僕の家政夫マツモトくん 46


 
 

送信ボタン押したあと。

きっと今は仕事中で、すぐに返事は来ないだろうと思って学食へ向かった。


食事を食べ終えて、返信が来ているか確認したけどその画面は既読すらなってなくて。

そのまま午後の授業になってしまった。




返事が来ない。


送ってから四時間も経っているのに、なんの音沙汰もない。



「忙しいのかな…」



仕事中は携帯を持てないだろうし、確認できたとしても返信する余裕がないのかもしれない。

タイミングが悪かったのか、それとも僕から櫻井さんを食事に誘うなんてやっぱりダメだったのか。



「慣れないことはするもんじゃないな」



モヤモヤしながら目を伏せ、手の中の携帯へ視線を落とす。


いつまでも手にしてるから気になるんだ。

待っていれば、櫻井さんは絶対に返事をくれるはず。

そう思って、携帯をポケットにいれて授業に集中しようと顔を上げた。






90分の授業が終わり、足早に席を立つ人を横目に座ったままポケットに手をあてる。


結局、携帯が気になって集中できなかった。

ドキドキしながら携帯をとり、その画面を表示させた。



「あ、既読になってる…」



ボソッと呟いた瞬間、手にした携帯がブルブルと震えだして画面に“櫻井さん”という文字が表示された。



「え!?で、電話っ、」



予期せぬ事態に心臓が一気に跳ね上がる。


普通に、いつも通りに。

そう言い聞かせて、画面をタップした。



「も、もしもし」


「松本くん?今、大丈夫?」



いつもよりも、少し抑え目な声。



「…だっ、大丈夫です」


「あのさ、連絡くれた明日の件、なんだけど」



…ああ、これは。

良い返事ではないな、となんとなく感じた。



「…はい、」


「ごめん。仕事があって…」


「そ、そうなんですね。僕のほうこそ、突然お誘いしちゃって。すみません」



返事が遅いのはそうなのかなってちょっと思ってて。

だから言葉は自然と出てきた。

平然を装えたことにほっとしてこっそり息をつく。



「せっかく誘ってくれたのに、本当にごめんね。あ、でも明後日だったら、」


「あ…、ごめんなさい。明後日は予定があって…」


「そっか…」



タイミングが合わないなんてよくあること。

しかも忙しい櫻井さんと合うタイミングなんて、難しいに決まってるのに。


僕がもっと早く連絡しておけば…、ぐずぐずしていた自分が悪いんだ。



…行きたかったな。



「じゃあ、次の…来週のスケジュールみて連絡するね」


「え…?あ、はい」


「ごめん、時間だ。またね、松本くん」


「は、はいっ。また…」



通話が切れた瞬間、顔がぶわっと熱くなった。

来週、と言われたのが嬉しかった。



「思い切って誘って良かった」



僕って案外、単純な人間なんだな。

こうやって次を期待できる言葉をもらえただけで、誘ったことを後悔しなくなるんだから。