X+Y=Z

 

ご存じ中1で教わる三平方の定理(ピタゴラスの定理)。

ところが、乗数を2より大きくしようとすると

絶対整数にならないぜ、というのがフェルマーの定理。つまり、

 

Xn+Yn=Zn

この方程式についてnにあてはまる3以上の自然数は存在しない。

 

それで「おいら、もうそのことを証明できちゃったからね」

とメモ書きだけして、実際には証明を書き残さないで死んでしまった。

このメモ書きのためにその先350年、世界中の数学者たちは

悩まされることになった…アンドリュー・ワイルズが証明するまで。

 

本書はその350年の年月の間、格闘を続け、バトンを次の世代に

託していった偉大な数学者たちの頭脳と生き様を

生き生きと描いた物語です。

テーマはガッツリ理系ですが、実際には数学者の群像ドラマ的な

内容になっています。しかも数百年の時空を超えて謎を解いていく

ストーリー展開は、まるでミステリー小説を読んでいるような

スリルさえあります。

500頁近くある本書(本編は460頁)ですが、まったく

飽きることなく読了しました。

 

作者Simon Singhはインド系英国人のライターで、科学分野が専門。

でもまるで情熱大陸を見ているようなドキュメンタリー・タッチ。

そして登場する数学者たちを本当に丁寧に描いています。

2000年前の哲学者も20世紀の天才たちも。

そしてフェルマー定理に関わった日本人数学者たちも

じっくりと取り上げています。

しかも、数学界は十分に彼ら(志村五郎、谷山豊両氏)を扱っていない、

と不服そうに訴え、お二人の近影を見開きいっぱいに記載してくれています。

宮岡洋一氏や岩澤理論にも言及して、とても近親感が湧きました。

 

「三体問題」(137頁)への言及があったりして、

何だか劉慈欣のSF世界観にまで思いは広がったり。

それから「四色問題」(444〜頁)に至るともう

東野圭吾『容疑者Xの献身』の世界ですよね。

容疑者石神教諭とガリレオ湯川の会話の中で、

方程式が美しくない、という苦言を述べているシーンが

印象的でしたが、まさにこの『四色問題』の解き方に

ついてじゃなかったっけ(あれ?リーマン予想だったっけ)。

いずれにせよ、四色問題を高校生に教えようとして

まるっきり通じなかったってシーンがあったと思います。

隣り合う色が同じになってはいけない、

というのもミステリー小説の奥深いフラグでしたし。

(そういえば最近スマホゲームをやってると

 そんなゲームアプリのCMが頻出するなぁ)

 

本編の結びで数学問題の「美しくない」解決法への

数学界の懸念に作者も同調し、コンピュータで

強引に答えを叩き出す「深みのなさ」を憂えて、

私たち読者にも、思考のドラマを体験したければ、

計算機の数秒ではなく、350年の苦悩を体感するように

訴えているように読み取れました。

 

翻訳してくださった青木薫女史のヴォキャブラリも

秀逸です。訳者あとがきからも、彼女の本書への

愛を感じます。勝手ながら…

 

2、3日で読めると思いましたが、1週間近く掛かりました。

こんなペースだと【新潮文庫の7冊】程度で終わってしまうぞ。

山本周五郎の『さぶ』、あと一人なのにまだ来ない。

先に『三体3』の下巻が来ちゃったよ。誤算、誤算。