あるべき姿 | 学生団体S.A.L. Official blog

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日はまだ昇らない。



まだ薄暗い聖河に、男が頭の先まで一息で浸かる。



僕ははっと息を呑む。





ヴァラナシの朝は早い。







この街は、ガンガーとともにある。



今も昔も。



悠久の歴史を刻む石造りの街並み。



迷路のような路地を本能のまま進めば、旅人は必ず聖河へと至る。



すべての不浄を清める河。



より善い転生へと導く河。



そこでは、生と死が混在する。








夕刻の*メイン・ガート。



遠くを仰ぎ見れば、数人の*バラモンが横に並んで、一心不乱に祈りの舞踊を捧げている。



ヒンドゥー教の礼拝儀礼、プージャーだ。




一面の闇の中、彼らの持つ松明の炎が全身の装飾品で煌びやかに反射する。



身体の動きに合わせて、装飾品がこすれぶつかり合い、乾いた金属音が鳴り響く。



辺り一面に荘厳な雰囲気が漂う。






刹那、眩い光にはっとした。



僕のすぐ後ろで、西洋人がCanonの一眼レフを構えていた。



気付けば、あちこちでフラッシュがたかれている。





ヒンドゥー教の聖地であると同時に、一大観光地でもあるガンガー。



プージャーを目当てに、白人を載せた舟がひしめき合う。



その上を、ここぞとばかりに花売りの少年少女が渡り歩く。







悠久の歴史が、観光資源として使われていた。







そこに住む人々の瞳に、僕たちはどう映るのか。







文化を踏みにじる邪悪な侵略者か、金を落とすだけのただのカモか。







そこには人々の暮らしがあり、数多に彩られた人生がある。



観光客相手の商売で生計を立てる者も多い。



路地を歩けば、どこで覚えたかも知らない巧みな日本語で呼び掛けられる。







この感情はなんだ。







そこにあるべきものが失われてしまいそうで、悲しかった。




我が物顔で歩く外国人を見て、腹立たしかった。




でも僕もその内の一人に過ぎないんだと思えて、やるせなかった。







ないものねだりが人間の性。



部外者ゆえの、浅はかで無責任な欲望ともいえるかもしれない。



既に成り立ってしまって、うまく回っているからこそ、虚しさはさらに募る。










通信、輸送技術の飛躍的な進歩により、世界の時間的、心理的距離は大いに縮まった。



その動きは、今後も加速化してゆくだろう。



その中で、僕たちは常に考えていかなければならない。





僕たちの、あるべき姿を。










*メイン・ガート
ヴァラナシ最大のガート、ダシャーシュワメード・ガート。
ガートとは、岸辺から階段になって河水に没している堤のことで、沐浴する場として使われている。
中にはヒンドゥー教徒の火葬場になっているものもある。


*バラモン
ヒンドゥー教の聖職者。
インドのカーストにおいて最上位層を占める。



【文責:マネジメント局2年 新井達也】