ども。
行き付けの散髪屋で、その日の担当が口臭キツイ人だと財布を忘れたフリをして帰る50代のオッサンです。
今日も早朝から持ち帰りカレーの仕込みに追われておりますが、決してカレー屋ではありません。
決してカレー屋ではありませんが、多分普通のインド人よりカレー作ってます。
普通のインド人よりカレー作ってますが、作ってる本人はカレー好きではありません。
私の店は今月で11年目に突入しますが、いつの間にか勝手に名物化されていただけの話です。
職業柄、この世界に入った時からカレーにはウンザリしています。
それは何故か?
一気大量に仕込める賄いとして、一番楽だから。
更に、食材のロス対策としては格好の料理だから。
以上の理由で、昔から週1ペースで食わされて来たカレーという料理にはウンザリしています。
これから一生食えない事になったとしても、個人的には全く構いません。
そして、カレーにウンザリしている原因には、もう1つ最大の理由があります。
それは………
素人の癖にカレー作りだけは拘るアホが多過ぎるから!!
はい、マジです。特に仕事が休みの日の男どもに多く見られます。
そこの奥さん、あなた身に覚えありませんか?
「今日はカレーの気分やなあ……よし!パパがめっちゃ美味しいカレー作ったる!」
ハイ、心当たりありますよね奥さん。
付き合い始めた頃や、新婚当時ならまだしも、既に何年か前くらいからウンザリしてませんか?
無駄にテンションの上がった旦那にキッチンを任せるとどうなるか、もうお分かりですよね?
あなたが普段、どれだけ家計の予算と闘っているかなんて、全く興味の無い旦那にスーパーへ行かせるとどうなるか、もうお分かりですよね?
うんうん分かりますよ、そういう時はですね、こういう風に対応して下さい………
どうしてもカレー作りたいなら千円札1枚だけ持って行ってお釣り貰って来い!
買ったモノは使い切る!
使った調理器具は洗う!
シンクに溜まった生ゴミは捨てて、最後に拭き上げる!
と、まあこれだけ約束させる事が出来れば問題無いんだけど、料理を作るってのは最後の洗い物までがコミになってるからね。
世の中の旦那全員とは言わんが、およそ7割の家庭で似たような事が起きていると思う。
で、これは一般家庭だけじゃなくて飲食業界でもよくある事で、例えばオレが雇われ料理長だった頃、居酒屋でバイト経験がある程度の新入社員に賄いを任せると同じ様な事がよくあった。
無駄に3種類くらい市販のルウを買い、無駄にいつまでもオニスラを炒め、そのくせ無駄に市販のチャツネも投入し、最後にネスカフェの粉末やチョコレートで仕上げるという【バカ素人の四大要素】が詰まりに詰まった残飯が出来上がるのだが、オレはその度にその能無しに向かって説明しなきゃならんのである。
「あのな、○○君。オマエ自身が美味いと思うカレーの作り方を、いつ・どこで・誰に教えてもらったんかは1ミリも興味無いけど敢えて聞いとく。オマエは何でわざわざ市販のルウを3種類買って来たんや?」
「え……いや……家とかでも、オカンが作る時は………」
「うん、○○家のカレーは昔からそうなんやな?そうやろうと思った。んで、オマエのオカンもそうやけど、オマエ自身が市販のルウでカレーを作る時、今まで1回でもパッケージの裏に書いてある通りに作った事あるか?1種類のルウで」
「…いやぁ……多分無いと思います……」
「じゃあ、肉も野菜も裏に書いてある通りの分量で作ったカレーは食った事無いんやな?」
「…ああ……はい…多分…」
「いや、オレは別に怒ってる訳とちゃうねん。オマエに今日の賄いを任せたのはオレやしな。ただ、オマエは面接の時オレにこう言うたよな?『結構有名な居酒屋で3年くらい調理してたんで、基本的な事は出来ると思います』ってな」
「あ……それは、あの……」
「まずオレが疑問に思ったのは、基本的な事が出来るはずの元有名居酒屋キッチンスタッフが、何で市販のルウを無駄に3種類も買って来たんかって事が1つ。2つ目は、このクソ忙しい時間帯に、いつまでも賄いカレーのためだけにガスコンロが1つ塞がってるって事。そのために、他のスタッフが無駄な工夫を強いられてる事を、オマエは今日気が付いてたか?」
「あ……いえ……すみませんでした……」
「いやいや、怒ってるんとちゃうから謝らんでもええ。ただな、オマエがオレに『基本的な事は出来る』って言うたから、オレは賄いを任せたんや。オマエ、このカレーに使った市販のルウに、何十人っていうメーカーの開発チームが関わってるかとか、そういう事を考えた事あるか?」
「…いえ……無いです……」
「そやな?普通の素人はそんな事考えたりせえへんねん。だけどな?オレ達は一応プロやねん。毎日毎日美味しいカレーを開発しようと頑張ってるメーカーのチームもプロ中のプロやねん。そのプロ中のプロが研究に研究を重ねた結果が、商品化されたそのルウやねん。それを、裏に書いてある通りに作ったカレーを食った事もないオマエが、オカンとか友達とかから聞いた事を鵜呑みにして作ったのが今日のカレーやねんけど、そこら辺どう思う?」
「…考えた事も無かったです………」
「で、ついでにチャツネなんか買って来てるけど、こっちのルウには『チャツネ入り』って書いてあるで。何で別に買って来たんや?」
「…いや……すみません……何か、もっと美味しくなるかな……って思ってました……」
「最後にコーヒーとチョコを入れた理由は?」
「…はい……オトンがたまに作る時に、風味が良くなるって言ってて………」
「そんなとこやろな。まあええわ、次回また市販のルウでカレー作るなら、そん時は裏に書いてある通りに作ってみ?小麦粉から炒めたカレーを作った事無いんならオレが教えてやる。そっちの方が安上がりやしな」
と、まあ雇われ時代ってのは、ずっとこんな事の繰り返しであった。
だから余計に素人がカレー作りのウンチクを垂れ始めるとイライラするし、もう何十年と賄いのカレーを食い続けて来たので嫌になってしまったのである。
売る分には仕方がないんだけどね。
でも、どうせ食うなら普通の、しかも野菜ゴロゴロした家庭のカレーがいいな、オレ。
カレーって、本来そんなもんでしょ?