前回の話はコチラ↑
「あ、すみません。良かったらお先にどうぞ」
「いえいえ、私も急ぎませんのでごゆっくりどうぞ」
巨大なナマハゲ像の前で写真を撮ろうとしていた。
どうにもピントが合わず、合ったと思えば小雨でレンズが濡れたりで手間取っていた。
だだっ広い平野には時折車が通るくらいだったのに、こういう時に限って順番待ちが出るのはどういう事なのか?
山口の角島や、大分の長者原みたいな有名スポットならまだ分かる。
が、こんな辺鄙な場所で、大型バイクと原付き乗りのオッサン二人が譲り合いをしてるのが恥ずかしいやら情けないやら…
いい加減、iPhoneに機種変しろっつーの。オレ。
エリマキトカゲ級に分かりやすい撮影スポット。そんな場所でスマホを構える自分が哀しい。
「いえいえ、何かカメラの調子が良くないみたいなんで先に撮っちゃって下さい」
「…そうですかぁ?何か申し訳ない」
歳は70を過ぎたくらいだろうか。
高そうなバイクには、昔流行ったハム無線みたいなアンテナが長く伸びており、装備だけでも百万くらいはかかっていそうなシロモノである。
こういう人達って、その多くはリタイア組だったりするんだよな。悠々自適、羨ましい話だ。
「大阪からですかぁ……凄いなぁ」
「いや、のんびり五日かけて来てるんで、言うほど大したことはありません。そちらは東京からですね」
「はい、これだけ長距離走るのは久しぶりなんでね~……まぁ、歳も歳ですし、体が動くうちに行けるとこ行っとこうかと思いまして…あ、ごめんなさい!写真どうぞ、良かったら撮りましょうか?」
オレにしちゃ珍しいライダーとの会話。
つか、こういう大型バイクの年配者って意外と紳士が多いんだわ。
もちろん中には面倒臭い爺さんもいるが、そういうのは大体が酒癖の悪いマスツー連中だ。
信楽辺りのコンビニ駐車場にバイクを並べ、他人の迷惑も考えずに撮影会をしてるノータリン達がそれに該当する。
「じゃ、お気をつけて」
撮ってもらうのは小っ恥ずかしくてお断りしたが、今考えてみりゃお願いした方が良かったかな?
そういやオレ、自分が写った写真なんか殆んど持ってなかったし、そういうのって結構勿体ないなと後から思ったりもするもんね。
そのうち思いきってお願いしてみるか、学ラン姿で。
(アカン、本降りになって来たな…)
それまでポツポツ程度だった雨は本降りに変わり、それと同時に強烈な浜風まで吹いて来た。
体感温度は15度くらいか?8月とは思えない寒さである。
(こりゃイカン!マジで吹き飛ばされそうやんか、どっか避難するとこ無いんか!?)
マップで調べると、現在地から3分ほど走った場所に道の駅があった。ひとまずはそこに避難だな。
「寒っぶ!」
昨日までの照り付ける様な日差しはどこへ行ったのか?
この調子じゃ暫く止みそうにもないし、小一時間ばかしここで雨宿りだな。
(あっ…そういや、今日泊まるとこも決めてなかったわ。どないしょ?)
【道の駅おが・オガーレ】は、幸いにも大きな道の駅だ。
WIFIには困らんし、割と広めな産直コーナーや露店もあり、最悪の場合は今いる待合室で一晩過ごす事も出来るだろう。
が、それはあくまでも最悪の場合だ。
山形の道の駅で会ったチャリダーの兄ちゃんなんかは、おそらくこういった道の駅の敷地でコソコソとテント泊し、ついでにコンセント泥棒しながら【本日の出費】とかをメモるんだろうが、それを50代のオッサンがやったら只の頭がおかしい人である。
オッサンはオッサンらしく、とにかく何でもいいから宿を探さねば。
(おっ?二時間チョイのところに民宿あるやんか。クチコミも多いし人気の宿かな?)
まだ午前中なのだが、この悪天候で早くも走る気力を失いかけているヤワなオレ。
いや、雨風だけならまだしも、そこに寒さが加わったらアウトでしょ。
つか8月の気温じゃねーぞ、コレ。
プルルルルルル…プルルルルルル…プルルルル、ガチャ
「ハイハイ、もしも~し」
「あ、もしもし?あの~、当日で申し訳ないんですが、今日泊まれるお部屋はありますか?一人なんですけど」
「ひどり?いいよ!そぐじはЁ#Ю§‡○ыа?」
「……はい?」
「ひどりでくんでしょ?んで、そぐじはゑы○ф◇ЁЮ‰ヰヰ?それども‡Ю§◎※■ゑにする?」
「え~っと……すいません、ちょっと電波が悪いみたいで聞き取りにくいんですが~、今日~、食事付きで~、泊まれる~、お部屋は~、ありますか~?一人なんですけど~」
「あるよ」
「助かります~、それじゃあ、15時くらいに着くと思いますので~、よろしく~、お願いしま~す」
あ、値段聞くの忘れた。
ま、エエか。
聞いたところで何言うてるか分からん。