馴染みの薄いジャンルに出を出すときは、

大いにブックチューバ諸氏のご意見に依り頼んでいます。

本書もまたその部類で、どのような本なのかほぼ何も知らずに手をつけました。

 

一応出版の背景を探ってみると

中央公論社が2019年に『小説BOC』なる雑誌を創刊するにあたって、

8(9)名の作家たちによる「螺旋プロジェクト」の1作目として

この本が出版された、とのこと。

どうやらこのプロジェクトは8組9名の作家たちに

「同じルール」の下、古代から近未来の日本を舞台に、

二つの部族が対立を8本の作品を通して展開させる

壮大な「タペストリー」だそう。

各作品は独立して楽しめるのだけれども、

結局全部読まないとプロジェクトの全容は解らないよ、という代物。

ただ、ここに参加している作家たちがまた大物で。。。

朝井リョウや伊坂幸太郎も名を連ねています!

ただ、8冊ですよ。どうする?

 

それで時系列で言って1冊目が本書、大森兄弟の『ウナノハテノガタ』。

紀元前3000年辺りを想定して物語は展開しているよう

(本書には時代を明かす手掛かりはほぼ皆無)。

ただ原始時代であることを描写するのに、登場人物の言葉が崩れていて、

固有名詞や一般名詞が特異な言い回しになっています。

何の断りもなく突然に現れる

ヤマノベ、レフタイ、ブンブン、オオキボシ、ハイタイステルベ等々。

最初の数頁、何を読まされているのか解らない感満載で

物語は不親切にも前へ前へと進みます。

そのうち崩れ言葉にはさほど深い意味はなく

文字通り太古なので崩れているだけで

現代語に似たような言葉があれば、

それを意味しているだけ、ということが分かり、嘆息。

例えば既出のオオキボシは「おおきいほし」の崩れ言葉

大きい星、つまり「太陽」という具合。

 

物語は「螺旋プロジェクト」のルールに基づき二つの部族、

本書では山で暮らすヤマノベと海辺に暮らすイソベリの対立が展開します。

定点はイソベリに据えられていて、

ある日ヤマノベの一族の儀式で生贄として殺されるはずだったマダラゴが、

うまいこと死を免れて逃げ出し、イソベリの一族に紛れ込みます。

ところがイソベリ族の間では、ヤマノベと接触してはならないという伝承があり、

その掟を破ると不幸が訪れるとか。

さて、接触が始まってしまった両族の間に何が起こるのか。

本当に不幸が訪れるのか。物語は崩れ言葉を引きずりながら、

テンポ良く展開を続け終焉へ。。。

 

二つの部族が出会うことで起こる「不幸」とは、

けだし真理を新たに知らされること。

だから「不幸」というのは少々語弊があるかもしれません。

「脅威」の方が近いかな。

イソベリとヤマノベの間で一番の違いは「死」に対する理解。

そこに光が差し込み、真実が明かされる。

それはこれまでのイソベリのアイデンティティを

致命的に変えてしまうほどのインパクト。

彼らは脅威を肌身に感じながら、最後の希望をそれに託すのです。

そう、ウナノハテノガタに。

 

恥ずかしながら大森兄弟の作品も初でした。独特ですわ。

ま、この作品が独特なだけかもしれません(設定が独特ですから、何せ)。

この作品に限って言えば、

読みづらかった。

そして残り7冊を読むモチベーションは今のところ。。。

ただ、全部読破すればほぼ間違いなく大きな報いはあるだろうな、

そう感じました。