下巻ではいよいよあの方、そうです、第六天魔王こと織田上総介信長が登場します。
ご自身が主人公の作品はもちろん、誰が主人公の作品であってもほぼブレることのない上総介殿。
今回の作品でも、とても良い感じで緊張感を与えてくれる存在です。

そしてそれに続き、あの方、木下藤吉郎。
後の太閤殿下。

やはりこの二人は、いついかなる時もしっかりと「信長」と「秀吉」を演じていただけます。

そして、今回の作品で宇喜多家絡みではないところで、新たな視野を広げていただけたのは、毛利のエリート外交官(外交僧)である安国寺恵瓊。
この方の若かりし頃、というか恵瓊さんの年齢を初めて意識したと言いましょうか。

私の中の恵瓊殿は、もう老練ともいっていい立場で相手を飲み込むような立場の方だとずっと思っていたのですが、宇喜多直家公よりも10歳ほど下の人物として、おそらくは30代の人物としてこの作品に登場してくれました。

そしてこの登場の場面、宇喜多家と毛利家のやり取りなんですが、これは本当に素晴らしい交渉のやり取りで、特に直家が行う家臣たちの取り扱いや条件のまとめ方で思わず唸ります。

そしてその交渉後に進められる石山城(岡山城)の築城での、育ての親である阿部殿との感動のシーン。
ちょうど下巻の真ん中あたりだったと思うのですが、私はここ、この場面で読むのをやめようかと思ったほどの感動の場面です。

ちなみに城下町と商都(今の都市のようなもの)を一体として作られたのは、この石山城(岡山城)が初めてなんだそうです。
力をつけていくためには商業というものが絶対的に大事な時代になってきたということや、鉄砲などによる戦い方の変化というものが短期間で一気に起こった時代だということ。

ただただ歴史的に覚えることとしての戦国時代というものも、このような視点が少しだけあるだけでも、歴史嫌い、歴史アレルギーを発症される方も減るだろうと思える情報が盛り沢山です。

今思えば、先生によってはちょっとしたエピソードを盛り込んでくれていたりしていたような気がします。
当時から先生方も、いかに面白く、そして簡単ながらもこの背景がありながらのこの歴史なんだよ、ということを伝えようとしてくれていたのかなと思います。

といった中盤、そして後半は歴史上もっとも有名と言ってもいいのではないか、というあの「本能寺の変」に向けて、直家率いる宇喜多家の運命や如何にという手に汗握る展開。

上下巻合わせると約1,000ページ近くもある大作。
そんな大作にも関わらず、最初から最後まで素晴らしく面白いこちらの作品。

ちょっとした小話から、直家を小さいときから支えてくれた方々、そして望まないながらも武門の道に進む姿。
そこで柿谷殿らの手助けを借りて掴んだ、城主への道。
そのころから直家を支えた、とても厚い絆で結ばれた家臣たち。

それらの思いが、あの時代を制した信長や秀吉とどのように相対するのか。
といった展開になるわけです。
いくら物語であっても、このあたりの歴史を大きく曲げることはないわけです。
だからこそ、読んでいて力も入ってくるわけで。

このあたりの展開は、まさにAIやEVや半導体などで、世界から攻め込まれようとしている今の日本と重ねて考えてしまいます。

そんな感じで最後まで手に汗握ったこちらの作品。
読むことができて良かったです。


以上です。