息をするのも忘れてその人物を凝視していたから智くんに怪しまれて、智くんも無言でそちらに視線を向けた。

すると、相手を見てびっくりした顔をした智くんはその人物に話しかけた。



「お?なんだよ。誰かと思えばカズとまーくんじゃねぇか」
「あれ?おーちゃん?」
「なによ、オジサン居たんですか?」
「来んなら連絡くれりゃあいいのに」
「しませんよ。今日はあくまでも、まーくんがオープンキャンパスに行きたいって言うから来ただけです」
「今年受験生だもん。俺」



智くんと楽しげに話す姿も、その声も、俺の知る雅紀そのまま。目が離せなくて、言葉を発する事も出来なくて、泣きそうになるのを我慢するしかなかった。



もう逢えるはずのない雅紀 ──



これは俺が見てる都合のいい夢なのか?

智くんと話すその人物ともう1人は、俺の存在には目もくれず話に花を咲かせていた。



「大学生になったらね?俺もひとり暮らししたいって思ってるんだ」
「自宅からでも通える大学でしょ?ワタシを放ったらかしにする気ですか?」
「ん、でもやっぱり おーちゃんみたいに家を出てひとりで生活したいなぁって」
「オジサンも まーくんもこんなに可愛いワタシを残してひとり暮らしを選ぶなんて!」
「んなこと言っても、カズはまだ高2だから来年も高校あるだろ?」



キャンキャンと智くんに絡むその人を優しく見守る2人の姿を見るのが辛い。

辛いのに目が離せない。

次第に呼吸が苦しくなって自分の目の前が真っ暗になる感覚がした。





………そのまま俺は気を失った。