引っ越して、家賃はまるまる2倍になった。

部屋数も増えたので、光熱費だって跳ね上がるに違いない。


息子に生活費の援助をお願いしたとはいえ、彼に頼るのは非常に不安定だった。

なんせ息子と会話もなければ、彼の性格自体偏屈だし、そもそも繊細くんなのでいつバイトを辞めてもおかしくないと思っていたから。

そもそも、不安要素を固定部分に考慮することが、魔女は苦手だった。


ひと月やってみて、結構な残業時間ありきではあるが、自分の給料だけで生活できることがわかった。


なので、息子がもしバイトを生活費を払わなくなっても生活自体は安心できるようになったが、それとは別に彼が生活費をなかなか出さないと不安を感じるようになった。


生活費を多少なりとも出すと言うことは、彼にとっては自分も生活を担っているという自負になるに違いないと考えていた魔女は、それがなくなってまた彼がただのすねかじりになってしまうのを恐れたのだ。

楽な方へ転がってしまうのではないかと。


生きているだけでいい。

存在するだけでいい。

とはいえ。

母である魔女の夢はやはり、彼が自分の収入で生活費全てをやりくりして一人で生きていけるようになってほしいのだ。

この母を捨てて、出ていけるようになってほしいのだ。

やはり、前へ進んでほしいのだ。


この1月で、彼が生活費を負担し始めてからまる1年がたった。

12回、彼は少し遅れながらもちゃんと払い続けた。

それは誉めて然るべきだろう。



三歩進んで二歩下がる


と言う歌詞があるが、下がっている姿は正直みたくない。

それだけで、母は堕ちる。

それでも進んでいってくれたらいいと、今は思う。