何だか今月はこの1冊で終わってしまいそう。

白状しますと、市立図書館で2ヶ月くらい前に順番待ちで

ようやく手元に届いたのですが、2週間で読み切れず、

(言い訳をすると、他にも併読してる本がありまして。。。)

一旦返却、改めて借り直して、しかも2週間延長をして、

やっと読破しました。

第一にマフィアものを読むのは初めてだ、というのが大きなハードルでした。

しかも550頁越えですから、決して短編ではなかった。任侠ものや、この手の

ストーリーはもっぱら映像で楽しむものだと思ってきたものですから、

文字に起こすとどうなるのか皆目見当もつきませんでした。

ちなみにタイトルを読んだだけではジャンルをはじめ、全くその内容が予測できず、

それはそれで面白いかも、と思って予備知識ゼロで手にした次第です。

(あ、ただ直木賞・山本周五郎賞W受賞作だということは知ってました)

 

それから第二に、ストーリーの文化背景が南米アステカに据えられているのも

初体験でしたから、こちらも予備知識が皆無に等しい読書になりました。

随分wikiや辞書・辞典類のお世話になりました。何せメイン言語がナワトリ語ですから。

漢字のふりがながますます難しい言葉に置き換えられていて、挙句の果てには

カタカナにもカタカナでふりがなが付いて、もはやふりがなの役割を超えてしまってる(笑)

章番号が52まで振られていますが、一つ一つの番号にもカリグラフィー豪華なフォントで

ナワトリ語の数詞が併記されています。本書を読み終わるまでにナワトリ語で50まで

数えられるようになるよ。でも読みにくい。。。

 

ザクっと「マフィアもの」だなんて言い切ってしまいましたが、大雑把に解説すると

メキシコの麻薬カルテルに君臨していたバルミロは、ライバルマフィアに追われ、

命辛辛インドネシアに辿り着きます。そこで臓器売買を生業とする日本人と出会い、

二人は新たな臓器ビジネスを目論んで日本(川崎)へと移ります。

一方マフィアに支配されたメキシコの町で暮らす少女ルシアは意を決して町を出て、

彼女もまた日本に辿り着きます。日本でヤクザに養われ、男児コシモを設けます。

尋常ならぬガタイと体力に恵まれたコシモはやがてバルミロの目に留まり。。。

 

バルミロを突き動かす哲学が古代アステカの神話。第41〜42章にかけて劇中で

解き明かされます。最終章「サボテンにとまった鷲(クワウトリ)が蛇(コアトル)を

くらっている。そこがおまえたちの栄える地だ。」でも読み聞かせのように

数頁にわたって物語が語られています。

実に生々しい死生観や神と人との繋がりが展開されていて、ヒトのうちに潜む

残虐性をおもてに引き出すような伝承ですわ。

古き良き(?)伝承をスペイン賊軍とキリスト教宣教師たちによって破壊された、

みたいなくだりがありますが(ありがちなキリスト教ディスり論)、

結局ヒトに潜む残虐性を治めるのは他でもないマタイ福音書9章13節のキリストの言葉、

「わたしが喜びとするのは真実の愛。いけにえではない。」

図らずも「人身御供VS真実の愛」=「アステカ神話VS福音」って構図か。。。

 

殺戮や拷問の様子が生々しく描かれていて、その辺りがきつい人には

あまりお勧めできないかもしれません。ただ、佐藤究先生、初めて拝読しましたが、

まあよくお勉強なさってます。アステカ文明についてはいうまでもなく、

スペイン語やナワトリ語もどの程度言語として習得しておられるのかは存じませんが、

かなりラテンの空気を吸い込むことができる、そんな空気の一冊です。

巻末には参考文献が3頁にわたって紹介されていて、興味の湧いた読者に

さまざまな手がかりを残してくれているのも嬉しいところです。

文庫化されたら本棚に加わる。。。。かなぁ?