智と和也が移動して来たのは『ギャラリー 青波』と書かれた看板のある、こぢんまりとしながらも気品のある店だった。

智は迷わずその店のドアを開き、店の奥に声をかけた。



「モーさん、居る?」

「サトシくん早かったね。事情は聞いたけど本当に良いの?」

「良い。モーさんに面倒かけて悪いけどオイラやっぱ……あんな奴の所に大事な絵、置かせたくねぇ」



店の奥から出てきた人物は、智と顔馴染みの様で何やら連絡を受けていたらしい。

少し困った様な、でもふんわりと優しい笑みを浮かべて智に向き合い、智も自分のしっかりとした考えを伝えていた。



「サトシくんの絵は……うちしか取り扱ってないからサトシくんが嫌って言えば出さないよ。たとえそれが大きな会社でもね」

「松本ホールディングの新社屋に置くからって描いたアレ……金じゃねぇから。もっとまともなトコに貰ってやって欲しい」



………そう。智が松本ホールディングの社長秘書を知っていた理由。それは、智の絵を新社屋に設置すると打ち合わせをする際に顔を合わせていたから。

智は……画商が付く有名な画家でもあるから。

画家として3104(サトシ)と名乗る智。

世の中に出回る枚数は少なく、でも人気が高い智の絵は、どれだけ金を積んででも欲しがる者が多い。

今回も、新社屋の箔をつけるために大金を積んででも欲しがったのが松本ホールディングだった。



3104(サトシ)の絵は、美術館に収蔵される程貴重でファンが多いからね。絵の行く先は自分の納得出来る場所を選ぶ権利がサトシくんにはあるよ」

「モーさん……まじスマン」

「いいよ」



少しだけ智と似た雰囲気を持っているその人物は、にこやかに智と和也に笑いかけた。

そんな時、再び店のドアが開かれ誰かがやって来た。



「萌葱さんすみません。こちらに二宮さん……もう!急に呼び出すの止めて下さいよ!」

「遅いよ風間ぽん。さて、こっちも話進めるとしますかね」

「はいっ?!」



店に入るなり、和也がその風間ぽんと呼ばれた人物の腕を引き、店の中にあるテーブルへと移動させた。



「風間ぽん。『pine book』にある蒼井 空(あおいそら)の版権を全部引き揚げますからね」

「え !? ちょっと突然何??」

「『pine book』は松本ホールディング系列の出版社。そこにワタシの小説の版権は置いとけません」

「えぇ~~~~~?!」



驚く風間と平然とする和也。そしてそれを少し離れた場所で見ている智。




………そんな様子を、更に少し離れた場所で見守る姿があった。



「萌葱?これ……ひいくんに話しとくよ?」

「事情は先に話した通りです。全部緋色さんにお話し下さい」

「うちの COO、こういうの情け容赦しないタイプなんだよ?」

「詳細をそちらでも調べといて下さい。色々とあると思いますので」

「………人使い荒いなぁ~(笑)」




スラリとした長身の、スーツ姿がよく似合うその人物とこの店の店主は知り合いらしい。