(翔)



ダイニングから逃げ出して、俺はそのまま庭に出て考え事をしてた。考え事をしたい時やリョウの目を盗んでひとりになりたい時によく登る大きな木があるからそこで。



何で……雅紀は『変身能力者』を知ろうとしてくれてるんだろうって。



『ケダモノ』があんな事をしたから拒否反応を起こしてもおかしくないのに、正しい知識を得ようとしてる姿が不思議で。

考えても雅紀の考えがどうなのかなんて俺に分かるはずもないけど、でも気になって。

でも考えているうちにやっぱり夜中に変身した時の負荷が大きすぎたのか、うとうと眠りかけた。

俺は変身することで受けるダメージがより大きいらしい。変身後はいつも体が重く感じて動けなくなる。おそらくこれを繰り返すと、最終的にはきっと……『短命』を発症するって。

少し絶望にも似た感情が沸き起こりかけた時だった。

リョウと一緒にいたはずの雅紀の気配と匂いがして、俺は周囲をうかがった。すると俺のいる木のすぐ下に雅紀が立ってた。



「………リョウと話してたんじゃないの?」
「え"?あ…翔さん?」



俺が声をかけると、雅紀は驚いた顔をしてこちらを見上げてきた。



「あの、話は終わったんだけど部屋に戻ろうとしたら迷って……」
「案内する」



この屋敷は油断すると迷子になりかねないのは俺も経験済み。だから慣れない雅紀が迷うのは当たり前。俺は素早く雅紀のもとへ飛び下りて歩きだした。



「あの、ありがとうござい……」
「……別に敬語じゃなくていい」
「へ?あ、でも……」



他人行儀に敬語を使われるのはやっぱり寂しくて、雅紀に敬語を使われる度にそう言ってしまう。これで何度目だろう。

なんて考えてたら雅紀が立ち止まってたから俺も立ち止まって雅紀を見た。

何か……雅紀の様子がおかしい?



「どうかした?」
「えっと……俺、どこかで翔さんに会ったことありますか?」
「………」



突然そんな事を言うから驚いて。

表情を取り繕う余裕もない俺を雅紀はじっと見てたのに、不意に俺の頬に手を伸ばして触れてきた。



「……翔さんからは涙のニオイがするね……翔さんは……何かを悲しんでる……?」
「 ?! 」
「あれ?えっと……なんで??俺?」



雅紀の口から出た言葉は、俺の予想もしないようなものだった。

驚きで言葉を失う俺の目の前で、自分の言葉に驚いてオロオロしてる雅紀……たとえ無意識でもそんな言葉をかけられたら、もう我慢出来なかった。