1,000頁を超える京極ミステリー『魍魎の匣』が実のところ第2作目だと知らされたら、
どうしても第1作に手が出てしまうではないですか。
それで今回は購入してしまいました。
こちらも立ちます、が今回はたったの620頁程度。
それでも時間は掛かりました。
こちらは言わずもがな、京極夏彦氏のデビュー作(1994年、講談社ノベルスとして刊行)。
当初は県立図書館でノベルスを借りて読み始めたのですが、
やっぱり文庫の方が格段に読み易く、それで購入する結果に。
まずは「姑獲鳥」をどう読むか、そして何か、から始まりました。
様々な古典に現れるウブメを拾い上げるところから本書は滑り出します。
どうやら本書では鬼神の種で、他人の赤子をさらって己れの子とするらしく、
羽毛を身につけているときは怪鳥の姿をとり、羽毛を脱ぐと女に化身するとか。
文士関口巽がナレータを担うのは第一作からのスタンスだったのですね。
今回は冒頭から京極堂(中禅寺)秋彦が登場しますが、
最初の100頁近くは、何やら脳の認知機能やら、心の働きやら、
なんだか認識論の入門書でも掴まされているような内容が延々と続きます。
人は見えないものが見えてしまうだとか、
見えているものが見えなかったりするものだ、という話が…
これが京極作品初見だったら、やつがれはきっと2章に入る前に
諦めてしまっていただろうと感じましたわ。
先に『魍魎の匣』を読んでおいてよかった。
延々と続く「語り」は必ずミステリーを解くための手掛かりとなるのが
京極ワールドの鉄板ですからね。根気よく精読しましょう。
ようやっと、関口が京極堂のところに、奇怪な話題を持ち込んできた、
という話が始まります。なんと妊娠20ヶ月の産婦がいるという話し。
ところがその夫が行方不明になり、しかも密室から消失したというのです。
さらに、同時進行で赤子がさらわれたという噂が囁かれ、
どれも雑司ヶ谷の墓苑の側に建つ久遠寺医院で起きているとか。
やがてそこに住む医者の令嬢久遠寺涼子が探偵榎木津の事務所に
調査依頼に訪れ、そこで関口とも出会う、と言ってようやく
物語が動き出します。
目の前で起こる出来事/事件の一つ一つは奇怪で超常的なもので
関口や木場には解し難い展開なのですが、
それを陰陽師の京極堂が民俗学の世界を紐解きつつ、
また心理的な観点から隠された秘密を暴いていく展開です。
心理学と言っても、今どき当該者らが自己主張しているような
自然科学的な方法論としてではなく、
「共感できる者にのみ有効な…科学の産んだ文学」だと
言い切るのが痛快です(33頁)。
やつがれも心理学は人文科学だと兼ねてより確信しとりましたから。
「この世に不思議なことなど何もない」と繰り返し諭しながら
事件の全貌を解き明かしていきます。
本物語は、確かに関口巽が一人称で語るのですが、
彼は鬱傾向が強く、さらに上記の涼子に不思議と繋がりを感じる
ところがあり、とてもではありませんが信頼できる
ナレーターとは言い難い。そんな危ういナレーションに
読者も振り回されながら物語は進みます。
京極堂と関口、また探偵の榎木津のほか、
京極堂の妹中禅寺敦子、
荒削りな刑事木場修太郎、
木場修の部下青木や木下、
加えて三度の飯よりも解剖が好きな里村紘市監察医が
皆々様大活躍です。
これがデビュー作なんだなぁ、と読了後しばらく呆気にとられました。
圧倒的な重量。ふんだんに頁数を割いてでも
伝えるべきことは確実に知らせる、その度量。
京極氏の情報ベースは日本に入ってきてからの陰陽道、
(とはいうものの、今回ホムンクルスなんかちらっと顔出し有り)
関連する日本の古典、そして民俗学なのだろうね。
高校の頃国語の教師から柳田國男を紹介されて、
『遠野物語』を読んだことがありましたが、
恥ずかしながら当時のやつがれにはその面白さが
まるで分かりませんでした。
京極夏彦を2冊読んで、漸く「読んでみようかな」と
関心が湧きましたよ。
それにしても漢字が多い。
今度「魑魅魍魎漢字検定」を作成してみようか。
試験範囲、京極夏彦。以上。ww
それからデビュー作が600頁越え、2作目が1,000頁越え、
でも『鉄鼠の檻(てっそのおり)』は1,300頁越え、
『絡新婦の理(じょろうぐものことわり)』に至っては1,400頁越えですから、
上には上がまだまだあります。
皆さん、読む元気あります??
