改めて選んだ大学があるのは、実家から通うのは絶対無理な場所。

だから最初からひとり暮らしをするつもりでいて、そういう予定で話を進めて卒業と同時に引っ越しをした。

でも引っ越し当日に思いもしないトラブルに巻き込まれてしまった。



「……嘘だろ?」



引っ越し先は家具や家電が備え付けの学生向けアパートだから自分の荷物は少しだけ。引っ越し業者を頼む程じゃないって親父の車に荷物を積んでもらってやって来たのに、そのアパートが立ち入り禁止のテープに囲まれてた。



「どうかされましたか?」
「息子がこのアパートに引っ越す予定だったのですが……」
「あぁ、昨日このアパートで火事が起きましてね。住人の不注意でボヤだったのですが消防の現場検証があるようで、しばらく立ち入り禁止なんですよ」
「本当ですか?!」



呆然としてる俺に変わって親父が通りすがりの人に話を聞いてくれてた。

ここには親戚も知り合いも居ない。

むしろ俺が意識的に誰も知り合いの居ない場所を選んだから、突然のトラブルに頼れる先が無い。

でも大学の入学式は予定通り行われるし、授業もあるからどうにかしないと……いまさら入学辞退はしたくない。

親父と通りすがりのその人の会話はまだ続いてた。



「大家の方に連絡してみないと……でもこの時期は別の物件もすぐにはありませんよね……息子の大学の入学式もありますし……」
「それはお困りですね……こちらの大家さんは今てんてこ舞いされてますし、他の物件を持たれていないので代わりの部屋は用意出来ないかもしれませんね……」



絶望的な言葉を聞いた親父が天を仰いでいるのを見かねたのか、その人は親父にある提案をしてきた。



「もしよろしければ私の所有しているコーポにいらっしゃいませんか?幸い部屋に余裕がありますから」
「いいんですか?!」
「コーポと言っても小さな下宿みたいなものですが……管理人が常駐していますし、食事も朝夕はお出しします。大学生というなら御両親もそういう場所が安心でしょう」
「おい翔!こういう状況だから御厚意に甘えさせてもらわないか?」



俺が口を挟む余地は無かった。

その人に案内されて急遽決まった新たな俺の住まい。



『コーポ 青波』




親父に事務処理を任せて、俺は荷物を部屋に運び込んだ。