特別な経験をしました。
日本では知ることのできない、まざまざとした現実が僕の目の前にありました。
屋根のない天井。
ボロボロのTシャツ。
屋外垂れ流しのトイレ。
家族を養う為の低賃労働。
そんな現実です。
プリーでの出来事。
一人で、街中を出歩ける機会がありました。
目的もなくブラブラとしていましたが、知らない街並みに心が浮き上がるようで飽きなどきません。
さらに、滅多に見かけない日本人が珍しいのか、道行く人道行く人、皆話し掛けてき、それに対し、片言の英語で返すのが、これまた楽しく、心踊りました。
そんな中、一人のインド人が話し掛けてきました。
些細な挨拶から徐々に話が盛り上がり、有難いことに僕を自宅に連れて行ってくれることになりました。
少しばかり歩き、家に到着。
彼の母親と兄に挨拶をし、中に案内されました。
驚きました。
中に入って目にしたのは、半分屋根のない天井と上半分を失った壁。
穴の空いた壁の向こう側には、無造作に生えた雑草と木々。
あたかも廃墟のような自宅。
どうやら水害にやられたそうです。
父親は既に鬼籍に入り、母親は年老い、二人の兄は仕事に就けず、妹は嫁いでしまった。
そんな家族の中で、唯一収入があるのが、僕を招待してくれた彼。
収入があるといっても、一定の収入が保証されているわけではなく、雀の涙ほどのちっぽけな額。
そんなわずかな収入で家族を養う為、家を修繕する金などなく、日々の生活で手一杯。
客観的に、且つ、日本人視点から見たら、不幸な生活です。
しかし、彼はこう言いました。
「君は私のことが不幸に見えるかも知れないね。
だけどね。私は幸せなんだよ。
家と家族があるのだから。」と。
本当に幸せそうな顔で彼は言いました。
幸せを口一杯に頬張り、じんわりとかみしめているような顔で。
僕たち日本人にあんな幸せそうな顔ができるでしょうか。
例えて言うならば、日本人はチルチルとミチルなのかもしれません。
身近な幸せに気づけず、夢の中を幸せを見つける為、彷徨い続ける。
身近な幸せの大切さ。
そんなことを教えてくれた、貴重な体験でした。
最後に。
彼には一つ夢があるそうです。
それは、
いつか日本に行き日本の地面に口付けをすること。
彼が日本を訪れるいつかその時、我々日本人が幸せ一杯の笑顔で彼を迎えられますように。