暫く放置していた新ジャガから芽が出てきたのを見て、『遂にこの日が来たか』と思った。
更に、冷蔵庫でシワの入って来た人参を見て、『もはや逃げ道は無い』と呟いた。
ここ何日かは自炊する事さえ億劫になっていた私。
先日は餃子を三人前ほど持ち帰りし、【こちら側のどこからでも切れます】に騙され、またもやスウェットパンツにタレをぶちまけるという失態を犯してしまった。
この件については同じ思いをされた方が沢山いらっしゃるはずだ。是非ともそんな皆様方と力を合わせて集団訴訟を起こしたい。
もし私が裁判長なら、被告側の企業は即刻閉鎖。
又、一人当たりの賠償金額が7億を超える事だけは間違いない。
これを機に、是非とも私を最高裁判所のトップに推薦して戴きたいと強く願う。
さて、芽が出た新ジャガとくたびれた人参。
この2つを目にした時、『鶏肉と玉葱買って来なアカンか…』と思った私は子供舌である。
普通なら、『ベコ潰して玉葱さ抜いて来ねばなんね…』となるはずだが、カレーは一生食べなくてもいい私にとって、思い浮かんだのはクリームシチュー1択なのである。
例外として肉じゃがを思い浮かべた女性もいるだろうが、そういう方は最寄りの役場から表彰されるべきだと地元の村長さんにお伝え願いたい。
彩りにさやいんげんまで添えた人は、校庭に銅像を建ててでも称えられるべきだ。私は心からそう思っている。
私は以前、【カレーについて】という記事を書いた。
思いの外反響があったのは、カレーという食べ物がそれだけ皆さんの生活に浸透しているからだと推測する。
が、その一方で、シチューという食べ物はそれほど議論の場に入って来ないというか、寧ろ仲間外れにされている気がするのだ。
『お母さんは今、ママ友同士の話で忙しいから砂場でみんなと遊んでなさい。え?今日のごはん?今日はシチューよ、良かったわね』
そう言ってまたママ友同士の井戸端会議は再開されるのだが、これがシチューではなくカレーだとそうはいかない。
『あら、◯◯さんのお宅、今日はカレー?ルゥは何種類使ってらっしゃるの?』
となり、それを口火に侃々諤々とした見栄の張り合いが始まるのである(様な気がする)。
ところが、それがシチューだとそうはならない。
『あら、◯◯さんとこはシチュー?いいわね』
で終わるのだ。ルゥは何種類使うのかなど聞いた事がない。
『あら、ウチも今夜はビーフシチューなんですよ』
とか、
『ウチも明日はシチューの予定なんだけど、タンはどこで買ってるの?』
なんて話は聞いた事がない。
シチューと言えばクリームシチューで、中に入る肉は鶏と決まっているのである。それがシチューの素晴らしいところだ。
因みに、こういう話の流れで『ウチはハヤシライス』なんて事を言うのは厳禁だ。
返す言葉に困った年長ママさんの反感を買えばどうなるか?
おそらく二ヶ月後には隣町へと引っ越しせざるを得ない状況に追い込まれる事だって充分有り得る。
そこはしっかり注意して戴きたい。
また、シチューについては【ご飯にかけるかかけないか】という議論が度々壇上に上るが、その答えに寄っては町内格差が生まれる事もあるので対策が必要である。
『えっ?◯◯さんのお宅はご飯にかけるの?アタクシ、パンでしか食べた事が無いんだけど、それって美味しいの??』
と言いたがるセレブは意外に多いのだ。
特に多いのは地方の新興住宅地で、そういう所に住む中流以上の家にはこれ見よがしのフリルカーテンが掛かっており、そんなフリルファミリーの20%くらいは【パティスリー】と名乗るパン屋でバゲットや粉噴いた白パンを買い、それを紙袋からはみ出させて持ち帰る事で中流以上の威厳を維持している。
こういった方々と価値観を共有するのは非常に難しい事なのだが、バゲット自体はすぐにカビる物でも無いので、【近所限定の持ち歩きアクセサリー】として使い回しする事をおすすめする。
面倒に感じる方もいるだろうが、御近所付き合いは子供のためにも必要な事だ。出来る限りの努力はして戴きたい。
ご飯かパンかについては、【ご飯でしか食べた事ない】という家庭が最下層で、こちらは私の様に葱や豆苗の根っこを水につけておく人種である。
【時々パン】という人は、基本的に苦し紛れの嘘を付く人種によく見られる。
こういった事を口にする人は、スーパーのサッカー台から必要以上のナイロン袋を持ち帰るという特性が有り、それらを台所の下に付いている扉に引っかけたレジ袋に纏めがちだ。
そういう意味では最下層の私達より信用度は薄い。
【パン】と即答した人は中流以上だが、その中でも【バゲット】と答えた方は人間的に欠落している部分が多い。
まだ【フランスパン】という死語が出るなら取り返しもつくのだが、それだって安芸高田市レベルの町に限った話である。
中には『パン・ド・カンパーニュの中身をくりぬいて、それを器代わりにする』なんて言い出す不届き者もいるが、こういった事は国際結婚家庭にだけ許される特例であり、一般的な日本人の家庭がやると最下層からの突き上げを喰らう事になるので止めていただきたい。
器を食べるなんてのは野蛮人のやる事だ。少なくとも私はそう信じている。
結局のところ、【子供はご飯、大人はパン】とすれば誰もが頷くのだが……
本音を言えば、器ごと食べたい欲望を抑えられない今日この頃である。