美歌の恋に協力するため(?)、半ば無理矢理参加することとなった学園祭。
キャンパスは日に日に慌しい雰囲気に包まれ、正門や中庭を色とりどりの看板が飾っています。
もともと正式なサークルのメンバーでない私は当日の手伝いをお願いされていましたが、本番まで2週間となった昼休み美加と一緒に部室を訪れました。
使用するコスチュームが届いたから一度試着してほしいということです。部室はダンボールやガムテープが散らばっていて、足の踏み場もありません。
メイドさんといえば映画やドラマに出てくるような、黒いワンピースに真っ白なエプロンの印象が強いです。
しかし奥から衣装を手に近付いてくる美歌を見て正直、泣きたくなってしまいました。
「はい、詩音。これ着てみて?サイズ少し大きいかな...私は外にいるから準備整ったら呼んでね」
何事もないかのように手渡され呆然とする私を置き去りにして、さっさと出て行っていこうとします。
「ちょっと、美歌!これ何でピンク色なの?普通メイドさんていえば黒じゃない」
先日の一件で言い争っても勝てないことは分かっていますが、抗議せずにはいられません。
「最近はピンクとかブルーとはカワイイメイド服が増えてるんだよ。ほら、早くしないと昼休み終わっちゃうよ」
多分、いえ絶対に私がこれ以上何か言っても無駄です。ため息をつきながらコスチュームに袖を通しました。
サイズはぴったりなのですが、袖と胸元についているリボンが気になります。
「詩音、よく似合ってるよ~!後このレースのカチューシャを付けてね」
部室に鏡がないため自分では見られないのですが、できることなら一生見たくないと思ってしまいました。
その日の夜、夕食の片付けをしながら桜井先生にどう話そうか考えていたらタイミング良く電話が鳴っています。
あわてて手を拭きながら液晶画面を確認すると先生の名前が。テレパシーが通じたようでびっくりです。
「もしもし、響一さん?」
ようやく私も名前を呼ぶことに慣れた気がします。
「もしもし、詩音。ヴァイオリンの練習してた?」
10月に入って委員会や会議が続いた先生は忙しそうでしたが、そろそろ落ち着いたでしょうか。
「ううん、荒いものしてたの。響一さんは帰って来たばかり?」
先生から聞いて初めて知ったのですが、長い会議になると4時間以上かかることも珍しくないそうです。
「今日は委員会に提出する書類が溜まってて、ひたすら机に向かってたよ。学園祭が始まってくれると授業がないから少し休めるんだけどな」
私よりも早く先生から学園祭の話題がでました。
「疲れてるみたいだけど大丈夫?あまり無理しないでね。もう、ご飯は食べた?」
こないだ忙しいと昼食が取れないと聞いたので心配になります。
「大丈夫だよ、夕食も済ませてきたしね。詩音こそ学園祭の準備が忙しいんじゃないのか?」
少し前に美歌のサークルが主催する模擬店を手伝うとは話したのですが、そのときは時間がなく詳しい話ができませんでした。
「手伝うことになったのは当日だけなの。カフェをやるからウェイトレスを頼まれててね」
昼休みに試着したコスチュームが頭に浮かんできます。
「そうか、人数の少ない団体は手が足りなくて一日中店番したなんていう話を聞くよ。ほどほどにお客さんが来るといいね。毎年ジャズ喫茶とか色々あるけど、普通のカフェなの?」
いいえ、全く普通ではありません。しかしこのまま黙っているわけにもいかず、意を決して口を開きました。
「.......あのね、カフェはカフェなんだけどメイド&執事カフェなんだって。一応、音大だから生演奏なんかもやるらしいんだけど」
どうやら1年生は全員ウェイトレスかウェイター、上級生が生演奏を担当するらしいのです。
「メイド&執事カフェ...?」
電話の向こうで先生が沈黙しています。
「うん、私ウェイトレスはいやだって断ったんだけど。美歌にどうしても人手が足りないから助けてほしいって...」
経緯を手短に話す間も先生は何も言いません。どれくらい時間が経ったのでしょうか、唐突に先生が話し始めました。
「.....きっとお客さんがたくさん来るだろうな。行列ができるかもしれないよ」
そんなに来るとは思えません。できれば人が来なくてひまだから手伝いが要らなくなったと言われたいです。
「どうだろう?他にも色々な模擬店あるし、私はあんまり忙しくない方がいいなぁ」
しかし先生は断言します。
「絶対に大繁盛するよ。それにしても実行委員会がよく許可したな。大変だろうけど、友達のためにがんばって」
最後に先生は学園祭中も研究室で仕事をする予定だと聞いて電話を切りました。
授業がないこの期間を利用してデスクワークを片付ける先生は多いそうです。
窓を開けると頬を冷たい風が掠めます。澄んだ空に輝く星を見つつ、こうなったら美歌には海原先輩との恋を成就してもらわなければと決意する私でした。