(翔)



甲斐さんの背中を追いかけながらも、俺はこっそり腕の中にいるチビを構ってた。



「ぴゃ♪」
「ふふっ…」



俺の指を甘噛みしたり鳴き声をあげたりしてずっと元気に動いてるチビ。知らず知らずに笑いが溢れて、久しぶりに俺の顔が緩んでる気がする。



「元気いっぱいだな、チビ」
「うん♪」
「……え?」



チビに声をかけながら撫でていたら、不意にチビが返事をした……今…しゃべった?

キョトンとした顔のチビは、何事もなかったかのように無邪気に俺の手にすり寄って楽しそうにしてるから、多分気のせい?

たまたま鳴き声がそう聞こえただけかって気を取り直して、俺は再びチビとワチャワチャ戯れてた。

その様子を、歩きながらも甲斐さんが見ていたのには気付いてなかったけど、とにかく俺はチビに夢中だった。



「………ありがとう櫻井くん。シロンとチビは店に連れていくから」
「あ…分かりました……」



チビと遊ぶのに夢中すぎて、甲斐さんに声をかけられたことでやっと俺はカフェに着いてたって気付いた。



「みゃあ~♪んなぁお♡」
「……じゃあな、チビ」
「みゃぁ~あせる



甲斐さんにチビを手渡そうとしてチビに声をかけたら、機嫌が良かったチビは急にしょぼんと耳を伏せて俺の服に爪をたててしがみついてきた。

チビって言葉を理解してんのかなって言いたくなる反応に、甲斐さんが小さくため息をついていた。



「みゃ。みゃみゃ」
「ぴぃ~あせる
「………櫻井くん、まだ時間が大丈夫ならもう少しチビの相手してやってくれるか?カフェで何か出すから。代金は俺が払う」



母猫がチビを叱るみたいに鳴くとチビが泣いてて、甲斐さんはそんなチビの様子に仕方がないなって顔で俺にそう言った。

感情豊かなチビが可愛いって思ってるし、この温もりに癒されてる自覚があるから俺も離れがたいし、俺は甲斐さんの提案に小さく頷いた。



「あ、でもカフェに動物連れていっていいんですか?」
「構わない。チビの父親が時々看板猫してるから。今日も居るよ」



甲斐さんは少し笑顔を浮かべながらカフェのドアを開けてくれて、俺はおずおずとカフェの中に入っていった。