「ラブカは静かに弓を持つ」という作品で知った安壇美緒さんという作家の作品。

あの作品を読んで以降しばらくの間、私の頭の中でチェロが鳴り響いていましたし、私もチェロでも始めようかな、なんて思っていたことをすっかり忘れて、今こうして思い出している次第です。

ただし、カザルスさんという音楽家の名前と、その方が演奏しているチェロは今もよく聴いております。

そんなことを思い出しつつ読み始めたこちらの作品。

舞台は品川にある人材派遣会社でした。

そこで、どこにでも、いや誰にでもありそうなとても身近なことから、題名にもあるようなとても珍しい苗字をもつ方の「日記」につながるという、なんとも不思議な、いや不思議ではないかもしれませんが、不思議な感じのする物語でした。

人材会社にこそ、人材が必要だ。
できる子はすぐにやめてしまう。
IT会社こそ、IT化が必要だ。
上司が何の仕事をしているのか全く分からない。

などなど、業種や業界を問わず、誰もが同じようなことを思っていそうな親近感のある話題と、20代後半を迎える主人公たちの、あの何とも言えない微妙な立ち位置というか、考え方というか、何とも言えない危うい感じのする何か。

このあたりを作中で感じながら読んでおりました。自分の若かった頃を思い出しながらというよりも、これからこの世代になっていく子供たちはどんな感じになるのだろうなと、ぼんやりと考えながら。

と言いながらも、作中に登場する甲子園のスーパースター絡みの話では、私も野球少年だった頃のことを思い出しました。85年当時、少年野球をやっていた人であれば、誰しも桑田さんや清原さんに憧れていたと思います(もちろん私の主観100%ではありますが)。
当時6年生の私もそうでしたし、周りも皆そうでした。
そしてあの今も語り継がれるドラフト会議。
その後、チームを分かれた二人の活躍、そして日本シリーズでのあの涙まで含めて。

そんな本当に青春ど真ん中のような熱い思い出があったことを、こちらの作品で思い出させていただきました。
作中「パワプロ」という野球ゲームが登場しておりましたが、私のころはファミリースタジアム、略して「ファミスタ」でした。

当時中学生、ほぼ毎日のように部活だったあの当時、友達とプレーできたのは、定期テスト前の部活停止期間だった。
ということも思い出させていただきました。

といった感じの感想となりますが、読むことができて良かったです。
特に最後に派遣されてきた新人さんとの会話に、なぜかグッと来てしまいました。


以上です。