【テクニカル】日銀当座預金の増減要因について | 桜内文城オフィシャルブログ「みんなきさいや」Powered by Ameba

【テクニカル】日銀当座預金の増減要因について

8月13日付の下記日経記事に関し、Twitterで3つ、つぶやいてみました。財政・金融政策について140字×3tweetで十分な説明をするのはとても無理なので、その時は結論だけ端的に書きました。

  1. これこそ異次元の領域。社会会計の視点からは、①資産側の国債300兆円を無利子永久債化、②負債側の超過準備300兆円の付利ゼロ化があり得る。QT: 日銀の総資産500兆円、FRB超す 見えぬ緩和の出口:日本経済新聞

  2. 【ややテクニカル】負債側の日銀当座預金は、現金需要の増加時を除き、金融機関側の意思で減らすことはできない。付利ゼロ化により金融機関が日銀当座預金を他の資産に振替える場合、マネーストックが増加することはあっても、日銀当座預金の総額が減少することはない。
  3. 従って、異次元緩和の出口として、①日銀保有国債300兆円の無利子永久債化、②超過準備(日銀当座預金)300兆円の付利ゼロ化により、政府債務の資本化(Debt equity swap)という財政健全化策を実施すべきでは?現実として既に財政政策と金融政策は一体化している以上、これ以外のやり方があるのかなと。

すると、元・金融機関勤務の同級生から上記2について「なぜ?他の資産に振り替えても総額が減少しないとは?」とのツッコミが入ったので、回答を考えてみました。長文なので、今回はブログに掲載します。


さて、まずは日本銀行の下記ホームページをご覧ください。
日銀当座預金増減要因と金融調節(実績)

 

日銀のバランスシート上、負債側の主な勘定科目として、「銀行券」の他、銀行・証券会社・短資会社等の金融機関(以下、日銀の「取引先」という。)からの「当座預金」、そして「政府預金」(国庫金)があります。

このうち、当座預金残高の増減要因としては、複式簿記の仕訳のロジックから以下の4種類のみが認められます。

①他の金融機関(日銀の「取引先」)の間での資金決済
②銀行券要因:市中での現金需要の変動による「銀行券」の受払
③財政等要因:政府と金融機関との間での国債発行・償還等による「国庫金」の受払
④日銀の意思決定による金融調節:日銀とその取引先(金融機関)との間での「金融調節」(資金供給オペまたは資金吸収オペ)

但し、当座預金全体で見ると、①は当座預金内部でネットアウトされて当座預金全体の増減要因とはならないため、②銀行券要因、③財政等要因の他、④日銀の意思決定による金融調節によって増減することになります。

ここで、金融機関Aが日銀当座預金100を減らして他の貸付金等の資産に振替えたとします。

①他の金融機関B(日銀の「取引先」)との間の取引の場合、日銀当座預金の残高総額は一定のまま、日銀当座預金内部で金融機関(日銀の「取引先」)の間で振替が行われるのみです。

②銀行券要因:金融機関Aが貸付先企業Xに100融資した場合、貸付先企業Xに一定の現金需要(例えば10)があれば、その分だけ日銀当座預金から日銀券への振替(プラス10)が生じ、日銀当座預金は10減少します。但し、通常、貸付先企業Xとしては、金利ゼロの現金(日銀券)を保有するよりも、いくらかでも金利の付く銀行預金を選ぶはずです。貸付先企業Xがいずれかの金融機関(日銀の「取引先」)に預金した場合、最終的には①と同様、日銀当座預金の残高総額は従前の水準に戻ります。

③財政等要因:政府が国債100を発行し、金融機関Aがこれを引き受けた場合、金融機関Aの当座預金が100減少し、他方、政府預金(国庫金)が100増加します。但し、現在、日本銀行による異次元緩和とも呼ばれる④金融調節により、100以上の国債買入による資金供給オペが継続的に実施されているため、日銀当座預金の残高総額は常に増加し続けています。

④日銀による金融調節の場合はどうか。現在、米国のFRB(連邦準備理事会)は資産圧縮の検討を始めていますが、日本銀行は異次元緩和の出口の検討すらできない状況のようです。異次元緩和の出口とは、端的にいえば日銀当座預金の残高を減らすことを意味します。日本銀行が当座預金残高を減らすという意思決定をしない限り、金融調節(資金吸収オペ)によって日銀当座預金の残高総額が減少することはありません。

 

なので、金融機関(日銀の「取引先」)側の意思でできることは、そのバランスシートの負債側で銀行預金等の資金調達(マネーストック)を拡大し、その新しい資金を資産側で貸付金や投資等で運用することだけです。日銀当座預金の残高を減らすことができる手段は、複式簿記の仕訳のロジックからすれば(金融機関側の意思とは無関係な銀行券要因と財政等要因を除き)、日銀の意思決定による金融調節(資金吸収オペ)しか存在しないことになります。

【追記】上記③の財政等要因の場合、確かに金融機関(日銀の「取引先」)側の意思で国債100を引受けることにより、日銀当座預金100を減少させ、その分、国債100に振替えることができるともいえます。しかし、財政・金融政策を一体的に考える統合政府(政府と日銀の連結会計)の場合、金融機関(日銀の「取引先」)の日銀当座預金100が同じく統合政府の国債100に振替えられるだけであり、統合政府の外部(民間部門)に対する債権(資産)や、その財源となる銀行預金(マネーストック)が増加する訳ではありません。その後、日銀が金融調節(資金供給オペ)として国債買入100を実施することにより、結局、日銀当座預金は元の水準に復帰します。

という訳で、上記2の「負債側の日銀当座預金は、現金需要の増加時を除き、金融機関側の意思で減らすことはできない。付利ゼロ化により金融機関が日銀当座預金を他の資産に振替える場合、マネーストックが増加することはあっても、日銀当座預金の総額が減少することはない。」という結論が導かれるのです。

この他、ご不明な点等がありましたら、ご遠慮なくご質問をいただければ幸いです。