前回の話はコチラ↑
「はい、初めて…というか、山形自体が初めてみたいなもんですけど」
すっかり出来上がっている大女将。
これがもし大阪で、しかもヤニっこいオッサンなら聞こえないフリでやり過ごすところだが、旅先の小料理屋だと許容量が増すのか嫌な気分にならないのが不思議だ。
「あ~んら大阪?お仕事?」
「いえ、ただの旅行ですよ」
そこから始まる質問責めにはどこに行ってもウンザリするが、なんせ相手は90歳近いバリバリの東北人である。話している言葉の7割は理解不能なのだが、逆にそれが新鮮というか楽しくなってきた。
「冷酒と……あ、ホヤがあるんですね?いただきます」
こっちじゃ普通に出回っているのが嬉しいホヤ。
大阪でも鶴橋なんかに行けば売ってるが、普通のスーパーではまず見掛けないもんな。
無類のホヤ好きであるオレにとっては天国だ。
「あんれ~?大阪の人はホヤ§ф◇ゑ‰を∈#ゑЁの~?」
「……はい?」
マジで何を言ってるのかが解らず、大女将が話す度に若女将へと視線を移すオレ。
「アハハッ♪大阪の人は普段からホヤ食べたりするの?って言ってるんですよ」
山形でこれだと秋田や青森じゃどうなってしまうんだろうと不安になって来るが、この解説付きのやり取りってのが楽しくて仕方がない。
やっぱいいなぁ、東北弁。
「あ~、いや、滅多にというか、まず売ってないですね。自分も宮城で食べてから好きになったんですよ」
「あ~、仙台には行った事があるんだ?」
「仙台というか、南三陸ばかりですね」
実は、今回のルートに南三陸は入っていない。
何度も通った思い出深い町だが………ま、その件に関しては後半で話そう。
「とにかく何か集まったら芋ばっかり食べてる感じですよねー、こっちは」
「あぁ、芋煮会ってヤツですか」
「そうそう、それは結構あるよねー。それくらいかな~?あっ、ラーメンにゲソ天!」
『それくらいかな~?』の後に色々出てくるのも山形あるあるなのかは知らんが、他にも『カモシカをよく見る』とか『メロンの大人食い』とか、思わず引き込まれる話が山盛り出て来たぞ?
(面白ぇなぁ~、山形♪)
この店で出会った常連さん達から、山形が一番いいでしょ!引っ越して来て下さいよ!てな事を何度も言われたが……そういうのってオレ、嫌いじゃないよ。
地元愛の強いとこって、何かいいよな。
「あとねー、押し入れ開けたらさくらんぼの箱がいっぱい入ってるよ。整理箱になってんの♪引っ越して来る?」
それがきっかけで引っ越して来る事は無いと思います。
「さて、それじゃそろそろ帰ります。ありがとうございました、楽しかったです」
「おぬぃいさん、またやんまがた∈ゑ‡〒Ёы◇……」
「こっちに来たらまたおいでねって言ってるよ」
「あー、ハイハイ。その時は必ず♪じゃあ、ごちそうさまでした」
(流石に夜は涼しいんやな~……おっ?コオロギ鳴いてるわ。こっちはもう秋か)
ホテルの方向へ寄り道しながら歩いていると、側溝の中から虫の声が聞こえて来る。
何だか知らんが贅沢だな、こういうの。家の近所じゃ滅多に聞く事も無くなったしさ。
(刺身ばっかり食ったしかな?何かビミョーに小腹空いて来たわ………せっかくやし本場の山形ラーメンでも食って帰るか?まだ早いしどっか開いてるやろ。ふうぅ~っ!それにしても上々の滑り出しやないか。やっぱオレの東北愛が神様に通じてんのかなー♪)
酔いも手伝ってか、気分上々で山形の夜を歩くオレ。
そう
この時までは。