我が国の統治機構の仕組みを理解していなかった内閣総理大臣 | 桜内文城オフィシャルブログ「みんなきさいや」Powered by Ameba

我が国の統治機構の仕組みを理解していなかった内閣総理大臣

今週月曜(8月25日)の参議院本会議における代表質問の中で、内閣総理大臣の任にある者の発言としていかがなものかと考えざるを得ない答弁がありました。少し長くなりますが、正確を期すため、議事録の該当箇所を掲載します。

【桜内文城の問い】-------------------------
質問第三。内閣総理大臣とは何か。菅総理は、憲法上、内閣総理大臣の権限と責任が行政権、すなわち法の執行権に限定されていることをわきまえていらっしゃいますか。逆に言えば、内閣が既存の法律や予算を乗り越えようとする場合、民主主義のプロセスに従い、内閣から法案又は予算案を国会に提出しなければならない。そのことを理解していないからこそ、法律を無視する行政が繰り返されているのではないでしょうか。
ピーター・ドラッカー氏は、1939年に出版された処女作の中で、ナチズムの特徴を「権力は自らを正当化する」という点に求めています。これは、国民が選挙を通じてナチスとヒトラーに権力を与えた以上、ヒトラーの行うことは全て正しいという倒錯したロジックを意味します。
憲法の定める三権分立を無視し、国会の定める法律を無視する内閣総理大臣は、ヒトラーと同じ過ちに陥っているのではないでしょうか。菅総理にお尋ねします。
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この問いに対して、菅総理は三権分立を真っ向から否定する答弁を行いました。
【菅総理の答弁】-------------------------
憲法の規定の中には三権分立の規定はありません。国民主権がこの憲法の主眼でありまして、その国民主権を司法、立法、行政の三つの機能が分担しているというのが私の現行憲法に対する考え方であります。そして、国会は国権の最高機関と規定されております。それは、主権者である国民が直接に選ぶのは国会でありまして、その国会が内閣を選ぶ、つまり総理大臣を選ぶわけでありまして、そういった意味で、私が申し上げているのは、桜内さんが言われているのともしかしたら理解が全く逆転しているのではないか。つまり、私は、内閣は国会内閣制だと。国会が内閣を決めるし、もし国会が内閣がおかしなことをすればもちろん不信任案を出して辞めさせるか解散に追い込むことができるわけであります。
そういった意味で、何か私が国会や立法を無視して、何かヒットラーという言葉が出ておりましたけれども、そうした行動を取っているというのは、私の憲法の解釈とは全く逆の解釈をされているのではないかと言わざるを得ません。そういった意味で、民主党政権の目指す政治主導は、国民の生活が第一という政治を実現するために、まさに国民が選挙で選んだ国会が国権の最高機関として機能すべきだと、まさにここにおられる国会議員を含めて最も主権者に近い立場で大きな権限を持っていると、その下において内閣が構成されている、このように考えておりまして、是非、そういった私の考えに対する誤解は解いていただければと思っております。
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こともあろうか、我が国の内閣総理大臣が、国会、それも本会議で「憲法の規定の中には三権分立の規定はない」と明言したのです。そして、「主権者である国民が国会を選ぶ、その国会が内閣を選ぶ、つまり総理大臣を選ぶ」、「内閣は国会内閣制」といった言葉が並びます。要は、内閣総理大臣は主権者の代理人である以上、そこには三権分立による権力の抑制と均衡といった考えが入る余地はないと主張したかったのだと思います。

東洋史学者の宮崎市定氏の著作によれば、「中国では官吏登用のことを選挙というが、試験には種々の科目があるので、科目による選挙、それを略して科挙という言葉が唐代になって成立した」とあります。中国の官僚は、西洋の法で想定しているような行政官ではなく、皇帝の代理人として政治を行なう政治家だった。そこには立法権、行政権(すなわち法の執行権)、そして司法権という三権の区別はありません。菅総理が心に抱く宰相のイメージは、皇帝(主権者)の代理人という域を出ていないのではないでしょうか。

本日(8月26日)午後、菅総理が退陣を正式に表明する予定となっています。しかし、この1年余りの間、我が国統治機構の根幹さえも理解していない内閣総理大臣を戴いた国家と国民の不幸とその傷跡は決して消えることはないと思います。

今こそ、日本の政治を根本から創り直さなければなりません。日本国の国会議員として、日本の未来のあるべき姿と、それを実現するための道のりを提示するときが来ました。近々、僕自身の政治理念、ビジョン、そしてこれらを実現するための具体的な政策パッケージをお示ししたいと思います。