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【ブルートレイン】という言葉は、確かオレが小学生から中学生までの間によく聞いていた。


息子と違って鉄ヲタな幼少期は過ごさなかったし、そもそも北松浦郡のド田舎にいる時は、佐世保駅までバスで一時間近くかかる様な場所だったのだ。

ブラウン管に映る新幹線やD51ならともかく、オレンジ色のディーゼルカーに牽かれて走る汽車など全く興味が無かった。








この日の宿は【ブルートレインたらぎ】
大人一泊3140円也。
 







何となく記憶にあるのは、【北斗星】【日本海】【明星】くらいか。
小学生になってからも、わざわざ寝台に乗って行くような場所に親戚はいなかったってのも理由の一つだが、オレ自身が初めて寝台列車に乗ったのは日本じゃなくてタイである。
首都バンコクから北部のチェンマイまで約14時間かけて走る列車は、日本で現役を終えた車両をタイが買い取った物だ。
子供の頃に乗った事がないので懐かしさとかは無かったが、片道三千円ほどでのブルートレイン初体験はまあまあ満足だった。







宿のすぐ近くにある温泉施設。
宿泊料に入浴券が含まれているのは有難い。





タイで寝台列車に乗ったのは、これまでに5回。
バンコク~チェンマイが2回で、バンコク~ノーンカーイが2回。あとはバンコク~スンガイコーロックが1回。
鉄道ファンには堪らない旅になるかもしれないが、オレの場合はバスが苦手だから列車にしただけ。
だからすぐ飽きたし、今はもう余程日程に余裕がある時くらいしか乗ろうとは思わんかな?
食堂車で白飯にピーナッツかけて食ってた白人青年をドン引きして見てた記憶があるが、それくらいしか印象に残ってないって事は、つまりそういう事なんだろうな。

風情はあるんだけどね。







風呂は広々してるし休憩室も清潔。
利用客の9割が地元のお年寄りって感じだった。湯は普通。





夏場の温泉にのんびり浸かれるタイプじゃないし、ちゃちゃっと体を洗ったら休憩室でグタ~。
やはりここへ来るのは常連が殆んどみたいで、何人かの爺さんから話しかけられる。
というか、ここに来る【見慣れない若者】はブルートレインの利用者だと周囲からバレている雰囲気さえあった。

が、それに対して『コロナの真っ最中にどーのこーの…』てな感じではなく、『今はヒマやろうけん、空いとって良かったなぁ』といった好意的な内容。
これといって特徴のある町じゃないが、同じ田舎でも地域性みたいなもんがあるんだろうか?
何だか知らんが溶け込みやすいぞ、多良木。






地元のスーパーで買った酢モツセットと刺身で晩酌タイム。
客室での飲食はNGなので、受付兼共有車両でノンビリ過ごした。




食堂車…って呼ぶには無理がある共有車両で、晩酌をしながら管理人さんと軽くおしゃべり。
風呂で話した爺さんから聞いていた通り、通常なら夏休みシーズンは予約も取りにくいとの事。
さして目立った観光スポットがある訳じゃないが、やっぱりコアな鉄道ファンには人気なんだろうな。




「あとはやっぱり家族連れの方が多いですね~。多分お子さんが鉄道ファンだったりするんですよ」



でしょうね。
その辺、痛いほど良く分かります。ハイ。



「でも今年はまだマシになりましたね、去年は本当にキャンセルの電話しか鳴らなかったんで」



そりゃそうだろうな。
ただでさえ住民の高齢化が進んでるド田舎だと、他府県からの旅行者なんかバイ菌にしか見えないはず。
この二年間は、どこに行ってもそういう視線を感じながら旅してたから良く分かります。ハイ。




「飲食店もねぇ、県外からの人お断りの張り紙ばっかりだったし」



ええ。
実はさっき何軒か見て来たんだけど、未だにそんな感じだったからココで食ってます。
久しぶりに酢モツ食えたから満足だけど(←九州名物)。




「やっぱり年寄りばっかりやし、感染したって事がバレたら近所の目が…ねぇ…」

「田舎はどこも同じですよ。でも、風呂では旅行者と分かってて話しかけられたりしましたけどね」

「あ~、もう慣れたっていうか、やっと当たり前になって来たんですかね?最初の頃は引っ越しもんですよ。感染したってバレたら」



うんうん、田舎はどこも同じだわな。
まあ、得体の知れない恐怖ってのは確かにあったし、実際に【感染→死のリスク】ってな風評図式が出来てた時期だったからね。
オレだって遺書書いたくらいだし、熱出た時は。






ま、こういうのは『ナメ過ぎず、恐れ過ぎず』なんだろうけど、それはそれで難しいよね。
オレは完全にもうエエやろ派にシフトしたけど、だからといってマスクするのを拒絶してる訳じゃないし。




「でしょうね。逆に大阪なんかは感染者数が多過ぎて通常に戻ってる感じがします。感染したって聞いても、『あ、そう』くらいな感覚ですよ。こっちとは人口が違うってのもありますけどね」

「あぁ……もう、こっちもそれくらいの感覚になったら、楽と言えば楽なんですけどねぇ…難しいですよね」





てな感じの会話をしてる間に、ふと見ると三席離れたテーブルで如何にも鉄ヲっぽい小肥りリュックの兄ちゃんがコンビニ飯をがっついてた。


(メシ食う時くらい帽子取って荷物置けや…)


と思ったが、よく考えたら食事中に新聞が欲しくなるオレも同じ様なもんか。

ま、趣味視点は違えど、彼は彼なりに一人旅を満喫してるんだろうな。





そこだけは同じ匂いがした。










ほろ酔い気分でスナックにでも行きたくなり、『どこかオススメの店あります?』と聞いたら答えに困ってた。
おやすみなさい。