課長のお持ちの診断結果をいただけますか』

角田『ということは・・・肝臓の再検査は俺か・・・俺なのか・・・』

亀山『課長?ダメだ聞こえてない・・・』

米沢『お邪魔します。たった今事件の一報がありまして、お暇でしたらご一緒しませんか』

右京『行きましょう、亀山君』

亀山『はい、課長、まだ結果が出たわけじゃないんだから気を落とさないでね』


 六本木にて男性の刺殺体が発見された。

伊丹『で、害者の身元は?』

芹沢『名前は加藤雅哉(33)、ヒルズの最上階に住んでいるそうです』

三浦『いわゆるヒルズ族って奴か』

芹沢『ええ、食品企業を次々に買収しているエイプールという商事会社の専務です』

伊丹『それで死因は?』

米沢『鋭利なもので心臓を一突きですね』

右京『普通の刃物ではなさそうですね~』

亀山『特殊な刃物ですかね』

伊丹『おい、なに普通に登場してんだよ、特亀!』

亀山『捜査をするために決まってんだろ、たたみ!』

芹沢『また米沢さんですか』

三浦『警部殿~余計なことはしないで下さいよ』

右京『ええ、もちろん』

亀山『必要なことしかしませんよ~』

米沢『その凶器なんですが・・・刃物ではないようです』

右京『傷口が広すぎますからね、では一体なにを使ったのでしょうかね~』

亀山『氷じゃないですか?時間が経つと消えますから』

右京『君にしてはいい発想ですね』

米沢『しかし遺体に濡れたような痕跡はありません。死亡推定時刻は昨夜の11時頃、発見されたのが今朝の8時です。その間の外気温では水分が蒸発するとは考えにくいですから、それと遺体の衣服にカビのようなものが付着していました。これがなんなのかは詳しく調べてみないとわかりません』

右京『なるほど。では、まずは被害者の交友関係から調べましょうか』

伊丹『おっと、警部さん。それは俺たちがやりますから、手は出さないで下さいよ』

右京『そうですか、亀山君、我々はお邪魔なようなので失礼しましょう』

亀山『ちゃんと調べて報告しろよ』

伊丹『うっせー』

 特命にて、亀山と角田

亀山『課長~いい加減出て行ってもらえません?仕事しましょうよ』

角田『いいや、俺もいつ死ぬかわからないから好きにさせてもらうよ。お前ら見てるとまともに仕事するのがばかばかしくなる』

亀山『それじゃ、俺らが仕事して無いみたいに聞こえるじゃないですか』

角田『とにかく、おれはここに居させてもらうから』

亀山『ったく・・・』

米沢『どうやら捜査一課が任意で女性を取り調べているそうです』

右京『そうですか、さっそく行ってみましょう』

角田『いってらっしゃ~い』

 取調室にて

伊丹『あんた、害者ともめていたそうだね』

三浦『2日前にあんたと害者が言い争っているのを目撃した人がいるんですよ』

 取調室の外にて

芹沢『彼女は【一升庵】という料亭の女将さんです、名前は蒼井せん(23)』

右京『料亭の女将さんと食品会社の専務ですか、どういった関係なのですかね~』

亀山『しかしあの若さで女将さんってすごいですね』

 取調室にて

伊丹『何をもめていたんだ?』

蒼井『わたしはただ工場の計画を思いとどめてもらいたかっただけです』

三浦『加藤が新しく手がけていた工場計画のことか?』

蒼井『へえ、うちのお店で長年使っている鰹節がありまして、その職人さんが手作業で作り続けていたんです』

三浦『そこに工場計画を持ち掛けられたってことか』

蒼井『へえ、なんとか工場化で本枯節がなくなるのを止めたかったんです』

伊丹『それで、殺したってことか』

蒼井『そんなことは断じてありません。何度でも辛抱強く説得するつもりでしたから』


 特命にて

亀山『彼女が犯人とは思えませんよね』

右京『その根拠はなんです?』

亀山『ありません、でも手作りにこだわる女将さんが人を殺すとは思いたくないだけです』

右京『相変わらず非理論的ですね~しかし、そこが君のいいところです』

亀山『とにかく、その職人って人にあって見ませんか?』

右京『ええ』

神奈川県小田原に住む鰹節職人、夏八木を訪れた特命の二人

続く~
 事件から三日後

 特命にて

亀山『右京さん!大変です』

角田『なんだよ、急に?』

右京『どうかしましたか?』

亀山『三浦アナは自殺じゃないようです』

右京『というと?』

亀山『凶器となった七輪と練炭の入手経路が判明したようです』

右京『また芹沢君からの情報ですか』

亀山『そんなことより、その入手経路ってのが』

右京『石井さんですか』

亀山『え?なんで知ってるんです?』

右京『我々が知っている情報の中で、君がもったいぶって説明する人物といえば石井さんしかいませんからね~』

亀山『はあ・・・なんでも三浦さんがなくなる三日前に購入したのが確認されたそうです』

右京『それで一課はどうする気なのでしょうか』

角田『もう自殺って発表した後だろ~いまさら他殺だなんて上が判断するか?』

亀山『でも殺された可能性だって否定できないはずですよ』

右京『もちろんそうです。ただ・・・』

 そこに伊丹が来る

伊丹『警部さん、石井って奴を絶対に捕まえてください』

亀山『お前らはやらない気なのか?そんなんでいいのかよ!』

伊丹『俺だって許せねーよ!でも俺らにはもう手が出せねーんだよ!』

右京『やはり刑事部長から言われましたか』

芹沢『今後の捜査を一切禁ずるそうです』

亀山『警察の面子のために、事件をうらむやにする気なのか・・・』

右京『いいえ、決してこのまま終わらせませんよ』

 テレビ局にて

石井『また刑事さんですか・・・今日はどういったご用件で』

亀山『三浦さんが亡くなる三日前にあなたは七輪と練炭を購入してますよね。もしかして今回の自殺に使われたのはそれなんじゃないですか?』

石井『・・・』

右京『もしよろしければ、あなたの購入した七輪を確認したいのですが』

石井『さすがは警察だ。もうわかってしまったんですね。確かに三浦君が使ったのは私が彼女に買ってあげたものだと思いますよ』

亀山『なんで最初に会ったときに言わなかったんだ』

石井『言えるわけ無いでしょ・・・結果的に私が彼女の自殺を手伝うことになったんですよ・・・下手したら自殺幇助にもなりかねないですし』

右京『そうですか。しかし何故彼女に七輪と練炭を購入してあげたのです?相手は悩み多き女性です。こういう結果を想定できなかったのですかね~』

石井『彼女に頼まれたんです。どれを買っていいのか分からないから買ってきて欲しいと。それにその時彼女は自殺するような感じじゃなかったんです』

亀山『そんな言い訳が通用すると思ってんのか』

右京『亀山君、そろそろ失礼しましょう』

石井『私だってこんな結果望んでいなかった。それだけは分かってください!』

 帰る二人

亀山『くっそー絶対許せね~』

右京『しかし、やはりわかりません。すぐにばれる嘘をつきますかね~』

亀山『じゃあ、他に犯人がいると?』

右京『それは皆目見当がつきません、しかしただの自殺でも事件でもなさそうですよ』

 特命にて

米沢『これが三浦アナの自殺に利用された車です。資料を持ち出すのに苦労しました』

右京『恐縮です。この車にはサンルーフがついていますね』

米沢『おっしゃるとおりです。その部分だけは目張りされていませんでした』

亀山『じゃあ、殺人だとしたらそこから犯人が出ることもできたんですね?』

米沢『しかし開閉のリモコンは車内に残されていましたからそれも難しいかと』

右京『外に出た後に、リモコン操作をし、車内に放り投げる。これならば可能ではないですか?』

米沢『なるほど。さっそく調べ直してみます。しかし仮にそうだとしても事件として扱うのは難しいと思いますが』

亀山『大事なことなんです』

右京『米沢さんだけが頼りですから』

米沢『そこまで言われてはやらないわけにはいきませんな』

 特命にて

角田『ヒマか?まあ暇なわけないな。なんか進展あったか?』

亀山『密室のトリックと凶器の入手はだいたいわかったんですがね。肝心の犯人と物証がまだなんですよ』

角田『例の遺書ってのはどう判断すんだよ』

米沢『驚愕の事実が判明しました』

右京『車から何か出ましたか?』

米沢『いえ、それはありません。しかし遺書に使われた文面が三浦アナの過去のブログの文章と全く同じだったようです』

亀山『それじゃ遺書も偽造ですか!これは殺人で決まりですね。右京さん』

右京『そのブログというのはすでに閉鎖されてしまったのですよね~』

米沢『ええ、しかし使われたブログの文章が今回閉鎖されたものではありません。そのブログ以前に三浦アナが使っていたブログです』

亀山『じゃあまだ見れるんですか』

米沢『いえ、やはりそれも閉鎖されています。私の知り合いがたまたま保存していたので今回の発見に至ったわけです』

亀山『アナヲタさまさまですね!』

右京『米沢さん、もう一つお願いしてもよろしいでしょか』

米沢『なんなりと』

 テレビ局にて

石井『なんなんですか!こんなところに呼び出して』

右京『今回の事件の詳細が判明しましたのでご報告に参りました』

石井『彼女は自殺だって言っていたじゃないか』

右京『いいえ、ただの自殺では在りませんよ』

亀山『今回の事件の全てのきっかけは三浦さんの亡くなる5日前にあったんですよ』

石井『ばかばかしい、私は忙しいので失礼するよ』

 石井の背中に向かって亀山は続けた

亀山『5日前、彼女がキャスターを務めるワイドショー。特集は【自殺】特集だったそうですね。しかもその特集の担当にあなたも関わっていた』

右京『そこから先はあなたが一番ご存知のはずですよ』

石井『・・・』

亀山『彼女は確かに精神的に参っていたようだ。でもな、彼女を最も追い詰めたのはあんたなんじゃないのか』

右京『その特集を担当していたスタッフから全て伺いましたよ。彼女がこの特集に勇気付けらたということ。しかしその一方で絶望のどん底に突き落とされたこと』

石井『私が悪いんじゃない』

亀山『何言ってる!あんたらが彼女を』

右京『亀山君。  話してもらえますね?』

石井『あの特集は急遽決まったものだったんです。しかしそう簡単に自殺志願者なんて見つかりませんよ。だから・・・あるホームレスを自殺志願者に仕立て上げたんです』

亀山『自殺志願者を辛抱強く説得して、思いとどまらせる。そんな内容は全部ヤラセだったんだな』

石井『仕方なかったんだ・・・上から急かされて正常な判断が出来なかった。でも、私は彼女を殺しちゃいない!』

右京『誰もあなたの直接の犯行だとは言いませんよ』

石井『じゃあ一体誰が・・・』

右京『言うならば、犯人は三浦さん自身でしょうかね~』

石井『でも、ただの自殺じゃないって』

右京『ええ、文字通りただの自殺ではありません。免許証を携帯せずに運転し、凶器には睡眠薬が近くにありながら練炭を選択、さらにその練炭はあなたが買われたものでしたね』

亀山『あえて車のサンルーフには目張りせず、遺書も過去のブログの文章を使った』

石井『どういうことだ』

亀山『三浦さんは、あんたを犯人に仕立てて自殺したんだよ』

石井『そんな・・・なんで断言できるんです』

右京『サンルーフからリモコンを落下させると、何度やってもリモコンの電池が飛び出してしまいました。調べてみると電池の蓋は壊れていて軽い衝撃でバラバラになってしまうんですよ。しかし現場に残されたリモコンはそうはなっていなかった』

亀山『もちろん最初の落下時に壊れた可能性もあったが、蓋の欠片は車の外で発見された。つまり密室は完璧だったんだよ』

右京『あえて七輪を使って自殺を選択したのも彼女の深い憤りが感じられます』

石井『私が何をしたって言うんです・・・』

右京『もちろん自ら命を絶つことは間違っています。しかし・・・彼女を死に追いやったのは間違いなくあなたたちですよ』

亀山『あんたらは軽い気持ちで番組作ってるんだろうけどな!それによって傷つく人間は大勢いるんだよ!』

石井『・・・』

右京『我々があなたを罰することは出来ません。ただし、このような悲劇は到底許されることではありませんよ』


 特命にて

亀山『なんだかつらい事件っすね』

右京『ええ』

亀山『何を思って自殺を選択したんですかね~』

右京『さあ、どうでしょうかね~』

米沢『失礼します、やはり自殺でしたか』

亀山『結果的に部長の判断が正しかったみたいですね・・・』

右京『それは違います。原因を突き止められただけでも彼女の無念は少しは晴れると僕は思いますよ』

亀山『そうだといいっすね』

右京『米沢さん、お借りしていたワイドショーのビデオをお返しします』

米沢『役に立ちましたか』

右京『ええ、もちろんです』

伊丹『特命係の亀山!本当に自殺なんだな?』

亀山『ああ』

芹沢『いい加減認めましょうよ~先輩』

伊丹『うっせー』

 
 いつもより賑やかな特命係で杉下右京は紅茶を注ぐ。

終わり~

とある住宅密集地の道路の片隅にて、車内で女性が倒れているのが発見された。


 特命にて

亀山『有名女子アナが自殺?』

角田『ああ・・・一押しだった三浦亜希子ちゃんだよ』

亀山『なんでまた自殺なんて?』

角田『俺にわかるわけ無いだろ~まあ最近の彼女のブログはかなりネガティブで話題になってたけどな』

亀山『うつ病ですか・・・』

右京『おはようございます』

亀山『おはようございます。右京さんは今朝のニュース見ました?』

右京『ええ、課長の表情から察するに女子アナウンサーの自殺のことでしょうか』

亀山『ええ、俺は今知ったんすけどね。あんな有名人でも悩みがあるんすかね』

右京『有名だからこそあるのかもしれませんね~』

 刑事部長室にて

内村『今回の件は自殺で間違いないんだな?』

伊丹『状況からはそう思われます。しかし・・・』

中園『なんだ?』

伊丹『亡くなった三浦さんには運転免許がありません。現場までどう来たのかわかっていません。もしくは同乗者がいた可能性も否定できません』

内村『遺書はあるだろ』

三浦『あるにはありますが、どうも遺書と呼んでいいものか』

中園『何が引っかかるんだ』

芹沢『遺書には家族への感謝の言葉と疲れたとしか書いてないんです。それもパソコンで書かれたものです』

内村『だが精神不安定だったのは確かなんだな』

伊丹『ええ、それは間違いありません』

内村『だったら自殺でいい。マスコミが大騒ぎになっているところに下手に事件性を匂わせて、結果として自殺だったら警察の面目は丸つぶれだ』

 部屋を出る一課の面々

伊丹『捜査は終わらせないぞ』

三浦『何言ってんだ?いま釘を刺されたばかりだろ』

芹沢『仕方ないっすよ。先輩は三浦アナの大ファンだったんだから』

伊丹『余計なことは言わなくていいんだよ!とにかく疑問がある以上調べるのが刑事だろ~』

芹沢『珍しく正論ですね』

伊丹『うっせー』

 特命にて

右京『疑問ですか?』

角田『ああ、一課は表向きは自殺で処理したようだけど、まだ疑問があるとかいって調べてるらしいぞ』

亀山『どうせ伊丹たちでしょ?あいつらに何が出来るんすかね~』

右京『しかし、確かに疑問の多い事件のようですよ』

亀山『右京さんまでそんな~だって密室の車内でしょ?自殺で決まりっすよ』

右京『そういった思い込みは刑事としては致命的ですよ。少しでも可能性があれば調べるのは当然じゃないですか』

亀山『・・・』

角田『で、何が引っかかるんだよ』

右京『車内でというのももちろん引っかかりますが、練炭を自殺に用いたというのが気になります』

亀山『でも一時期、練炭自殺はよくあったじゃないですか』

右京『あれは無知の人間が多投した結果です。練炭というのはかなりの苦しみをもたらし、簡単には死ねません。マスコミの現場にいた人間ならば当然知っていたはずです』

亀山『もっと楽に死ねたってことですか?』

右京『それもありますが、練炭と七輪を購入しなければ出来ない方法をわざわざ選びますかね~』

角田『じゃあ、殺されたかもしれないってのか?』

右京『さあ、それは少々飛躍しすぎですが・・・』

亀山『調べてみる価値はありそうですね』

右京『ええ』

 三浦の所属していた放送局にて

右京『警視庁特命係の杉下です』

亀山『同じく亀山です』

直属の上司だった石井『三浦君のことですか?』

右京『ええ、二、三確認したいことがありまして』

亀山『三浦さんがここを辞めてフリーになった経緯を聞かせてもらえませんか』

石井『彼女はもともと報道志望だったんです、ただ局の事情でしばらく報道の仕事はさせませんでした』

右京『そうでしたか。それで報道専門になるためにフリーになられたわけですね』

石井『ええ、しかし実際には報道の仕事は少しだけでしたね。局に属さない人間にそれほど報道の仕事はありませんから』

右京『なるほど。では自殺をするような心当たりはありませんか?』

石井『彼女の退社以来会っていないので知りません・・・残念です・・・もうよろしいですか?仕事がありますので』

右京『ええ、ご協力有難うございます。あっ!最後にもう一つだけ。彼女が誰かとトラブルになっていたという話はお聞きになったことはありませんか?』

石井『え?それは一体どういう意味です?』

右京『いろいろな可能性を探っていますので、僕の悪い癖ですのでお許しください』

石井『わかりません』

 帰る二人

亀山『なんか隠してる感じでしたね』

右京『君も気付きましたか』

亀山『まあ、俺のただの心象に過ぎないんすけど』

右京『いえ、石井さんは我々が来たことに何の疑問も抱きませんでしたね。世間でこれほど自殺だと騒がれ、一課も自殺として処理しようとしているにもかかわらずにです』

亀山『殺しなんすかね・・・』

 鑑識にて

米沢『三浦亜希子の自殺についてですか』

右京『ええ、そうでない可能性もありますので念のため調べようと思っています』

米沢『全国のアナヲタも自殺説には疑問を抱くものが大半です。もちろんブログではかなりネガティブになりがちでしたがそれだけでとは思えません』

亀山『そういえば米沢さんも女子アナ好きでしたね』

米沢『私の場合、女子アナ全般ではありません。その言い方だと猫も杓子もというように思われますから。まあ、どうでもいいですね』

右京『ところで、死因に疑いの余地はありませんか?』

米沢『典型的な一酸化炭素中毒死ですね。微量の睡眠薬が検出されていますが、状況を見る限り自殺に間違いありません』

亀山『内側から目張りされてたんすよね』

米沢『ええ、かなり強く貼り付けられていたので現場に到着した警官も開けるのに相当苦労したそうです』

右京『そうですか。では遺書はどうです』

米沢『それは彼女の自室のパソコンにも同様の文面が保存されていましたので、第三者が書くとしたならば部屋に侵入しない限り無理ですね。もちろん侵入の形跡はありませんでしたよ』

亀山『やっぱり自殺ですかね・・・』

右京『練炭や七輪の購入経路は判明したのですか?』

米沢『それはまだのようです』

伊丹『特命係の亀山ぁ~』

亀山『なんだよ』

伊丹『絶対犯人見つけろよな!行くぞ!』

亀山『あ?』

芹沢『今、上からかなり絞られたばっかりなんすよ。まあそれだけじゃないんですけどね』

伊丹『芹沢~!』

右京『状況はほぼ自殺です。動機もありますね、しかし・・・』

続く~


 鑑識にて、過去に起きた3件の傷害事件の資料を見る特命の二人

亀山『3件目の被害者って木佐原康子にそっくりじゃないですか』

右京『ええ、さらに1、2件目の事件とも手口が異なります。1、2件目は車で少女に近づき道を聞くフリをして少女を自転車ごと突き飛ばしています』

米沢『確かに3件目は車ではなくバイクで近づき、いきなり少女に暴行を加えすぐに立ち去っていますね』

亀山『犯人は康子さんと間違えて襲った可能性もあるということですか』

右京『ええ、そうなるとストーカーの塩谷の犯行とは考えにくい』

亀山『なぜです?』

右京『ストーカーが標的を間違えるというのは余りにも間が抜けていると思いませんか』

亀山『じゃあ、連続暴行犯の犯行に見せかけようとしたが、康子さんとは別人を襲ってしまい、すぐさま逃げ、今度は本物の康子さんを襲ったってことですか?』

右京『その可能性もあるということですよ』

伊丹『くぉらー特命係の亀山~てめーまだうろちょろしてやがったのか』

亀山『いちいちうっせー!お前らこそ塩谷に手を出せねーだろ』

三浦『必ず証拠を見つけてやるよ』

右京『なるほど、捜査に行き詰ってしまい原点である凶器の特定とその出所から塩谷を逮捕しようと言うことですか』

伊丹『あなたには関係ありませんよ~警部さん』

芹沢『でも、この様子じゃそれも難しいみたいですね』

右京『亀山君、行きましょうか』

亀山『はい』

伊丹『おい、奴らは何を調べてるんだ?米沢~』


 木佐原康子の父、文彦を訪れた二人

右京『はじめまして、警視庁特命係の杉下と申します』

亀山『同じく亀山です』

木佐原『まだ犯人は見つからないんですか・・・』

亀山『犯人逮捕のためにも話を聞かせてください』

木佐原『もう、他の刑事さんにお話したこと以外ありません・・・塩谷なんて男も聞いたことありません』

右京『そうですか、ではその他に康子さんに変わった様子はありませんでしたか?』

木佐原『そういえば・・・2週間くらい前に慌てて帰ってきたことがあります。理由を聞いても何も言ってくれなくて』

亀山『ストーカーがいたというのはご存知だったんですか?』

木佐原『ええ・・・近くの交番のお巡りさんは親身に相談に乗ってくれましたよ。でも結局何をされたわけでもないので、まして誰にストーカーされていたかも分かりませんでしたから何も出来ませんでした』

右京『そうですか。では失礼します』

右京『あっ、もう一つだけ。その交番というのを教えていただけますか?』


 緑ヶ丘交番にて

右京『あなたが康子さんの相談に乗っていたという御厨さんですか』

御厨(29)『ええ・・・あんなことになってしまい残念です・・・』

亀山『康子さんから2週間前のこと何か聞いてませんか?』

御厨『2週間前?さあ・・・何も聞いてませんが・・・ああそういえば確か2週間前の日曜日には部活の試合で町田に行ったと聞いてますよ』

右京『それ以降、康子さんに何か変わった様子はありませんでしたか?』

御厨『言われてみれば・・・元気が無かったようにも思いますが・・・』

同僚の仲島『おい、御厨。警らの時間だぞ』

御厨『そろそろ失礼します』


 特命にて

亀山『いま町田署から連絡ありましたよ。2週間前の日曜日。康子さんのいた試合会場のすぐ近くで窃盗事件があったそうです』

右京『窃盗ですか・・・』

亀山『ええ、主婦の片山佳乃さんの自転車の前かごにあったバックをバイクに乗った男が奪って逃走したそうです。犯人もいまだ見つかっていません。でも康子さんは目撃者になったわけじゃないですよ』

右京『もしも、目撃したことを黙っていたとしたら』

亀山『なんでまたそんなことを・・・』

右京『犯人が知り合いだったからというのはどうでしょう。庇っていたとしても不自然ではありません』

亀山『いったい誰を・・・康子さんが庇うって言ったらまさか御厨って巡査なんじゃ』

右京『君らしい斬新な発想ですね~しかし、町田にいたという情報は彼からもたらされましたよ。もっとも調べればすぐに分かってしまうことだから、あえて自分から話したとも考えられなくも在りませんがね~』

亀山『他に目撃者がいないか探してきます』

右京『こちらでも少し調べたいことがあります』

 しばらくして

米沢『確かに被害者の顔の引っかき傷に一つ大きな特徴がありました』

右京『その傷口とぴったり合うものに心当たりがあります』

亀山『右京さん~目撃者でました!康子さんの部活仲間が覚えてました。逃げるバイクは黒い車体に赤いヘルメットだったと言っています。それで御厨巡査のバイクも調べてみたんですが・・・同じく黒いバイクと赤いヘルメットでした』

右京『そうでしたか』

亀山『やっぱり犯人は・・・』

右京『さっそく緑ヶ丘交番に向かいましょうか』

 緑ヶ丘交番にて、特命の二人は御厨、仲島の両警官と会っていた

御厨『またあなたたちですか・・・』

右京『康子さん殺害の犯人がようやく分かりました』

御厨『え?いったい誰です?』

亀山『犯人は康子さんが安心して夜中に会う人物。さらに何らかの事情である窃盗事件の犯人を知ってしまった康子さんは口封じで殺されたと思ってるんですよ』

御厨『?で、それは?』

右京『あなたではないんですか?』

御厨『何を馬鹿なことを・・・』

亀山『おそらく康子さんもそう思っただろうな。窃盗事件の犯人は御厨さんだと』

右京『正確にはそう誤解されたということです。そうですよね?仲島さん』

御厨『?』

仲島『はあ?何言ってるんですか・・・』

右京『町田市管内では同じ手口の窃盗事件が連続して起こっていました。赤いヘルメットの黒いバイク。あなたが御厨さんのバイクをよく借りていたのは調べ済ですよ』

御厨『なんで仲島が窃盗なんかを・・・』

仲島『・・・』

右京『被害にあったのは育児を放棄した母親、さらには万引き常習犯といった人物でした。そして2週間ほど前まであなたが勤めていたのが町田署地域課。全く懲りない面々を見て、標的を見つけたのはそのときでしょうね~そしてそれを察知したあなたの父、国交省官僚の仲島義彦氏が手を回し町田から遠ざけた』

仲島『何を証拠にそんなことを・・・』

亀山『あんた先日良家のお嬢さんと婚約したそうだな。そんな時に康子さんに犯行を見られてしまった。いや康子さん自身は御厨だと思って何も言えだせなかったんだ』

御厨『そんな・・・』

右京『そしてあなたはそれを利用しましたね。御厨さんの名前で康子さんを呼び出し、話を聞くとでも言ったのでしょうね~そして殺害に及んだのですね』

仲島『証拠はあるんですか?第一、塩谷って奴の犯行なんじゃないんですか』

亀山『塩谷はあんたの犯行を見ていたんだろ?康子さんのときじゃなく、間違えて別の少女を襲ったところをな。それで塩谷を利用して、容疑者にした。といってもあんたの父が手を回して塩谷には一切警察の手が及ばないようにしてな』

右京『もちろん証拠もあります。康子さんの殴られた傷の一部に他のものと異なるものがありました。何か堅いもので傷ついたようです。あなたの身に着けているその婚約指輪を調べさせてもらえませんか。きっと出ると思いますよ。ルミノール反応、いえ康子さんの血液が必ず付着しているはずです』

仲島『・・・あの子に見られて怯えているときに・・・あの子が御厨に何か伝えようとしていたんです。もしバイクのことを言われれば御厨に俺の犯行がばれてしまう。だから仕方なく・・・』

右京『皮肉なものですね~あなたが何より大事になさっていた婚約指輪で、あなたは破滅してしまうのですから』

亀山『てめー仮にも警察官だろ!ふざけんなよ!』

右京『亀山君。彼にはこれから長い時間があります。必ず悪夢に襲われる日が訪れますよ』

仲島『・・・』

 特命にて

亀山『毎回、なんでこんな事件が起こるんすかね』

右京『地位と名誉と名声のためですかね~本来は何の意味も持たないものなのですがね』

亀山『ところで凶器ってなんだったんです?』

右京『接着剤とともに植物の繊維も見つかったそうです。おそらく、植物のつるを接着剤で固めピアノ線並みの強度を持たせたのでしょうね~』

亀山『なるほど、それなら手にダメージは無いですね。しかしなんだってそんな真似を』

米沢『おそらく凶器から犯人を特定されるのを恐れて自然物を使ったと思われます』

亀山『それなのに指輪で犯行を露呈したってことですか・・・』

右京『完璧を目指すものほど大きな間違いを犯すものですからね~』

亀山『じゃあ、右京さんもですか?』

右京『はぃ~?』

亀山『冗談ですょ』

角田『ヒマか?』

 
 杉下右京はムッとしながらも今日も紅茶を飲んでいた。

終わり~

 東京都多摩市  午後10時

通りすがりの男性が畑の中で女性が亡くなっているのを発見した

伊丹『害者はまだ高校生か・・・身元は?』

芹沢『身分を示すものはありません、財布が見つかってないんで金銭目的の犯行のようです』

三浦『物騒な世の中だな~』

米沢『遺体には複数の打撲痕が見られます、どうやら何度も殴られた上で首を絞められたようですね』

右京『凶器は何ですか?』

伊丹『ちょっと警部さん~こんな時間まで一課の仕事に首を突っ込まないで下さい!』

芹沢『また米沢さんが呼んだんですね・・・本当に確信犯だな~』

米沢『・・・凶器は見つかっておりません。おそらく細いひも状のもので一気にというとこでしょう』

右京『となると、犯人の手のひらにも相当なダメージがあったのではないですか?』

米沢『ええ、例え手袋を使ったとしても手に痕跡が残るでしょう』

亀山『だったら犯人逮捕も時間の問題ですね、右京さん』

右京『しかし、衝動的な犯行ならともかく、人気のいないこの時間、この場所を選んでいる時点で相当な計画性を感じます。そのような犯人が痕跡を残しますかね~ましてや自分の手のひらに・・・』

米沢『確かに、いささか疑問ではありますが今のところそれ以外に犯人に結びつくものは無いですね』

伊丹『俺たちを完全に無視してやがる』

三浦『警部殿は出しゃばらないでいただけますね』

右京『もちろんです。亀山君、行きましょうか』

亀山『はい。おい、伊丹、俺たちの手間取らせるなよ』

伊丹『うっせーとっとと失せろ!』

 次の日、特命にて

亀山『どうやら、殺された高校生は随分前からストーカー被害にあっていたようですね』

右京『そうのようですね~先ほど身元が判明したと連絡がありました。名前は木佐原康子さんだそうです』

亀山『この事件どう思います?』

右京『はい~?』

亀山『だってこの事件には計画的なのものを感じるのに、手口が杜撰だと言ってたじゃないですか~そしてストーカー被害にあっていたのなら夜人気の無いとこに出歩くとは考えにくいですよね?』

右京『君にしては上出来ですね~確かに何故あの場所に行ったのか気になりますね~』

 特捜本部にて

伊丹『木佐原康子にストーカーをしていた人物が判明致しました。名前は塩谷一之(28)現在無職で、事件当日もアリバイはありません』

内村『その男が犯人だという確かな証拠はあるのか?』

伊丹『いえ、ですから別件で逮捕して、任意で事情聴取をします』

内村『よし、こんな事件は早々に解決するんだぞ』

 取調室にて

塩谷『・・・』

三浦『そろそろ何かしゃべったらどうなんだ』

塩谷『弁護士を呼んでください』

伊丹『てめ~ストーカーの分際でなにを!』

芹沢『恫喝は止めて下さいよ。先輩!最近ずる賢い被疑者が増えてるんすから』

 しばらくして

武藤『武藤法律事務所の武藤かおりです』

伊丹『よく存じていますよ・・・』

武藤『任意ですよね、だったら帰らせてもらいますよ』

塩谷『この刑事に脅されたんだ。弁護士請求も無視しようとしたよな!』

武藤『まあ、今回のところは大目に見ますが今度こんなことがあったら徹底的にやらせてもらいますから、失礼します』

伊丹『・・・くそっ・・・』

 特命にて

亀山『どうやら一課の連中が武藤さんにやっつけられたみたいっすよ』

右京『米沢さんからお聞きしました。しかし塩谷は資料によれば無職なはずですね。一体どこから弁護士費用をまかなえるのでしょうかね~』

亀山『それは市会議員の塩谷友蔵と何か関係あるんじゃ』

右京『ええ、議員は彼の親戚だそうです。しかしここで表立って庇うような真似をすればマスコミにあることないこと書かれてしまうと思いませんか?』

亀山『でもストーカーだけでもまずいのに殺人犯ってのは致命的でしょう』

右京『しかし、証拠はない。放っておいても逮捕されることはまずありませんよ』

亀山『じゃあ、誰かが塩谷を庇ってるって言うんですか?それこそなんでです・・・?』

右京『それは皆目見当もつきません。しかし結果的に一人の少女が犠牲になっています。必ず暴いて見せます』

 その日の午後

 武藤法律事務所にて

武藤『杉下さん、亀山さん、お久しぶりです。あの事件以来ですね・・・』

右京『ええ、さっそくですが武藤先生は塩谷一之の弁護をなさっていますね』

武藤『ええ、でもそれ以上のことは話せませんよ』

亀山『守秘義務ですか』

武藤『分かっているのなら時間の無駄でしょ』

右京『では最後に一つだけ、塩谷が任意で取調べを受けたあの日。武藤先生はどうやって彼のことを知ることができたのでしょう』

亀山『塩谷は連絡を取る前に連れてこられたと言っていますよ。現に弁護士を呼んでくれといった直後にあなたが現れた』

武藤『ずるい質問ね・・・ある人から連絡があったのよ。塩谷一之を助けて欲しいと』

右京『しかし、ご多忙の先生が時間を割いてまで駆けつけるということはよほどのクライアントなのでしょうね~』

武藤『・・・』

 外に出る二人

亀山『やはりいましたね。大物の依頼人』

右京『ええ・・・』

 特命にて

角田『ヒマか?っていないのか・・・』

亀山のメモ【鑑識にいます。コーヒーはご勝手にどうぞ】

 鑑識にて

米沢『そろそろ来る頃だと思いました。解剖の結果がこれです』

右京『死亡推定時刻はやはり午後8時前後、凶器については何か?』

米沢『細いひも状のようなものとしか何とも・・・ただ遺体の首からは微量ですが接着剤の成分も検出されています』

亀山『どういうことです?』

米沢『わかりませんな・・・一課では、現場付近で過去に起きた高校生に対する傷害事件についても塩谷の犯行だとにらんでいるようです』

亀山『そんなに物騒な場所なんすか?』

米沢『半年ほど前から3件の傷害事件が発生しています。いずれも犯人は捕まっていません』

右京『その資料もお借りできますか?』

米沢『もちろんです。ここにまとめてあります』

亀山『さすがに仕事速いっすね~』

 特命にて

右京『気になりますね~亀山君、3件目の被害にあった女性を見てください』

亀山『あっ・・・』

 続く~