インドでレイコさんという女性に出会った。
彼女は、インドに住む日本人。
40年前ほどに横浜の教会で運命的に出会ったインド人の男性と恋に落ち、結婚、渡印したそうだ。
当時の時代背景を考えると、国際結婚すら珍しく、並大抵の決心ではなかったはずである。
しかし、レイコさんの決意は固かった。
最初は大変だっただろうが、今ではすっかりインド文化に沿った暮らしに馴染んでいる。
そして、後悔していない、と笑顔で言った。
レイコさんはインドの心と日本の心のふたつを持っていて、どちらも好きだし、理解できるのだと言う。
インドも好きだし、日本も好き。自分みたいな国際結婚がきっかけとなって仲の悪い国同士が理解しあえるようになればいいと思う、と言う。
自分はその第一歩としての役目を果たしたのではないかとレイコさんは振り返る。
そんなレイコさんが振舞ってくれためずらしいインド料理を頂きながら、次のようなお話を聞かせてもらった。
ある日レイコさんが急ぎで拾ったオートリクシャーに乗っていたときのことである。
とにかく急いでいたレイコさんは運転手を急がせていた。
しかし、運転手は突然リクシャーの運転をやめてしまったのである。
当然、リクシャーは止まる。
どうしたことか、と思っているレイコさんを尻目に運転手はリクシャーから降り、反対側の道路わきに駆け寄った。
そこには、倒れて痙攣を起こしている人。
運転中にそれを見つけた運転手は放っておけなかったのである。
運転手は介抱し、痙攣が治まるとまた運転に戻ったという。
急いでいたレイコさんは当初憤慨したものの、あとから考えてインド人の優しさに心打たれたそうだ。
それに比べて、日本はどうだろうか。
無論仕事をなげうって、とは言わないが、道で困っている人がいるときにどれだけの人が声をかけるだろうか。知らん振りして素通りしてしまう人が多いのではないだろうか。
「人は人、自分は自分。」というある意味では楽だけど寂しい言葉。
レイコさんのお話を聞いて私は社会の変化の中で日本人が忘れてきた何かに気付かされた気がした。
外国に行くと、見えなかった日本に気が付く。それはいい意味でも悪い意味でも。
インドのいいところを見習って、もっと日本が誇れる国になっていけたら良いし、日本のいいところももっと世界に知ってもらいたいと思う。
インドの人々の笑顔を思い出しながらそう思った。
文責:深瀬 詩織