【この熱烈大陸は、全てノンフィクションです。ブログを書いている本人が実際に体験、経験したお話を物語として記載していますが、登場する人物、個人名などは実際のものとは関係ありませんのでご了承下さい】
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第1章【ラグビーとの出会い】
PART-4「大人の冷たさと優しさ。そして最終的に残るものとは一体?!」
大海と林が、生徒部の先生に呼び出されてから、30分後。
生徒部の先生が2人、再度グラウンドにやってきた。
ラグビー部が練習する姿を見ながら、なにやらコソコソと会話をしているみたいだ。
生徒部先生「ごめんやけど、1回練習をストップしてくれるか?」
大島コーチ「はい、どうしましたか?!」
生徒部先生「いや、大島コーチには非常に申し訳ないんやけど、この紙に名前が書いてある生徒をこっちに呼んでほしいんや」
大島コーチ「あっ…はい!!お~い今から呼ばれたものは、こっち来てくれるか?淳二、達也、龍二、健也、あきら、それと…(他2名が呼ばれる)」
淳二「はい!!なんでしょうか?」
生徒部先生「いや分かってるやろ?!ちょっとこっち来てくれるか?」
達也「えっ?!分からないんですけど…。」
生徒部先生「もうええから、とりあえず付いてこい!!大島コーチごめんやで。ちょっとこの子ら借りるわ。」
大島コーチ「はい、どうぞどうぞ。」
淳二を含め、名前を呼ばれた部員は生徒部の先生についていく。
淳二「先生なんなん?本間に意味が分からへんねんけど…。」
生徒部先生「分かってるくせに、そんな口を聞くな!!」
淳二はその時、本当に何故呼ばれているのか、全く分からなかった。
他の呼ばれた部員達も同様だ。基本的に学校では、いつもふざけた事はしていたが、当日は特に問題になるような行動は誰一人していなかった。
ただ生徒部の先生に呼ばれていないラグビー部員達は少し勘付いていたのかもしれない。
淳二達は、普段入らないカウンセリングルームという、改装された教室につれていかれた。
その教室は、普段使用される事なく、月に1度、カウンセリングの先生が学校に来て、悩みを持った生徒の話を聞いてあげるという目的だけに使われる教室であった。
プライベートを重視するという事で、外からは一切見えない構造になっており、外に声が漏れないように、音楽室のような防音の壁になっていた。
生徒部先生「なんで呼ばれたか分かってるやろうけど、大海と林が全てを白状したぞ。」
淳二「すみません。本当に分かりません…。」
生徒部先生「この犯罪者グループが!!お前らが万引きしたこととか全てこっちは知ってるんやぞ!!」
衝撃だった。悪さをしている時は正直、無銭飲食などで、店員から逃げたりなどはしたが、ラグビー部では一度も捕まったものはいなかった。まず、大海と林がバレた理由が分からなかった。
また、悪さをする中で一つの絶対的な決まりがあった。
それは、【たとえ、自分だけが捕まったり、バレたりしても他の人間の名前は絶対に出さない事】
これは悪さをするグループ内での暗黙のルールであった。
教室に、大海と林はおらず、呼ばれた部員達の中では、「あいつら俺らの名前を出したんかな?」という空気が流れていた。
生徒部先生「もう話は後にするから、とりあえず配られたこの用紙に全員、記入していけ!!」
その用紙はというと、まず悪さをした内容、場所、時間、一緒に行った相手、日付を記入していくものだった。
用紙が配られてから、淳二はその用紙に自分が一人で行なった内容を記入していった。
横にいた達也も同様で、一緒に行った相手の欄は空欄になっていた。
その用紙を記入しながら、淳二は右に座っている達也とは逆の左に座っていた、あきらの方を横目で見た。
あきらは、いつも淳二達の悪さを後ろで見ていたタイプで、自ら悪い事をしたことは一度もなかった。
あきらの目からは大粒の涙が流れていた。淳二達の悪事を止められなかった事と、止める勇気がなかった事、そしてこのような事件に発展した事に対して、悔しい気持ちと、悲しい気持ちが混ざっていたのだと思う。
あきらの用紙には、一緒に行った相手の欄に、淳二や達也の名前がぎっしりと書かれていた。
あきらの用紙を横目で見ながら、何もしていないあきらに迷惑はかけたくないと、淳二はあきらが自分の名前を記入している内容だけを自分の用紙にも書いていった。
用紙は1枚で10個の内容が書けるようになっており、主体で行動していた、淳二や龍二や達也の用紙は一人5枚以上になっていた。
生徒部先生「おい、書けたか?書けたら、先生の所に持ってこい」
すると教室の扉が開き、学年主任の先生が現れた。
学年主任「お前らやってもうたな。これでお前らは全てを失うぞ。今日でお前らは人間のクズになるんや。これからラグビー部を応援してくれる人なんてゼロやろうな。」
学年主任の言葉は、その通りである。しかし、いつも偉そうな事ばかりだけを言い、何かあれば全てを理論的に話すだけの、学年主任に対して、部員達は耳をかたむけようとしなかった。
それから生徒部の先生と学年主任の説教は1時間以上続いた。
この時点で、時計は17時を回っていた。
学年主任「えー後、お前らの親を全員呼んで、各クラスの教室に来てもらっているから、自分のクラスに今から行くように。後は、担任の先生におまかせいたします。」
部員達は、各担任に自分のクラスまで連れていかれた。淳二のクラスにはラグビー部が淳二、達也、龍二を含めた4名がいた。
教室につくと、そこには机が何台か繋げられており、各部員の母親が黒板に向かって横並びに座っていた。当然、淳二の母親もその中にいた。
大川先生「今日はこんな時間に来て頂いてすみません。ほなあんたらもここに座りなさい。」
淳二「あっ…はい…。」
大川先生「内容は先程、お話した通りです。今回は、こういった事になり、担任の私が気付けなかった事を申し訳なく思っています。」
龍二母「いや、先生は何も悪くないんです。こんな子供に育てた親が悪いんです。」
大川先生「いえ、そんな事はありません。先程お話した内容では、この子達は普段悪いことしかしていないように思われるかもしれません。でもそれは違います。まず達也君に関しては、体が大きいことから弱いものイジメが嫌いで…」
淳二達は黙って聞いていたが、大川先生が話す内容に驚いていた。
普段は淳二達に対して、「あんたはアホか!」と怒っている先生であった為、クラスに戻っても親の前で、また説教をされるのかと思い、少しダルさを感じていた。
しかし大川先生の話す内容というのは、全く別の内容であった。
淳二達の悪い部分は一切話さなかったことに対して、まず驚いたが、淳二達の良い部分だけをゆっくりと母親達に話している大川先生の姿と優しさに、淳二達は涙をこぼしそうになっていた。
大川先生の話を聞いて、涙を流す母親の姿を見て、淳二は申し訳ないという気持ちと、全ての信頼を裏切ったという気持ちでいっぱいになった。
実際に生徒部の先生や、学年主任からも「応援してくれている人達の全ての信頼を裏切った」という言葉は何度も言われた。
その後、大川先生の話が終わり、親たちは先に自宅へと帰っていった。
残された4人に対して、大川先生は怒ることもなく、ゆっくりと話し始めた。
大川先生「今回の件で、確かにみんなの信頼をあんた達は裏切ったけど、これからやり直せば良いと先生は思うんや。これで学校で暗くなる事はないし、これからも元気いっぱい学校には通って、ラグビー部としても一から頑張りなさい」
それからも大川先生は、4人に励ましの言葉を送り、帰宅させた。
帰り道、4人は肩を落としながらも、ラグビー部のことが気になっていた。
淳二「はーこの状況では帰りづらいな。親父にころされるで。」
龍二「確かに。親父に言わなアカンのはツラいな。」
淳二「それより、明日は土曜日やし部活が8時からやけど行くべきなんかな?」
達也「いやどうやろ?とりあえず、行かなアカンやろな」
淳二「せやな。とりあえずは8時に行こか…。ただ一時活動休止とかになるんやろな。」
達也「まぁええんとちゃう?練習もなくなるんやったら楽やろ」
淳二「でも他のラグビー部のやつらには申し訳ないな…。俺らだけ、処分されたらええねんけど。」
達也「まぁ明日行ってみてどうなるかやろな…。」
「おーい」
後ろから淳二達、4名を呼ぶ声が聞こえた。
林と大海だった。
淳二達は林と大海から何故今回バレたのかを聞き出した。
内容はこうだ。
淳二達と一緒に悪さをしていた他校の生徒が数名、警察に捕まり、そこで林と大海の名前が出てきて、警察から学校の先生に連絡が入ったことがきっかけだったとの事。
また、林と大海は生徒部の先生に「お前ら以外は全員喋った」と悪く言えばカマをかけられて、淳二達も呼ばれることになったようだ。
そんな話を聞きながら、淳二は自宅に着いた。
淳二「ただいま」
陽子(淳二母)「おかえり。やっぱりあんたが言うてた事は全部嘘やったんやな…。」
淳二「ごめん」
陽子「もうお母さんはあんたを信用することできひんわ。話す内容が全部、嘘に聞こえる。」
淳二「そうやと思う。本間にごめん。」
陽子「もうお母さんはええから、お父さんに報告しなさい。今、お風呂入ってるから。お母さんからは何も言ってません。」
淳二「分かった。とりあえず言うわ。」
淳二はお風呂場に向かった。
コンコン(お風呂場のドアを叩く音)
淳二父「おー?!」
淳二はドア越しに父親に話しかける。
淳二「今大丈夫?」
淳二父「なんや?なんかしたんか?!」
淳二「ごめん。今日万引きとか色々な悪さをしてた事が、学校にバレて、お母さんも呼び出された。本間にごめん。」
淳二父「そうかー。俺も、昔はそんなことしてた時代あったな。まぁ次はないと思っとけよ。俺からはこれだけや。」
淳二の父親は今回の件に関しては、それしか言わなかった。
正直、淳二はホッとしていた。しかし、ラグビー部に入部する頃、裕福な家庭ではない中、淳二に対して、ラグビー用品をプレゼントしてくれた父親の姿や、普段は何も言わないが影で応援してくれている父親の気持ちを考えると、とてもツラく、悲しい気持ちになっていた。
淳二はそのまま夕飯を食べることなく、2階の自分の部屋に上がり、色々なことを考えながら一夜を過ごした。
そして次の日。この日は土曜日である。
いつも通り、健也とあきらが淳二を迎えに来た。
健也、あきら「おはよう…。」
淳二「おはよう…。」
3人とも、いつもの元気はなかった。
学校までの約10分の道のりは特に会話もなく、長く暗い時間が流れていた。
淳二達が学校に着いた時には、ラグビー部員のほぼ全員がラグビー部の部室に集まっていた。
達也「おはよう。」
淳二「おはようさん。」
達也「昨日どやった?」
淳二「いや特に何もなかったけど、寝れへんかったわ」
達也「俺は親父に殺されかけたで。」
淳二「本間か…。俺は何もされてないけど、ある意味なんかツラかったわ…。ってか大島コーチ来てるん?」
達也「俺は今来た所やし、知らんで」
龍二「もう大島コーチの車も梅田先生の車も止まってるし、来てはるで」
淳二「そうなんや。どうなるんやろな…。」
龍二「殺されるやろな」
そんな会話をしていると大島コーチと梅田先生が部室に向かってきた。
梅田先生「おはよう。ちょっとこっちに集合しろ?」
部員「はい…。」
梅田先生「昨日の件は全部聞いた。お前らは何をやったか分かってるか?おう?!淳二分かってるんか?」
淳二「はい、分かってます…」
淳二が梅田先生に返事をした瞬間、梅田先生が一歩、二歩とこっちに近づいてきて、思いっきり手を振りかぶり、淳二の頬をビンタした。
梅田先生「お前本間に分かってるんか?」
バシッ!!
梅田先生「どんだけ信頼を裏切ったんか、分かってるんか?おう?!達也」
バシッ!!(隣にいた達也がビンタされる)
その後、梅田先生は「信頼を裏切ったんやぞ」という言葉を繰り返しながら、何度も何度も、問題を起こした部員達を殴った。
梅田先生「お前らにラグビーという先生の大好きなスポーツを教えたくないわ!!ラグビーを本当に愛してる人達に申し訳ないわ」
そういって梅田先生は職員室に戻っていた。
グラウンドに取り残された部員達に大島コーチが話し出した。
大島コーチ「おい、お前らグラウンドに出て、円になれ。」
部員達はグラウンドの中心で円になった。円になった部員達に大島コーチが、再度話し出した。
大島コーチ「おう?!龍二、お前らな、周りからなんて言われてるか知ってるか?」
龍二「分かりません…。」
大島コーチ「せやろな分からんやろな!!」
バシッ!!(龍二がビンタされる)
大島コーチ「お前らはな、周りからクズみたいに言われてるんや」 バシッ!!バシッ!!
「あんな小さい子達が京都で優勝することなんてできひん。あんな悪い子達がそんな事できひんって言われてるんや。」 バシッバシッ!!バシッ!!
「でもな、俺はお前らを信じてるんや!!分かるか?裏切られた気持ち!!」
バシッ!!
「それでも俺はお前らを信じてるや。俺はアホなんか?こんなお前らが大好きな俺はアホなんか?!」
バシッ!!バシッ!!
「なぁ龍二、教えてくれや。俺はアホなんか?お前らが大好きな俺はアホなんか?」
バシッ!!
次は隣にいた淳二に大島コーチが話し出す。
「なぁ淳二、教えてくれや…。大学行きながら、遊びもせずに毎日毎日練習来て、友達が少なくなってる俺はアホなんか?!」
バシッバシッ!!
ドスッ!!(大島コーチの蹴りが淳二のみぞおちに入る)
淳二「いえ、アホじゃないです…。」
大島コーチ「いやアホやろ?俺が同期のラグビー部や仲間に、絶対京都で優勝させるって言うてるんは、アホなんか?」
バシッ!!バシッ!!
淳二「いえ、違います…。」
大島コーチが怒鳴りながら話す中、淳二の目からは涙が流れ出した。
大島コーチ「俺はお前らが大好きなんや。お前らが好きで好きでたまらへんのや!!」バシッ!!バシッ!!
「周りがどんだけお前らに期待していなくても、俺はお前らが大好きなんや」バシッ!!
「この気持ちは学年主任のおっさんにも、誰にも分からへん」バシッバシッ!!
「お前らに対する思いを、そんな簡単に分かられてたまるか!!」バシッ!!
大島コーチは淳二を何度も何度も殴った。約20分以上殴られたのでないであろうか?
顔は腫れ上がり、殴られる度に口からは大量の血が噴出していた。
淳二の目から出ていた涙は、この時には滝のように流れ出していた。
痛いからでもない、反抗した気持ちからでもない、ただただ、大島コーチの思いが胸に突き刺さっていたのだ。
こんな事を犯した自分達を、見捨てるのではなく、あきれるのではなく、本気で殴ってくれる大島コーチの思いに心がすごく痛かったのだ。
淳二は殴られている間、色々なことを考えていた。
こんな熱いコーチに何故反抗していたのだろう?
こんなに自分達を思ってくれる大人なんて今までいたのであろうか?
コーチが一番ツラいやろな、苦しいやろな。
と一つ一つ考える度に、大粒の涙があふれ出した。
本気で殴ってくれる大島コーチから目を離してはいけないと思い、淳二はかすかに開く目を大島コーチに向けた。
目を向けた先にいた大島コーチの目からは淳二達よりも大粒の涙が流れ出していた。
真っ赤な手の平と拳が、何度も淳二の目の前を通りすぎた。
淳二は殴られるより、殴る方が、痛くてツラい時あるという事を初めて知った。
淳二は大きな声で叫んだ。
「すみません!!」
この言葉しか言えなった。
その後も淳二は大島コーチの言葉に何度も「すみません」と子供のように泣きじゃくりながら、言った。
そこから、大島コーチは淳二と同様に他の人間に対しても同じような言葉をかけて何度も何度も殴った。
約2時間ぐらい殴っていたのではないであろうか?
全員に思いを伝えた大島コーチは、部員達に対して、
大島コーチ「俺からはもうなんもない!!お前らでどうするか考えろ。」
そう残して、梅田先生と同様に職員室へ戻っていった。
職員室に戻る、大島先生の後ろ姿は、肩が上下に揺れており、泣いているのが分かった。
大島コーチが職員室に向かってから、淳二達は崩れるように地面に倒れ込み、それぞれが、色々な思いを感じながら、会話を交わすこともなく大粒の涙を5分以上流し続けた。
それから、今回の件に関係のない部員達に対して、何度も何度も淳二達は土下座をして謝った。
しかし、謝られている部員達からは発せられる言葉は全て、温かい言葉だけだった。
「一緒にラグビー頑張ろう」「止められんでごめんやった。」「もう一度一緒に頑張ろうや」
こんな事件を起こしても、こんな言葉をかけてくれる部員達に淳二は初めて本当の仲間の優しさを知った。
これだけ涙を流したのは初めてだったのではないであろうか?
またこれだけ自分の気持ちをさらけ出しながら泣いたのも初めてではないであろうか?
淳二の服は血で真っ赤に染まっていた。
また後日分かったことなのだが、淳二の片耳はこの時、鼓膜が破れており、もう片方も破れかけで、ほぼ何も声が聞こえていない状態だった。
少し落ち着きを取り戻した部員達は、もう一度同じようにグラウンドで円になり、話し合いをした。
話し合いの結果はすぐに出た。生活面を明日から見直して、もう一度、一から再出発すること。
話し合った結果を報告しに主将が職員室に向かった。
主将が職員室に向かってから、約10分ぐらいであろうか、梅田先生と大島コーチがグラウンドに向かって、歩いてきた。
梅田先生「お前たちの話した内容は全て聞いた。でもな一度失った信頼を取り戻すことは簡単じゃないぞ。」
部員「はい。」
梅田先生「お前たちが卒業するまで、信頼を取り戻すにはかかるかもしれん。もしかしたら、卒業しても信頼は取り戻せてへんかもしれんねんぞ。それやったら今まで通り過ごしたらどうなんや?」
達也「いえ、もう一度信頼されるように必死になって頑張りたいです。」
梅田先生「言葉では簡単や。でも行動に移すことは大変やし、継続していくことも必要やぞ。できるか?」
淳二「はい。必死で頑張ります。」
梅田先生「そうか。あと、お前らは明日から頑張るって言ってたらしいけど、明日からじゃ遅いんや。今から変わらな、あかんのや」
部員「はい!!」
梅田先生「よっしゃお前らの気持ちはよく分かった。ほな全員スパイク履いて、もう一回グラウンドに出てこい」
部員「はい!」
部員達は今からどんな練習が始まるか予想できていた。
部員達はスパイクを履き、少し多めの水分を口へ流し込み、再度グラウンドへ出て行った。
練習は予想を超える過酷なメニューとなっていた。
しかし、誰一人、離脱することもなく、何度嘔吐しても、すぐにグラウンドに戻り練習を続けた。
グラウンドには、梅田先生と大島コーチの「信頼を取り戻したくないんか?!」という声と、部員達の泣きじゃくる声が響き渡っていた。
部員達は今まで、自分達に繋がっていた重い鎖を取り払うかのように、必死になって走り続けた。
そんな中、梅田先生の声がグラウンドに響き渡った。
「ラスト3回!!」
その声が響き渡った時には、まともに走れる部員は一人もおらず、全員が足を引きずった走り方をしていた。
そして梅田先生から集合がかかる。
梅田先生「悲しいか?悔しいか?ツラいか?しんどいか?でもなお前達に信頼を裏切られた人たちはもっと悲しいし、悔しいし、ツラいし、しんどいんやぞ」
部員「はい…」
梅田先生「信頼はすぐに取り戻すことなんて、絶対できひん。でもそれでも取り戻したというお前らの気持ちに先生は協力するだけや。」
部員「はい」
梅田先生「大島。なんか一言あるか?」
大島コーチ「いいえ何もありません。僕たちはこの子達の一生味方です」
大島コーチがこの言葉を発した瞬間、部員達はまた泣き出した。
淳二達の人生にとっての、大きな分岐点が終わった。
腫れ上がった顔と、血で染まった服を着たまま、玄関先で、倒れこんで寝ている淳二を母親の陽子が見つけ、冷たく濡らしたタオルで、顔や手についた血を優しく、拭った。
淳二は途中で目を覚ましたが、そのまま寝たふりをしていた。
しかし、そんな母親の優しさに、淳二の目からは涙がこぼれた。
陽子「あんた泣いてるんか?(笑)」
淳二「泣いてない…。」
翌日からラグビー部を見る目は、2つに分かれた。
こんな事件の後でも、「頑張れ」と応援して下さる温かい先生もいたが、今回の事件を待っていたかのように、淳二達が反抗していた先生を筆頭に、多くの先生がクラスの中で淳二達をバカ扱いするようになった。
アホという事で、無意味に廊下に立たされたり、ラグビー部員達にとって、過酷な環境が待っていた。
生徒も2つに分かれた。「頑張って」と声をかけてくれる生徒もいれば、多くの生徒が練習に行く淳二達を白い目で見て、コソコソと何かを話すようになった。
それに対して、淳二達は、先生達には一切反抗せずに頭を下げ続け、生徒達にも何も言わず黙って、授業が終われば、真っ先にグラウンドに向かっていった。
淳二達にとっては、そんな事はどうでも良かった。
「京都で優勝し、次の近畿大会も優勝し、梅田先生と大島コーチを胴上げし、みんなの信頼を取り戻す」
この目標しか頭になかったのだ。
グラウンドの中でも2年のサッカー部員に、わざとボールをぶつけられたりしたが、何も言わず練習をひらすら続けた。事件翌日から、長かった髪を坊主にしてきた大島コーチも何も言わずに指導を続けた。
ラグビー部員はあの日の事件から、より結束が強くなり、より仲間意識が強くなっていたのだ。
そんなツラい環境が続く中、淳二達にとって初の公式戦が近づいてきた。
2年生の部員達がいない淳二達にとっては、1年生だけでのぞむ初公式戦。
淳二達に勝利の女神は舞い降りるのか?!
第1章【ラグビーとの出会い 完結】
【次回】
第2章【ラグビー部の青年達よ、近畿の王者となれ!!】
PART-1 初公式戦。1年生の実力はいかに?!これをきっかけに、固い結束に怪しい空気が?!